現代の子供たちに伝えたい 理想と勇気を与えてくれる「偉人」とは

近年、歴史に関して日本人として気がかりな事象があった。それは平成27年の大河ドラマ『花燃ゆ』(吉田松陰の妹・文の生涯を描いた)の視聴率が悪かったことだ。たしかに、幕末の志士たちを動かした「思想」の部分がしっかり描ききれていなかったという印象だ。

ほかにもたくさん理由はあるのだろう。しかし、あの大河ドラマがきっかけとなって、私自身は吉田松陰という人物の、教科書に載せられていない数々の側面を知った。またドラマがきっかけとなり、自分のルーツの一部である萩市や美祢市を訪れ、先祖について調べたりもした。

ドイツやイタリアも19世紀になり、近代国家として完成するために必要だったのは「国民国家」という概念だった。日本では尊王攘夷思想がそれに当たると思われ、水戸光圀によって編纂を開始された『大日本史』や頼山陽による『日本外史』などの歴史書の影響も大きかったが、その実践という意味では、吉田松陰のような思想家の影響もかなり重要だ。

現在の日本になるうえで必要不可欠な偉大な功労者である、吉田松陰について、よく知らないのに、知ろうともせず、ただ番組の評判だけ聞いて、見ないという姿勢を決め込み、批判に没頭する現代の日本人。

一人悩んだ末、私は5年以上前に産経新聞九州・山口版で見た、大人や子供に偉人伝を伝える取り組みを行っている「寺子屋モデル」の記事のことを思い出し、門を叩いた。志を持って活動されている方々と思いを共有したかったのだ。

寺子屋モデルの「偉人伝」教育

株式会社寺子屋モデル・社長の山口秀範氏は、大学卒業後、ゼネコンで働き、アメリカや中南米などに15年間海外赴任して久しぶりに日本に帰ってきた際、日本の子供たちの表情が他の国の子供たちと比べあまりにも元気がなくなっていることに衝撃を受け、依願退職後に教育再生を志し、一民間企業として福岡の地で大人向け・子供向けに偉人伝を語り聞かせる「寺子屋事業」を始めたという。

「寺子屋モデル」の主催するいくつかの講演会やセミナーに参加させて頂き、山口社長と世話役の廣木寧氏にさまざまな偉人について教わった。そのなかで日本にはたくさんの偉人がいることを知った。

寺子屋モデルで講師頭も務める廣木氏の話のなかで、最も印象に残ったのは、江戸時代の学者たちに関する話だった。

林羅山と山鹿素行が発見した「日本」

まず、家康は学問を大変重宝し、奨励したということ。林羅山から論語の講義を聴き、諸法度を制定する際には応仁の乱以降、かえりみられることのなかった古書をひろく集めて編纂させ、この学問尊重の気風の影響は各方面にわたった(平泉澄『物語日本史』講談社学術文庫)。

幕府の御用儒家であった林羅山の推奨した朱子学を批判し、孔子の教えを直接学ぶべきと主張したがために赤穂に流された山鹿素行は、流刑の10年のあいだに考えを大きく変え「日本」に目覚めた。

もとは他の儒学者と同じように宋学や論語について学んでおり、自然と中国の学問を重んじていたところが一転して、かならず孔子以前に遡って学ばねばならぬと説くようになった。

曰く、

「日本こそ最もすぐれた国です。第一に天照大神の御子孫が、神代以来連綿として君臨し、乱臣賊子が現れず、革命を見ないこと、是は即ち仁の徳であります。第二に皇国の上代、聖徳天皇が制度を相次いで定めたので、礼法は明らかで四民は安らかであること、是れ即ち智の徳でしょう。第三に、武威盛んで進んで外国を伐ったことはあるが、外敵の侵入を見た例は無いこと、是れ即ち勇の徳でしょう。智仁勇の三徳を併せ持つことが聖人の道であるが、今一々実績に就いて調べてみると、我が国のほうが遥かに外国よりすぐれています(平泉澄『物語日本史』講談社学術文庫)。」

ところでこの智・仁・勇の三徳は、現実主義(小林秀雄『本居宣長』1992 新潮文庫)の林羅山によって三種の神器の鏡・玉・矛にそれぞれ当てはめられている。

孔子が君子として備えるべきと説いた三つの性質は、実は日本では神話の時代から既に確立されていたというのである。流刑の10年間で、素行は朱子学とは異なる国学の重要な一歩を築いたが、同時に幼いころに教えを受けた羅山の重要な考え方もまた受け継いでいたのだ。

賀茂真淵と本居宣長が発見した「神話」

つづいて、歌人で国学者の佐佐木信綱の「松坂の一夜」は、67歳の当代一級の学者である賀茂真淵と、当時は無名の34歳の医者である本居宣長の出会いについて書かれたものだ。

