令和5年9月15日、恐るべきニュースが配信された。
国土交通省は15日、新たに過疎地などでの個人タクシーの営業を認め、運転手は80歳を上限にすると明らかにした。現在は人口がおおむね30万人以上の地域で、原則75歳まで。運転手不足に対応し、地域の移動手段を確保する。
共同通信「個人タクシー、過疎地で80歳まで営業容認」
かつて個人タクシーに年齢上限は無かったが、平成14年の法改正に伴い国交省通達が更新され、75歳までしか営業できなくなっていたようだ。(3年更新なので、理論上は78歳になるまで営業できるという説もある)
ただ、法人タクシーの場合は法定の年齢制限がなく、会社の就業規則に任されている。定年制のある大手はともかく、中小の法人タクシーには75歳超のドライバーを雇用している例も見られる。
「免許自主返納」の勧奨に逆行
一方で、警察庁は「70歳以上の高齢ドライバーによる交通事故が社会問題化している」などとして、高齢ドライバーの運転免許を「自主返納」されるキャンペーンを行なっている。
加齢による視野障害、身体機能の低下、筋肉の衰えによって運転時の操作ミスが惹起される。「ハンドルやブレーキなど不適切な操作による交通事故の割合は、75歳以上の高齢者は一般ドライバーの約2倍」(警察庁)との過去データを示している。
そんな中、国交省は一片の通達によって75歳から80歳のタクシードライバーを量産しようというわけだ。「運転手不足に対応し、地域の移動手段を確保する」との狙いが報じられているが、いかがなものか。
「ライドシェア」という黒船
タクシー業界の高齢化は今に始まった問題ではない。近年はコロナ禍の影響で一時期タクシー需要が激減し、高齢ドライバーが感染を恐れたこともあって引退が進んだ。現在は需要が復調したことで運転手不足が一挙に表面化している。
一方、自民党の菅義偉元首相や日本維新の会などは「ライドシェアの解禁」を主張している。ライドシェアとは一般ドライバーが有償で他人を「相乗り」させるサービスで、米国ではウーバーなどが普及。日本の現行法では「白タク行為」となり違法だが、法改正で規制緩和しようというものだ。
日本のタクシー業界は近年、ライドシェア解禁に神経を尖らせてきた。業界団体を通じて自民党などに解禁しないように働きかけている。そのロジックは「素人に旅客業をやらせるのは危険」というものだ。
まさに日本の縮図
いたずらに定年や年金受給年齢を引き伸ばし、規制によって変化を阻む構図は、日本の政治経済においてあらゆる場面に見られる現象だ。その結果が過疎化と少子化であり、人材不足だろう。
もちろん、「ライドシェア解禁」が最適解とは限らない。米国のように消費者の自衛意識が強い国民と、安全信仰の根強い日本国民では、トラブルが生じた際の衝撃度が違う。消費者の側も意識を変えていくことが求められる。
少なくとも私は80歳のドライバーが運転する車両には絶対に乗りたくない。もしライドシェアが解禁されても積極的には利用しないだろう。むしろ早く無人運転が実用化されることを望んでいる。
タクシー業界も既得権を守ることに専念するのではなく、これまでの知見を活かしてイノベーションを起こす努力をしたらいかがだろうか。
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