今般参院選の各党キャッチコピーを並べてみた。
- 自由民主党:日本の明日を切り拓く。(政治は国民のもの)
- 公明党:小さな声を、聴く力。
- 立憲民主党:#令和デモクラシー(まっとうな政治。)
- 国民民主党:家計第一
- 日本共産党:希望と安心の日本を
- 日本維新の会:創れ、新たな日本のかたち 目指せ、もっと自由で安心な社会(#令和維新2019)
- 社会民主党:ソーシャルビジョン 3つの柱
各党理念的なコピーが並ぶ中、特に国民民主党は心なしか控えめに感じられる。
そこで、本稿では国民民主党の「家計第一」、その中でも「子ども国債」について見てみたい。
子ども国債
国民民主党(玉木雄一郎代表)は消費拡大、特に個人消費拡大による景気回復を訴えており、その為には子育て世代の支援を強化すべきであると述べている。
玉木代表は平成28年(2016年)8月、本人のオフィシャルブログで、実質賃金がプラスに転じているにもかかわらずGDPの約6割を占める個人消費が伸び悩んでいることを指摘。同年の経済財政白書の「39歳以下の子育て世帯が将来不安を背景に消費を抑制している」との指摘に着想を得て、同世代の将来不安払拭に日本経済停滞打破のきっかけを見出し、「子ども国債」を提案するに至っている。
同氏は「子ども国債発行」について、「子育て・教育関連予算の倍増政策」であると主張している。ただ、国債である以上、「借金」であることには変わりない。
玉木代表は、想定される「財政再建に反するのではないか」との批判に対し、「思い切った子育て支援、教育支援によって子どもの数が増えれば、彼/彼女たちが将来立派な納税者になる。20~30年で償還する「子ども国債」の発行により、子どもたちが自らその借金を返済していくことになる」と述べている。
また「子育てや教育を充実させることによって失業率が改善されれば、将来にわたるさまざまな公的支出も抑制されるだろう」としている。
では、わが国の子育て・教育関連予算の現状はどうであろうか。
しばしば指摘されることが、教育機関に対するわが国の公的支出割合の低さである。各党のマニフェストに於いて以下のように謳っている。
・社会民主党:「GDP5%水準に引き上げ」(OECD「Education at a glance 2018」を典拠とし、「主なOECD加盟国の教育機関への公的支出割合(2015年、対GDP比)」という見出しを提示。我が国はOECD加盟34か国中で最も低い2.9%という数字(平均は4.2%)。
・日本共産党:「OECD諸国で最低水準となっている教育や家族向けの予算を抜本的に増やし」
・日本維新の会:「教育予算の対GDP比を他の先進国並みに引き上げ」
・国民民主党(玉木代表ブログ):「『家庭政策向けの支出』はGDPの約1%(5兆円程度)でOECD平均の約半分しかない。「子ども国債」の発行により財源を確保し、OECD平均並みの(GDPの)約2%まで倍増させる
与党である自民党、公明党、そして野党第一党である立憲民主党のマニフェストでは直接的な言及はない。
数字の捉え方で若干の差異は見受けられるが、多くがOECD加盟国との比較により、わが国の教育予算の少なさを指摘している。
しかし、重要なことは予算を先進国並みに引き上げて「どうするのか」、抜本的に増やして「何をするのか」、である。
既に現政権下で、幼児教育・保育の無償化(すべての3~5歳児、住民税非課税世帯の0~2歳児。令和元年10月より)、大学・専門学校等の高等教育の無償化(住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の学生。令和2年4月より)が実現した。野党は教育予算の増加でなすべきことを明確にすることで与党との差別化を図るべきである。
子ども保険
今から2年前(平成29年)、小泉新次郎衆議院議員をはじめとした自民党の若手政治家数名により、「2020年以降の経済財政構想小委員会(以下、小委員会)」が立ち上げられた。その小委員会で議論された提言が「子ども保険」である。
小委員会は同保険の提言に至った経緯を、「社会全体で子育てを支える国の本気度が若者や現役世代に伝わっていないことである。」とし、そのことを明確化する観点から提言に至ったという。
前段で述べた子ども国債との差異は、子ども国債は文字どおり、国債という将来世代にとっての「借金」が生まれる。一方、子ども保険は「0.1~0.5%」程度の「保険」負担を、年金、医療、介護等の保険料に追加して、現役世代と事業者に求める構想である。
子ども保険に関して、同委員会はQ&Aが準備しており、その内いくつかを例示する。
【質問】
・「子どもがいない」「子どもを持つつもりがない方々も保険料を負担するのは不公平ではないか。受益と負担が一致しておらず、保険とは言えないのではないか
・現役世代は既に高い保険料を負担しており、更なる負担拡大は問題ではないか。「社会全体で支える」と言いながら、高齢者から社会保険料を徴収しないのは如何なものか
【回答】
・(子どもが増えれば)人口減少に歯止めがかかり、経済・財政や社会保障の持続可能性が高まる」「(子ども保険の導入により)すべての国民にとって恩恵があり、(就学前の子どもがいない世帯にとっても)間接的な利益がある
・現役世代が既に収入の約15%を社会保険料として負担しているという状況で、(子ども保険)は0.1~0.5%の追加負担をお願いすることになる。高齢者の負担については、現役世代の負担抑制に協力してもらう枠組みを検討中
子ども保険については各界からも意見等が出されている。例えば経済界からは「社会全体で支えるという理念は理解できるが、財源については公平性の観点からも、税金の枠内で対処すべきではないか(三村明夫・日本商工会議所会頭)」との慎重論が出されている。
以上、国民民主党の「子ども国債」と自民党若手による「子ども保険」を概観してきた。「子育て・教育関連予算の倍増(子ども国債)」「保育・幼児教育の財源確保策(子ども保険)」いずれも、その目指すところは、ほぼ同じである。ちなみに同保険は、今般の自民党マニフェストには盛り込まれてはいない。
教育に関する予算を確保することは各党共通の政策である。後は、山積する他の課題との折り合いをつけながら、如何に予算を確保するかという方法論の差異ではないか。我々はこの点について、各党の政策を吟味する必要がある。