映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』 1969年5月13日の謎(3)

三島由紀夫は決起の日として、11月25日を選びました。

その日は旧暦では10月27日、吉田松陰の処刑の日にあたりました。この自決に対し、作家の司馬遼太郎は直ちに「松陰の死とは別系統にある」と、まだ世間が「吉田松陰のような死に方だ」と言ってもいないうちからコメントを出したのですが、これこそは語るに落ちるというもので、逆にこの自決が義挙であることを証明しているようなものなのです。

ただ、このことを述べていくのが今回の文章の本旨ではありませんので、それは別稿に譲ります。

私は前の文で、三島は学生達に後を託したのだと書きました。

ならば、楯の会があるではないかという意見が当然あるでしょう。ただ、楯の会は、武人三島の組織なのです。これは晩年の三島由紀夫を理解するための鍵だと思うのですが、自決に至るまでの数年、三島は急速に武人への傾斜を深めていきました。

武人として自分は死にたいと述べたのもこの頃です。

ですから、晩年の三島由紀夫の行為を考えるときは、これは感性と表現の人、文人三島由紀夫の行為なのか、思索と行動の人、武人三島由紀夫の行為なのかを見極めながら考察を進めていかなければならないと思います。

そう考えていけば、この”討論会”における三島は、文人としての三島由紀夫です。つまり、武人三島が楯の会の学生達に求めるものとは別の物を、三島由紀夫はあの”討論会”の学生達に求めているのです。

では、その別の物とは何か。それは三島由紀夫の「文化防衛論」の中でも主張しているように、文化による日本防衛です。

日本を護るとは、単に国土を護るだけではない、そこに住む日本人をも護ることです。では、日本人を護るとは何か、それは現に今、生きている国民の命を護ると共に、その命が育み伝えてきた日本の文化を護ることです。

歌人三井甲子により詠まれた、

ますらをの かなしきいのちつみかさね つみかさねまもるやまとしまねを

は、戦いで命を落とした人々の事だけを詠ったものではないと私は思っています。国家を護るは武人ですが、文化を護るのは文人なのです。

三島は全共闘の学生達の反米自立の行動の中に、文人として日本を護っていける資質を感じ取っていたのだと私は思います。

ちなみに、その文人と武人の三島由紀夫の姿が両義的に表現されいるのが、11月25日の「檄」で、あの中には、文人三島が成した最後の表現と武人三島が成した最後の行動が両義的に表現されています。

檄と共に認めた辞世を思い出して頂きたいのですが、三島由紀夫は二首、辞世の句を残しています。

益荒男が  たばさむ太刀の 鞘鳴りに  幾とせ耐へて 今日の初霜

散るをいとふ 世にも人にも 先駆けて 散るこそ花と 吹く小夜嵐

これは、武人としての句と文人としての句を残しているのだと私は解釈しています。

若松孝二監督の三島由紀夫を取り上げた作品、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(平成24年公開)は、武人三島の行動に重きを置いたものでした。

故に、決起に向かうタクシーの中で、三島の辞世が紹介されるシーンがあるのですが、そこで、紹介された三島の句は、前者だけであったのは当然なのです。

いずれにせよ、この”討論会”は、大きな成果を上げることなく、今日を迎えました。

それは、回数の問題もあるでしょうが、何よりも、学生側が文化概念としての天皇という意識を持ちえなかったことが致命的であったと思います。(回数を重ねればそこが変わった可能性は十分にありますが)

つまり、自らの内なる日本を否定しては日本のための行動などなし得る筈はなく、そのことと、知識は全共闘の学生達よりはるかに乏しいかったでろうが、内なる日本は堅持していた維新の志士達が、維新の大業を成し遂げたことと鮮烈な対照をなしています。

そして、このことは当時の学生達だけではなく、今の私達にも突きつけられた課題であり、その切実さは半世紀という時の流れの中で、薄れるどころか、むしろ増してきていると私は慨嘆するのです。

(了)

三島由紀夫読詠会『午後の曳航』4/23(木)

日時:令和2年4月23日(木)19:00-20:30
会場:福岡市博多区上川端町12-28 安田第一ビル8F
( 福岡市営地下鉄「中洲川端駅」徒歩3分)
会費:500円(初回無料)
詳しくはこちら→ reimeisha.jp



石原志乃武(いしはら・しのぶ)/昭和34年生、福岡在住。心育研究家。現在の知識偏重の教育に警鐘を鳴らし、心を育てる教育(心育)の確立を目指す。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会幹事。福岡黎明社会員。

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