誤解されている「政教分離」、国教を定めている国も意外に多い?

安部有樹
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伝統的に、政治と宗教は切っても切り離せない関係がある。憲法などで「政教分離」を謳いながら、実際には宗教が政治に大きな影響を与えることが多い。

そもそも「政教分離原則」は、国民の「信仰の自由」を保証するために導入された。

「政教分離原則」は、フランスでは「ライシテ(国家の非宗教性、宗教的中立性の原則)」に基づき、憲法(1958年)で概念的に強化された。アメリカも憲法修正第一条に於いてその目的を定めており、日本においては憲法第20条に謳われている。

現在、神道は日本の国教ではないが、明治時代初期に「神祇官(省)の設置」「神仏分離令」など、神道の事実上の国教化を図る動きがあった。しかし、仏教界との関係悪化等の理由により実現しなかった。

戦後日本では、左派が「靖国神社への首相参拝」などを巡って違憲訴訟を提起する事例があり、より厳密な「政教分離の実施」を求める傾向が強い。

意外に多い?世界各国の「国教」

現在、世界で、ある特定の宗教を国教と定めている国は下表の通りである。特徴として「一神教」が多いことが挙げられる。

宗教宗派国名
キリスト教ローマカトリックバチカン市国
アルゼンチン
コスタリカ
マルタ
スペイン
正教会ギリシャ
フィンランド
キプロス
イングランド国教会イングランド
ルター派アイスランド
デンマーク
フィンランド
長老派スコットランド
イスラム教宗派指定なしジブチ
イラク
チュニジア
バングラデシュ
パキスタン
スンニ派アルジェリア
コモロ
エジプト
ヨルダン
リビア
モーリタニア
モロッコ
カタール
ソマリア
アラブ首長国連邦
アフガニスタン
ブルネイ
モルディブ
マレーシア
ワッハーブ派サウジアラビア
シーア派イラン
イバード派オマーン
スンニ派及びシーア派クウェート
イエメン
バーレーン
仏教スリランカ
ブータン(大乗仏教)
カンボジア(上座部仏教)

なお、イスラエルに於ける「ユダヤ教」、インドに於ける「ヒンドゥー教」はそれぞれ国教ではなく、「民族宗教(特定の民族・人種にのみ信仰されている宗教)という位置づけである。

キリスト教は当時のローマ帝国に於いて、313年の「公認」、381年のコンスタンティノープル公会議を経て、392年に初めて国教と定められた。

その後、ローマ帝国は395年、東西に分裂。西ローマ帝国は476年、傭兵隊長オドアケルによって滅ぼされたものの、東ローマ帝国はビザンティン帝国と名を変え、1453年、オスマン帝国に取って代わられるまで、約1000年の長きに亘り存続した。

キリスト教の精神に基づいたドイツ大統領演説

ここで、一つの事例に言及したい。

それは、1985年5月8日、当時の西ドイツ(1990年に東西統一)ヴァイツゼッカー大統領が議会において行った「荒れ野の40年」と題した演説である。ヴァイツゼッカー大統領は次のように切り出した。

「5月8日は心に刻むための日であります・・・」

1945年5月8日は、ドイツが降伏文書に調印した日である。その4年後(1949年)の同日には、ドイツ基本法(暫定憲法)が制定されている。

この演説で、第二次世界大戦に於ける自国の戦争責任に対する姿勢としてしばしば取り上げられる部分が、

「過去に目を閉ざすものは結局現在にも盲目になります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです」

という文言である。実はこれには続きがあった。大統領は若者たちに向けて、

「他の人びとに対する敵意や憎悪に駆り立てられることのないようにしていただきたい。敵対するのではなく、たがいに手をとり合って生きていくことを学んでほしい」

と訴えていた。

▽引用元:「荒れ野の40年 ヴァイツゼッカ―大統領演説全文 1985年5月8日」(岩波ブックレット刊)
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ヴァイツゼッカー大統領(1920-2015年)

ヴァイツゼッカ―大統領自身、キリスト教民主同盟(現メルケル首相が党首の政党)に属していた。上記の演説には、「敵を愛せよ(ルカによる福音書)」というキリスト教精神が込められていたのだ。

政治と宗教は切り離せない

現在の日本で、政党名に宗教名を冠した政党は存在しない。宗教政党は存在するが、その母体は仏教系の新興宗教にすぎない。

今後我々が政治と宗教との関わりを考える際、やはり日本人にとって共通理解の基盤となり得るのは「神道」をおいて他にない。これまでのような過剰な「政教分離政策」は、日本人が自身を知る妨げになるだろう。

例えば、公教育において神道を教えるなど、国民の多くが神道への理解を深めるための新しい試みが必要だ。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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