トランプ大統領が「武士の国」と呼んだ日本に、武士はいるのか?

平成29年11月5日、アメリカ合衆国の第45代大統領であるドナルド・トランプ氏が就任後初来日した。

エア・フォース・ワンで来日したトランプ大統領は横田基地で米軍及びわが自衛隊将兵を前に演説。さらに天皇皇后両陛下に謁見、安倍首相や拉致被害者家族らとも会談し、引き続きアジア歴訪のため7日に出国した。

トランプ大統領は来日に先立ち、米メディアFOXニュースのインタビューに答え、「日本は武士の国だ。私は中国にも、それ以外に聞いている皆にも言っておく。北朝鮮とこのような事態が続くのを放置していると、日本との間で大問題を抱えることになる」と語っている。

インタビューの原文は以下のとおり。

“Japan is a warrior nation, and I tell China and I tell everyone else that listens, I mean, you’re gonna have yourself a big problem with Japan pretty soon if you allow this to continue with North Korea,”

直訳すると「日本は戦士(warrior)の国」と呼んだわけだ。日本のメディアはこれを軒並み「武士の国」と意訳している。

トランプ大統領がわが国を買い被りすぎのようにも思える発言だが、産経新聞は以下のように報じている。

外交筋によると、トランプ氏は8~10月、東南アジア諸国首脳らとの電話会談や直接会談で、北朝鮮への圧力強化策を協議。その際に「自国の上空をミサイルが通過しているのに、なぜ撃ち落とさないのか」「武士の国なのに理解できない」など、日本が破壊措置を取らなかったことへの不満を口にしていたという。(11月5日

天皇陛下に謁見するトランプ大統領

つまり、トランプ大統領がわが国を「武士の国」あるいは「戦士の国」と呼ぶ背景には、わが国が対北朝鮮政策の中で軍事オプションも含む、主体的直接行動をとることへの期待がある。

国連総会での演説で、拉致被害者である横田めぐみさんの名前を口にし、訪日に際して拉致被害者及び拉致被害者家族と面会したことも、大統領なりの強烈なメッセージだ。

いうまでもなく、米国を含む国際社会は北朝鮮の核ミサイル開発に強い脅威を感じている。それに対し、安倍政権は核ミサイル問題だけでなく、拉致問題も考慮するよう米国政府に働きかけてきた。

一方で、拉致被害者を救出するために北朝鮮に自衛隊を送ることはできない、というのが、安倍首相を含む日本政府の公式見解である。国民の生命を守るための行動を、「日本国憲法が禁止している」という憲法解釈である。

安倍政権は安保法制の整備を通じて、自衛隊が米軍の軍事行動をより緊密に支援できるようにした。実際には法律を変えたのみで、予算も訓練も不充分と言われているが、仮に朝鮮半島有事となった場合、わが国にとって対岸の火事とはいかない。

そこで問題になるのが憲法改正だ。安倍首相が今年の5月に提起したように、現行の憲法9条に「自衛隊を追記」することで、わが国は「武士の国」になれるのだろうか?

ところで、かつて自衛隊を「武士」と呼んだ日本人作家がいた。三島由紀夫である。

「われわれは今や自衛隊にのみ、真の日本、真の日本人、真の武士の魂が残されているのを夢みた」

「われわれが夢みていたように、もし自衛隊に武士の魂が残っているならば、どうしてこの事態を黙視しえよう」

「我慢に我慢を重ねても、守るべき最後の一線をこえれば、決然起ち上るのが男であり武士である」

「この上、政治家のうれしがらせに乗り、より深い自己欺瞞と自己冒涜の道を歩もうとする自衛隊は魂が腐ったのか。武士の魂はどこへ行ったのだ」

「われわれは至純の魂を持つ諸君が、一個の男子、真の武士として蘇えることを熱望するあまり、この挙に出たのである」

以上、いずれも「楯の会事件(三島事件)」でばら撒かれた『檄文』からの引用だ。およそ3000字の短い文章の中に、「武士」という言葉が5回も登場する。

三島由紀夫(中央)と楯の会決起メンバー

三島由紀夫は晩年、およそ100名の学生からなる民間防衛組織「楯の会」を結成し、自衛隊の協力を得て軍事訓練を行った。

当時は全学連など極左学生運動が隆盛を極めており、ソ連の脅威もあって、日本でも革命前夜といった雰囲気に包まれていた。楯の会は、それら極左集団による暴力革命を体を張って阻止するために結成された。

さらに三島由紀夫は、暴力革命を阻止するために自衛隊による「治安出動」を実現し、そのまま自衛隊によるクーデター=憲法改正を目論んでいた。しかし予想外に革命運動が盛り上がらず、自衛隊にも楯の会にも出番が訪れなかった。

三島は、自衛隊が自分たちの思い描くような「武士」であるなら、クーデターを起こしてでも憲法改正を実現すべき、と考えたわけだ。しかし当然ながらと言うべきか、自衛隊は決起せず、三島由紀夫と楯の会は自決によって訴える他なかった。

トランプ大統領のいう「武士(warrior)」と、三島由紀夫のいう「武士」が同じであると断ずることはできない。しかし共通しているのは、江戸時代までの身分制度としての武士ではなく、人間としての決断や行動についての「呼び名」であるということだ。

そして江戸時代においても、武士の身分制度は決して固定的なものではなかった。誰でも武士になることはできたし、武士の家に生まれても武士になれない(武士とみなされない)ことがあった。

すなわち、武士とは教育と自己修練によって「成る」ものであったし、死に方(=生き方)によって真の武士であったか否かを評価されるものであった。だからこそ戦後社会にありながら、三島由紀夫は武士になろうとして死んだ。

朝鮮半島情勢は風雲急を告げている。そして北朝鮮には1000名近い日本国民が拉致誘拐されている。かつてアメリカ占領軍は日本を非武装化し、占領憲法を押し付けた。しかし今や米大統領自ら、日本が「武士の国」として復活することを願っている。

このような時こそ、三島由紀夫が何をもって「武士であれ」と叫んだのか、武士ならばどう行動すべきなのか、考え直すべき時ではないだろうか。

11月25日は「楯の会事件」のあった日だ。この日の前後、全国各地で三島由紀夫らの慰霊祭「憂国忌」が開催される。興味のある方は足を運んでみてはいかがだろうか。

本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

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