森喜朗氏の謝罪会見「より深刻な問題」とは

東京五輪組織委・森喜朗会長の問題発言が尾を引いている。謝罪会見の何が問題だったのか、広報の専門家として解説する。

森喜朗氏は現在83歳で元衆院議員、元首相。現在は東京五輪組織委員会会長。JOCと組織委員会は一応別組織で、前者は常設組織、後者は東京五輪後に解散する時限組織だ。

発言は2月3日、JOCのオンライン会議(マスメディアも傍聴を許可されていた会議)で出た。森会長はJOCに組織委員会を代表して参加し、会議の最後に約40分間発言している。私はこの時の発言全文を確認したが、全体的に要領を得ない内容だった。

女性差別の意図はあったのか

問題発言とされているのは「女性の話は長い」というものだが、実際には他人の発言を引用したものとして森会長が述べている。「女性の話は長いという声もあるので配慮しなければならない」「女性の発言については時間制限すべきという意見がある」などだ。

前提として、世界では閣僚や企業幹部など組織管理者について男女比を対等に近づけようという動きがあり、森会長としては「無理にそれをやると(スポーツ団体などの)組織運営が大変になるのではないか」という持論を述べた形だ。

森会長に女性蔑視の意図があったかどうかについて、当日の発言だけで判断することは難しい。「女性の話は長い」というのはあくまで(それも他人の)主観・印象に過ぎない。

高齢男性にありがちな「無自覚な女性差別」が表出し、世間がそれを問題視したということは止むを得ないと考えるべきだろう。

それでも解任されない理由

組織委としては森喜朗氏を会長職から退けさせる意思は今のところない。それは、日本のスポーツ界にとって森会長の存在が極めて大きいためだ。それだけ森氏が日本スポーツ界の発展に貢献をしてきたということである。

特に東京五輪を成功させる上で、五輪関係者が森元首相の存在を必要としていることは事実だ。実際、森会長は国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長とも親しいとされている。「東京五輪を成功させるためには、いま切るわけにはいかない」という見方もある。

日本の近年歴代政権にとって森元総理の存在は極めて大きいことからも、スポーツ界がその政治力に期待、あるいは依存してきたと言える。

しかし森元総理は非常に失言が多い人物としても従来から知られている。失言の原因としては多くの場合「その場のリップサービス」である。森元総理の政治力を利用したいスポーツ界の気持ちはわかるが、森氏は基本的に表に出してはいけない人物なのだ。

森氏は裏方で仕事をする方がふさわしい。実際、五輪招致やスポーツ振興のために裏方として多くの業績があるといわれている。それをトップに置けば、どうしても表に出さざるを得なくなる。

マスコミの「切り取り」

今回ポイントとして考えるべきは「広報機能」だ。組織委にも広報局という専門部署がある。にも関わらず、今回のような騒動が起きたということは、組織運営上かなり深刻な問題であると言わざるを得ない。

特に4日の「謝罪会見」は失敗だった。

各メディアは謝罪会見を報じる際、記事に「逆ギレ」「居直り」など辛辣な見出しをつけて配信した。同時に掲載された写真は、あたかも森会長が記者に向かって暴言を吐いているようにも見えるものが使用された。

記者会見の一幕。いかにも「逆ギレ」しているように見えるが実際には違う。

私は約20分の謝罪会見をノーカットで見たが、一度目はこの写真のシーンに気づかなかった。もう一度よく確認してみると、質疑応答の中で森会長が近くの記者を指名する「一瞬の仕草」を収めたものだと分かった。

実際、森会長は粘着質な質問を繰り返す記者に対して「面白くしたいから聞いているんだろう?」などと言っているが、写真のシーンは淡々と質問を促している場面に過ぎなかった。

何が言いたいかというと、報道ではこのように「切り取られる」ということだ。記者やカメラマンは「絶妙な一瞬」を狙って、自分が書きたい記事を「補強・装飾」するのである。

映像で見ればそうでもないが、写真でみるといかにも悪辣に見えるように、一瞬の動作や表情をマスメディアは見逃さない。よりセンセーショナルに見える方が、マスメディアは多くの読者や視聴者を獲得できるからだ。

「危機管理広報」の欠如

そもそも、謝罪会見を立って行なったことに違和感を覚えた。囲み取材ならともかく、謝罪会見を立って行なった例はあまり無いのではないか。引きの映像を確認すると記者も立って取材していたことが分かった。「三密」を避けるためか、床に制止線が貼られ、森会長と記者の間にかなりの距離がとってあることも確認できた。

なぜ謝罪会見を「立って」行ったのか?

謝罪会見の報道写真を見ると、かなり低い位置から撮影されたものもあり、その写真を見ると森会長がふんぞりかえっているように見える。

広報対策としては、写真や映像の構図を計算して会見場をセッティングしなければならない。その場合、謝罪する本人がメディア関係者に対して低い位置になるようにセッティングする。

上から写真や映像を撮れば反省しているように見える。下から撮れば当然、ふんぞりかえっているように見える。全く同じ姿勢でも真逆の印象を与えるのである。このような広報上のセオリーが守られていない会見であった。

謝罪会見の冒頭では森会長が文書を朗読しているが、その時の発言を見ると「あまり反省をしていない」印象を与えるものだった。原稿に問題があったのか、あるいは森会長が原稿の一部を勝手に端折ったのではないかとも考えられる。

企業でも政治家でも失敗や過失は付き物だ。このような時に行うべきダメージ・コントロールには技術が必要で、これを「危機管理広報」と呼ぶ。

「東京五輪組織委員会」には選手のフォローや集客、競技会場管理など、五輪に関するあらゆる仕事がある。その組織にこれだけ広報能力が無いということは、東京五輪を開催する上で大問題だ。まさに組織委員会のガバナンスが問われるべきだろう。

森会長発言の是非論以上に、組織委の広報力欠如を是正する必要がある。これを放置していれば、今後日本の国益を左右する事態になりかねない。

この記事は2月8日に生放送されたYoutube番組「未来解説」で述べた内容をもとに作成しました。

本山貴春(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。独立社PR,LLC代表サムライ☆ユニオン準備委員長。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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