令和5年6月13日、いわゆるLGBT法案が衆院で自民党・公明党・日本維新の会・国民民主党などの賛成多数により可決された。同法案はLGBTなど性的少数者への理解増進を目指す議員立法で、まもなく参院に送られる。
LGBT法案は当初、「自民公明案」「維新国民案」「立民共産社民れいわ案」の3つが存在した。
自民党内の一部保守派が棄権
このうち、「自民公明案」の国会提出に際して、自民党内で強引な承認手続きを行なったことから一部保守派が反発。この反発を抑えるため、自民執行部が「維新国民案」を丸呑みする形で急遽法案を修正し、衆院に提出した経緯がある。
それでも一部反対派は保守層の声を背景に反発を続け、党執行部に党議拘束をかけないよう求めていた。最終的に衆院で造反者は出ず、数名が採決を棄権するに留まった。
反対派の一人である高鳥修一衆院議員(元厚労政務官)は採決時、体調不良を理由に退席して棄権。同日、自身のTwitterで「LGBT法案、大山鳴動してネズミ一匹となりました。ご心配頂いた皆さんに感謝申し上げます。私は大丈夫ですのでご安心下さい。若い同志を責めないで頂きたい」とコメントした。
「大山鳴動して鼠一匹」とは、大騒ぎした割に結果は取るに足らないことを意味する外来のことわざだ。つまり、「LGBT法案で大騒ぎした割に、できた法案は恐るべきものではない」という認識を示した。「若い同志を責めないで」というのは、党議拘束により賛成に回った反対派を意味するものと思われる。
法案が参院で採決される際にも、自民党内反対派から造反者が出るか注目される。解散風が吹くなか、保守層の反発を受けた形の自民党は波乱含みだ。
「差別禁止」にこだわる野党左派
「自民公明案」「維新国民案」が急転直下で合体したことで慌てたのが立民など野党左派だ。今回の衆院採決にあたって立民・共産・社民・れ新は反対に回った。
そもそも、野党左派はLGBT超党派議連を主導し、過去に複数回、LGBT法案を国会提出している。今国会には「自民公明維新国民案」と「立民共産社民れいわ案」の2種類のLGBT法案が提出される形となった。
従来、議員立法は全会一致で可決される慣例があることからすると、国論が分断されたともいえる。野党左派を支持するLGBT活動団体などは、衆院を通過したLGBT法案について「より差別が増長しかねない」などと反発し、あくまで「理解増進ではなく差別禁止の法制化」を要求している。
結果的に、野党左派は法案成立の実績を与党と維新・国民民主に奪われる形となりそうだ。
注目すべき「改革中道路線」
そもそも「自民公明案」と「立民共産社民れいわ案」の隔たりは大きかった。そこで出てきたのが第三の道「維新国民案」である。最終的に衆院で可決された修正案は事実上、この「維新国民案」だ。
例えば、「自民公明案」では【性同一性】と表現していた条文を、「立民共産社民れいわ案」では【性自認】としている。国民民主党の玉木雄一郎代表は自身のYoutubeで「性同一性と性自認は英訳すればどちらもGender identityとなり、同じ意味だ」と指摘。「維新国民案」ではカタカナで【ジェンダー・アイデンティティ】と表記された。
自民党が【性自認】ではなく【性同一性】を採用したのは、後者に医学用語である【性同一性障害】を連想させるニュアンスがあるためで、要するに保守層を宥めるためだった。しかし法的に【性同一性】に【性同一性障害】の含意はない。
さらに、「維新国民案」はLGBT法案に対する一般国民、とりわけシス・ジェンダー女性の不安払拭のための努力が反映された。
LGBT法が成立すれば、トランスジェンダー女性(肉体的には男性だが、心は女性)を詐称する性犯罪者(男性)が増加するのではないか、という懸念である。そこで維新・国民民主は「すべての国民が安心して生活することができるよう留意する」という条文を追加したのだ。
また、与野党両案にあった「民間団体の活動促進」について、公金が一部活動家に不当に流れることなどへの懸念を念頭に削除された。
そもそも、「LGBTなど性的少数者への不当な差別が国内に存在しており、それら差別を解消する」という認識と目的は与野党が共有している。立法はその目的を達成するための手段に過ぎない。今後問われるべきは、法律の運用、とりわけ地方自治体ごとの取り組みだ。
さまざまな問題で与野党が激しく対立し、最終的に与党が「数の力」で押し切る不毛な政治風景は、維新・国民民主の改革中道派が伸長したことで大きく変わろうとしている。LGBT法案を巡る騒動は、奇しくもそのことを明らかにした。
コメント