映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』 1969年5月13日の謎(1)

映画とテレビやパソコン画面の大きな違いは、見る者に与える情報量の多さの違いです。

この映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』の内容の大半は、三島由紀夫に多少なりとも関心を持っている人間ならば、既知のものでしょう。

しかし映画のスクリーンで観ることで、あの当時の空気感が(テレビやパソコンのモニターよりも)格段に伝わってきます。私にとって、この映画の一番の魅力はここです。

それは、三島由紀夫の持つ圧倒的なオーラです。

学生達が気圧され、思わず敵である三島を「先生」と呼んでしまったり、三島がタバコを咥えれば火を差し出しだしてしまうほどの存在感です。

そして何よりも、三島由紀夫のあの目、死の覚悟を決めた男の瞳とは、かくも美しく、哀しくそして優しいものかと思わざるを得ませんでした。これも今度の映画で初めて痛切に感じた事柄でした。

この“討論会”を録音した吉村千穎(ちかい)氏による述懐には、

討論会場では、三島さんの横顔しか見えませんでしたが、10年ほどたって、ビデオで三島さんの顔を正面から見て本当に驚きました。目が澄み切っていて、哀切な清純ささえたたえていました。三島さんは翌年の事件をぼんやりと予感していたのではないか、とひとり合点したことをよく覚えています

とあります。

この吉村さんという方は、新潮社で三島由紀夫の編集担当をしていた方の一人です。実際に三島を間近で接してきた方だけが感じ得た、ある種、特権的な感慨を、スクリーンを通じて私たちも感じることができるのです。

「この映像なら、もう何度も見たよ」と仰らず、ぜひ映画館で体感して頂きたいと、お勧めする次第です。

ただ私は吉村さんの上記の言葉に、一点だけ異議を差し挟みたいのです。「翌年の事件をぼんやりと予感していたのではないか」とありますが、私はあの時点で、三島由紀夫は自らが近いうちに死ぬことだけは、はっきりと心に決めていたと思います。

あの瞳に漂う静謐な美しさ、三島由紀夫が良く使う言葉を借りれば「澄明」な美しさは、死を自らに受け入れた人間だけが持つものです。決して才能だけの問題ではありません。

この“討論会”が行われたのは、1969年5月13日です。

この段階で、まだ形になっていない三島由紀夫の作品は、執筆中の「豊饒の海」第3巻『暁の寺』を除けば、『天人五衰』『蘭陵王』そして戯曲『癩王のテラス』を残すのみといった時期であり、人生の総決算期にあたります。

私は、三島由紀夫が自決を決心したのは(檄文にも記された)1969年10月21日だと思っています。

それは「死の方向にジリジリと引き寄せられた」といったものではなかったでしょう。

すでに三島の中には「生きる」という選択肢は無く、10月21日のデモで「戒厳令」が敷かれれば「治安出動の先兵となり騒乱の中で死ぬ」か、もし治安出動がなされなければ「決起し自決する」かの二択しかなかった筈です。

その辺りの事情は、『小説とは何か』という芸術論の中に、

私はこの第三巻の終結部が嵐のやうに襲つて来たとき、ほとんど信じることができなかつた。それが完結することがないかもしれない、といふ現実のはうへ、私は賭けてゐたからである。

とあります。

つまり、三島由紀夫は治安出動で死ぬつもりであった。だから、「豊饒の海」第3巻『暁の寺』は完結しないと思っていたのです。

しかしながら治安出動は不要になった。自分は死ななかった。『暁の寺』は完成してしまった。ならば後は自決あるのみ、という訳です。

“討論会”の時期は、近いうちに、何らかの形で自分は死ぬということを意識していた時期なのです。では、なぜこの差し迫った大切な時期に、三島由紀夫は学生との“討論会”に参加しようと思ったのでしょうか。

(続く)

三島由紀夫読詠会@中洲川端『美しい星』3/26(木)19:00-

日時:令和2年3月26日(木)19:00-20:30
会場:福岡市博多区上川端町12-28 安田第一ビル8F
( 福岡市営地下鉄「中洲川端駅」徒歩3分)
会費:500円(初回無料)

>>詳しくはこちらreimeisha.jp


石原志乃武(いしはら・しのぶ)/昭和34年生、福岡在住。心育研究家。現在の知識偏重の教育に警鐘を鳴らし、心を育てる教育(心育)の確立を目指す。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会幹事。福岡黎明社会員。

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