漫画の実写化トラブルから考える「個人の自衛策」とは

映画
©野田サトル/集英社 © 2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
この記事は約5分で読めます。

令和6年1月29日、漫画家の芦原あしはら妃名子ひなこさんが亡くなりました。その状況から自殺と見られています。昨年、芦原さん原作の『セクシー田中さん』が日本テレビによって実写ドラマ化されたことを巡り、SNSで論争が巻き起こっている最中の悲劇でした。

同ドラマの評判が芳しくないことについて、脚本家が自身のSNSで原作者の介入があったことを暴露。芦原さんはこれを受けて経緯を説明するも、最終的にその投稿を削除した上で謝罪コメントを残し、亡くなりました。

この事件を巡り、さらに論争は激しくなっています。今回の事件は、原作と二次作品の関係性について一石を投じることになりました。

原作者の意向を軽視する制作現場

これまでも小説や漫画がアニメ化あるいは実写化(映画・TVドラマなど)されるにあたり、原作者の意に沿わない様々な改変や演出が行われることによるトラブルは少なからずありました。とくにわが国では構造的に(著作権者であるはずの)原作者の立場が弱い、との指摘もあります。

単独あるいは少人数で制作する小説や漫画に対し、アニメや実写コンテンツは組織的に制作します。この制作組織(監督・脚本・撮影・出演・編集など)はさらにテレビ局や配給会社などの巨大企業を背景にします。

一方、原作者の側に立つべき出版社は映像化を書籍の宣伝機会と捉え、その実現を優先する傾向にあるともいわれます。実際、テレビ放送や映画興行は、その原作の存在を広範に知らしめる効果を持ちますから、それら映像化は原作者や出版社にとって悪い話ではありません。

テレビ局や映画会社にとっても、人気作品を映像化するのは「企画が通りやすい」という実態があります。社内決裁という意味だけでなく、製作資金を集める上でも有利になるのでしょう。

映像化すれば関連グッズも売れますし、様々なコラボ企画が実現しやすくなります。また、声優や俳優を売り出したい芸能事務所にとっても、良い宣伝の機会となるでしょう。

しかし制作現場によっては、原作や原作者の意向を軽視する傾向があったのも間違いありません。そのような中、芦原さんの悲劇が起こってしまったのです。

映像化にあたっては、資金・制作期間・人員など、様々な制約があるのも確かです。何より、製作費を回収できるだけの成果(視聴率や興行収入)を確保せねばなりません。制作陣が原作を忠実に再現することが物理的に不可能な場合や、再現しても成果を期待できない場合もあるでしょう。

なぜ映像化作品は「原作よりつまらない」のか

原作者が自殺するというのは例外的な悲劇だと思いますが、これまで少なからぬ原作者がつらい思いをしてきたということもわかって来ました。

映画化された『海猿』の原作者・佐藤秀峰氏は芦原さんの死を受けてブログを更新し、「(映画版『海猿』を)クソ映画でした」と述べ、最終的に原作者の権限で続編制作を制止した経緯を綴っています。亡くなった芦原さんについては、「普通の人が傷つくように傷つき、悩んだのだと思います」と述べています。

いちいち挙げませんが、確かに既知の小説や漫画が映像化された際に、その映像作品を「原作よりつまらない」と感じることは多いように思います。

その中で、実写映画『ゴールデンカムイ』(野田サトル原作、久保茂昭監督)は公開初日に観ましたが、素晴らしい作品に仕上がっていると感じました。

同映画の公式パンフレットで、野田サトル氏は「自分の原作の映像作品を嫌いになりたくないという一心で脚本はチェックさせてくれとお伝えしてきました」とコメントしています。久保茂昭監督は「原作の大ファンだった」と述べており、実際、細かいシーンまで原作に忠実に作られています。

実は弱くない原作者の法的地位

わが国の法令(著作権法)において、著作権者(原作者)はかなり強い権限を保護されています。原作者が不利になるのは、映像制作側や出版社との契約において不利な条件を強いられる場合であるといえます。特に若く、ヒット作の少ない原作者の場合、不利な立場に置かれるケースが多いようです。

芦原さんのような悲劇を再現しないためにも、原作者の立場を守る取り組みが求められます。原作者の側も、原作とそのファンを守るために自衛意識を高める必要があるでしょう。

制作者側も、「原作者の納得が得られない限り公開しない」ことを踏まえたコスト計算が欠かせなくなるでしょう。それができないなら、原作に頼らないオリジナル作品に取り組むべきなのです。

また、原作改変が行われる原因として、日本の映像作品の製作費不足も挙げられます。国内市場が小さいため、製作費が大きくなると赤字になりやすいのです。そこで、グローバル展開も視野に入れた企画が望まれることになります。(山崎貴監督『ゴジラ-1.0』はその成功例になりました)

漫画家だけではない、フリーランスの自衛を

公益社団法人日本漫画家協会は芦原さんの事件を受けて、公式SNSで

会員の皆様は、契約等のお悩みがございましたら協会までご相談ください。専門知識、または経験則のある人間が対応いたします。

https://twitter.com/mangaka_kyokai/status/1752194931857428687

とのコメントを発表しました。漫画家や小説家の皆さんは、このような職業団体や、法律の専門家に相談した上で、二次利用の契約を進めるのが良いでしょう。

今回改めて、漫画家や小説家の不利な立場が可視化される結果となりましたが、この「組織に比べて個人の立場が弱い」という構造的な問題は、フリーランス労働人口の増加とともに広がっていくことが予想されます。

つまり、起業家や個人事業主など、フリーランス的な働き方をする人々によって、芦原さんの置かれた困難な立場は、他人事ではないということです。フリーランス側も組織化し、法律の専門家も巻き込んで自衛していくことが必要になってきます。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

本山貴春をフォローする
映画
AD
シェアする
本山貴春をフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました