「企業内部活性化」や「雇用の安定」という言葉は、外国人労働者(ここでは主に技能実習生を想定)を雇用する際の「メリット」であった。
先ず「企業内部活性化」について、実際に企業の工場などを見て感じることであるが、現場における作業は比較的反復して行うものが多い。中には、互いに会話を交わすことが多くはない作業もあるだろう。
しかし、その場に外国人労働者が加わることで、日本人社員にとっても、よい意味で緊張感が生まれたり、職場の雰囲気が一新されたりすることも少なくはなかった。
最近は日本全体の長時間労働抑制の動きに呼応して、各企業も残業時間を「極力」抑える動きを取っている。とは言え、実習生を比較的多く雇用する中小零細企業、またそこで働く実習生にとって、残業は言わば「生命線」である。
その際、日曜・休日出勤の依頼にも二つ返事で快諾したり、また実習生の側から残業の申し出があったりすることを考慮すると、仮に日本人社員に頼んで嫌々ながら仕事をされるよりも、対価を払う価値はあるとも仰っていた。
実習生を受け入れている某企業の工場長によると、残業代などを加味した結果、実習生の給与が工場長を上回ることすらあったという。
仕事は山積しているが人材を確保できない企業と、「お金を稼ぐ」という明確な目的があるため休日出勤も厭わない実習生の「利害が一致」している典型的な例ではないだろうか。
また、これまでは実習生を雇用することで、日本人社員の残業時間を抑制できるというように「ワークシェア」の観点で実習生の雇用を行っている企業もあった。
生産性を第一に考えるのであれば、言うまでもなく所定時間内に所定の仕事を終わらせることが望ましい。残業代のために本来する必要のない長時間労働をすることは本末転倒である。
さらに、少し厳しい見方をするのであれば、「人材不足」を解消する手段として実習生を受け入れることが、事業継続という観点からして長期的にプラスなのかどうかという点も考慮しなければならない。
なぜなら、外国人実習生が日本で働くことができるのは、現状最長でも合計5年間に限られているからである。
一口に「人手不足」と言っても、不足しているのは、実際に作業を行う仕事なのか、それとも作業従事者を管理する仕事なのか。
仕事柄、ハローワークなどで求人の状況を見ることがある。もちろん「現場作業員」「製造作業員」といった職種もあるが、同時に「現場管理者」「製造管理者」のように、管理をする人材を求めている企業も相当数存在していることが分かる。
表現として適切ではないかもしれないが今後、「反復作業」は外国人労働者に任せて、日本人は管理面を含め、基幹業務を中心に従事するという働き方も、今まで以上に選択肢として増えてくるのではないか。
実習生は少なくとも3年間は与えられた持ち場を守ることが「前提」であり、その点で企業にとっては「雇用の安定化」が見込める存在であった。
実習制度についてはこれまで、既存職種では現状3年間という受け入れ期間の制限が設けられていた。これが2017年11月より施行の新制度により、実習生、受け入れ団体、受け入れ企業三方が一定の条件を満たすことで、受け入れの2年延長が可能となった。
実習制度を活用している企業は中小零細企業が多いと述べた。これは介護職についても当てはまることであるが、小規模な事業所ほど人材を必要としているにもかかわらず、人材が集まらない、離職率が高いというデータもある。
今でも、実習生の雇用を躊躇する企業の中には「3年では技術が身につかない」「仮に身についたとしても、3年で帰国してしまっては技術指導した甲斐がない」といった点を心配するところが少なくない。これは「雇用する以上は、できるだけ長く働いてもらいたい」という、企業心理の裏返しであろう。
さらに、「企業内部活性化」「雇用の安定」といった、これまで外国人労働者を受け入れる「メリット」であったはずのものが、むしろ「デメリット」に変質していきている。
実習生という、海外の若い人材が職場に加わることで、マンネリ化が打破され、企業が活気づく…、これが従来の定説であった。
もちろん、実習生は機械ではなく、一人の労働者である。彼・彼女たちにも生活があり、疲れて休みたい時もあるだろう。しかし、これは実習制度の現場にいて感じることであるが、ここ最近、状況が変わってきているように感じる。
例えば、残業を依頼されても渋ったり、ちょっとした体調不良で仕事を休んだり、といわゆる「ハングリー精神」に翳りが見え始めているのだ。
また雇用の安定にも、あるリスクが伴うようになった。それが「失踪」である。
技能実習制度を管轄しているJITCOのデータによると、2015年の失踪者(行方不明者)数は3,110人(対前年比0.9%減)。失踪する理由としては、職種のミスマッチ、生活上のトラブルなどが挙げられるが、中でも就業している企業での給与が、本人の想定よりも低かったという点が大きいと考えられる(給与未払いではない)。
<技能実習生の入国者(在留資格)数に対する実習生失踪者・不法残留者数の推移>
年度 | 平成24年 | 平成26年 | 平成27年 | 備考 |
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新規入国者数 | 83,929 | 98,695 | 112,706 | 在留資格「研修」含む |
在留資格者数 | 155,206 | 167,626 | 192,655 | 228,588(平成28年末現在) |
失踪者数 | 2,822 | 3,139 | 3,110 | |
不法在留者数 | 2,830 | 4,679 | 5,904 | 6,518(平成29年1月現在) |
出典:JITCOデータ他
彼らは、スマホなどの最新機器を駆使し、既に日本に滞在している知人、親戚など日本国内に張り巡らされている独自のネットワークを活用し、水の高き所から低き所へ流れるが如く、給与が高い職場へと高飛びをしていく。
技能実習生は就労資格のある在留資格「技能実習」を有し、留学生が資格外活動として制限時間内で行うアルバイトとは異なり、本来であれば正々堂々と就労できる。
しかし、それもあくまで、当初受け入れ先として雇用契約を結んだ企業での就労に限られるのであり失踪はれっきとしたな「契約違反」なのである。
現状、技能実習生は一度、ある企業に赴任すると、賃金未払いや、劣悪な職場環境と言った「よほどのこと」がない限り、3年間は同一の職場で働く※。
企業にとっては、例え3年間という限られた期間であっても、少なくとも3年間は「持ち場を守る」ということが実習生を雇用する大きな理由の一つであった。それが実習期間途中でいなくなられたのでは、たまったものではない。
法務省入国管理局の統計によると、平成29年1月1日現在の不法残留者数は、全体で65,270人であり3年連続の増加という「不名誉な」数字になっている。
在留資格別にみると、「短期滞在」が66.7%と圧倒的に多いが、その次が技能実習生の6,518人で10%(前年比10.4%)の増加という状況である。
数字の上からすると、誤解を恐れずに言えば、残念ながらこの制度自体が外国人の不法残留を助長する選択肢の一つになってしまっているのではないだろうか。
現在、政府は「一億総活躍社会」に向け、「働き方改革」を推進している。長時間労働の改善、正規・非正規の格差是正など取り組むべき課題は多い。
昨年、外国人労働者の数は初めて100万人を超えた。とは言え日本人を含めた全体の就業者数(約6,400万人)からすると、その割合は約1.6%と決して大きくないかもしれない。
しかし、その約100万人がいることで成り立っている仕事があることも、また事実である。メリットであったことが、デメリットに変容しつつある現状を踏まえ、外国人労働者の雇用の在り方、同時に我々日本人の働き方を再考する必要があるのではないだろうか。
※この点について、職業選択の自由が奪われているといった人権的な側面からの議論もあり、新制度移行後(2017年11月1日)は、実習生が希望する場合、相談の上、本人が就業先を選ぶことができるようになる。