これまで岸田首相は「総裁任期中の憲法改正」を度々公言してきた。自民党総裁任期は令和6年9月までだが、首相は果たして公約を果たすことができるのか。
令和5年10月20日に召集された臨時国会は、憲法改正へ向けた試金石となる。岸田首相は国会冒頭の所信表明演説で、憲法改正について以下のように言及した。
「あるべき国の形を示す」国家の基本法たる憲法の改正もまた、先送りのできない重要な課題です。先の国会では、衆・参両院の憲法審査会において、活発な御議論をいただきました。このような動きを歓迎します。憲法改正は、最終的には、国民の皆様による御判断が必要です。国会の発議に向けた手続を進めるためにも、条文案の具体化など、これまで以上に積極的な議論が行われることを心から期待します。
首相官邸HP
これに対して各党から代表質問が行われ、日本維新の会の馬場伸幸代表と国民民主党の玉木雄一郎代表が、憲法改正にかかる首相の、自民党総裁としての姿勢を質した。維新の馬場代表は「任期中に改憲できなければ、次期総裁選に出馬しないと宣言すべき」とまで迫っている。
これらの代表質問に対して岸田首相は「自民党総裁として、総裁任期中に改憲したいという思いに変わりはない。党内議論を加速させ、責任を持って取り組む」と明言した。
この臨時国会が勝負
国民民主の玉木代表は、代表質問の中で以下のように指摘した。
岸田総理が公約どおり今の任期中に憲法改正を実現するのであれば、この臨時国会が勝負です。臨時国会で憲法改正条文案を取りまとめ、来年の通常国会で発議しないと間に合いません。
国民民主党HP
憲法改正は国会で「発議」された後に国民投票にかけられ、その可否が決まる。国会による改憲発議は、「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」(日本国憲法96条)が必要だが、それを国会に提案するには「議員提案(衆議院に提出する場合100人以上、参議院に提出する場合50人以上の議員の賛同が必要)」または衆参両院の憲法審査会が行う。
上記いずれかの方法で「改正原案提出」が行われ、国会本会議での趣旨説明と質疑ののち、改めて憲法審査会で集中審議を行い、審査会での過半数による可決ののち、衆参の本会議にかけられ、「三分の二以上の賛成」によって可決=発議となる。
発議後は「60日以降180日以内の間」に国民投票を実施する。この実施日は国会の議決により決定される。つまり、令和6年9月までに国民投票を実施するためには、遅くとも6月末までに国会発議せねばならない。
野党の憲法改正条文案
令和5年6月19日、維新・国民民主・有志の会は合同で改憲条文案を取りまとめ、公表した。
その内容は緊急事態(武力攻撃、内乱・テロ、自然災害、感染症のまん延、その他これらに匹敵する事態)における「国会議員の任期延長」「国会閉会禁止」「解散禁止」「憲法改正禁止」「人権保障の徹底」などを定めたものだ。
維新・国民民主の両代表による国会質問は、この条文改正案を叩き台として憲法審査会で議論を行うよう求めたものといえる。維新・国民民主・有志の会は6月の憲法審査会へ条文案提出を試みたが、なぜか自民党側に拒否されている。
馬場氏と玉木氏が指摘したように、岸田首相が公約を果たすには臨時国会中に具体的な条文改正案を憲法審査会で取りまとめる必要がある。しかし憲法審査会の議事録を見る限り、憲法9条の改正(自民党の自衛隊追記案)については議論が紛糾し、改憲派内でもまとめる気配がない。
維新の馬場代表が岸田首相に対して述べたように、「改憲条文案について複数の政党会派で合意に至ったのは、憲政史上初めて」のことだ。ここは野党側の条文改正案を叩き台として、緊急事態条項の成立を目指すべきだろう。
肝は9条2項破棄
日本国憲法における最大の問題は、いうまでもなく9条2項だ。9条1項については、国際的に見て一般的(普遍的)な平和主義を定めたものといえるが、2項は異様な条文だ。
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
日本国憲法
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
歴代政権は、この9条2項(戦力不保持)について「自衛権行使のための実力保持を禁止するものではない」との解釈を踏襲している。その結果、自衛隊は合憲とされているものの、その行動が通常の軍隊に比べて著しく制約される結果となっている。
最新の自民党改憲案では、9条2項を維持し、「第9条の2」として以下の条文を追記することを目指している。
(第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
産経新聞
(第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
この自衛隊追記案について、国民民主の玉木代表は令和5年4月20日の衆院憲法審査会で「九条二項という、戦力を持っちゃ駄目ということが生きているので、その関係の中で規定されるので、いつまでたっても違憲論は消えない」「九条二項の削除は議論すべき」と指摘している。
自民党の「9条2項維持・自衛隊追記」案は主に護憲派の公明党を意識したものだが、それに公明党が納得している気配はない。9条2項破棄は一日も早く行われるべきだが、それが理由で国会発議できないのであれば、よりまとまりやすい緊急事態条項創設で進むべきだろう。
9条2項破棄については自公政権では不可能なので、改憲派としては早急な政権交代を目指す必要がある。いずれにせよ岸田首相は改憲の公約を果たすべく、与党への指導力を発揮してもらいたい。
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