「尋常小学校読本」にも収められているこの文章によって、立場が異なり、年齢も離れた二人の間に一瞬にして結ばれた信頼関係について伺い知ることができる。

幼いころから読書が好きで医学と両立しながら学問で身を立てていこうと一心に勉強していた本居宣長は、その著作を読み、感銘を受けた万葉集の研究家として有名な賀茂真淵を見たと偶然人づてに聞き、なんとか探し当て、真淵の泊まる宿屋で面会がかなった。

二人で話しているうちに、宣長はかねがね古事記の研究をしたいと思っていたことを打ち明けた。古事記はすべて漢字で書かれており、内容を解読するのは江戸時代の学者にとっても困難を極めた。

しかし、宣長にはこの時代の文献の研究こそが、仏教や儒教の影響を受けていない純粋な「国学」を極めることへとつながるという確信があり、その熱意は十分に伝わったらしい。

真淵は、古い言葉を読み解くにはまずは万葉集の研究から入るのが一番良いとアドバイスをくれた。そのあと宣長は絶えず文通して真淵の教えを受け、表音仮名(上代特殊表音仮名)を発見し、35年をかけてついに古事記の研究を大成させた。

これこそが『古事記伝』という大著述なのであった。『古事記伝』によって、それまでは何が書いているかわからなかった古事記への評価は一変し、神典とされるようになった。

以上のような話を聞き、大変驚き、嬉しくなった。江戸時代の人の話でも共感でき、その人生を知ることは自分自身の人生において参考になる。真淵の存在こそが宣長を支え、成功に導いたことから、志を同じくする人物との出会いは何より大切であるとわかる。

また、日本という国についての学問、「国学」が江戸時代に既に始まっていたことを具体的エピソードとともに再認識することができた。学問とは、西洋から入ってきたものばかりを指すのではないのだ。

「修身」の教科書に描かれる偉人たち

これがきっかけとなり、戦前に行われていた現在は失われてしまった教育をもっと知りたくなり、尋常小学校の修身の教科書を手に取った。

すると、豊臣秀吉やその妻の寧々、加藤清正、野口英世、ナイチンゲールなど幼いころ伝記として読んだことがあったり、大河ドラマでよく目にする配役だったりと、比較的なじみのある人物の興味深いエピソードが多く入っていた。

しかし同時に、学校で習ったが名前しか知らない江戸時代の官学・私学の学者も多く含まれていた。中江藤樹、荻生徂徠そして渡辺崋山などだ。

渡辺崋山は本居宣長と同様に学問好きで、当初は学者を志していた。のちに蘭学者として鎖国政策を批判し蛮社の獄で捕えられてしまうが、同時に国宝に指定されるほどの絵を残した画家でもあった(金谷俊一郎『日本人の美徳を育てた「修身」の教科書』2012 PHP新書 22頁)。

家が貧しく、父親が病気であったため、学者より、すぐに生活の足しになる絵師になることを知人に勧められ、両親を安心させたいという一心で、すぐにある師匠について絵を勉強しながら父の看病をした。

しかし、十分に謝礼が払えなかったため、わずか二年で破門になってしまった。父はそれを見て、別の師匠につくことを勧めた。その師匠は親切に教えたので崋山の絵はみるみる上達していった。

崋山は絵を描いて売り、家計を助け、絵の稽古に励みつつ、早起きをして学問に励んだ。崋山は細かく一日の計画を立て、規律正しくそれを実行したので絵の技術も学問もどちらも評価され、人々から敬われるようになった。

この話は4年生の修身の教科書に載っている話だが、現在の私たちにとっても大変役に立つ。親を助け、安心させることが、自分自身を大きく成長させることにつながるという教えだ。

理想と現実が合わず、置かれた環境に苦しみ、理想を諦めそうになっている現代の若者や学生にこの崋山の話を伝えたらどんなに励まされることだろう。

ほかにも低学年向けに、少し易しめに書かれてはいるが、大人が読んでも頷ける、素晴らしい内容のものも多数含まれていた。このような話を現代の子供たちに触れさせる機会が与えられれば、将来に希望が持てて笑顔も増えるのではないだろうか。

いろんな人物の伝記が入っているため、子供たちは必ず自分の気に入った偉人を見つけ、親や先生から言われずとも自然と参考にするだろう。こうした心理面での働きかけは不登校などの様々な教育に関する問題をも解決に近づかせるのではと期待する。

▽株式会社寺子屋モデル
www.terakoya-model.co.jp

参考書籍

志道名桜(しじ・なお)/ポーランド語を大学時代に専攻。ロンドン大学にて江戸時代の儒学者、陽明学者について学ぶ。現在は働きながら、教職科目、フランス語、ドイツ語、日本の歴史について勉強中。

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