希望の党が公約に掲げた「ベーシックインカム」って何?

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10月10日、衆議院選挙が公示された。中でも、今回の選挙戦で新たに名乗りを上げた小池百合子代表率いる「希望の党」が耳目を集めている。

「ユリノミクス」と銘打った経済政策、憲法9条や教育無償化を含めた改憲議論などを公約として掲げているが、今回は社会保障政策の一つである「ベーシックインカム」に注目してみたい。

1986年に設立されたBasic income Earth(設立当初は「European」) Network(BIEN)の定義に従うと、ベーシックインカムとは、「資産調査、就労要請無しに、すべての個人に対して(個人単位で)無条件で支給される定期的な現金給付」である。

ベーシックインカムの源流を辿っていくと、16世紀イギリスの思想家で『ユートピア』を著したトーマス・モアや、オランダの人文主義者であるヴィヴェスの思想にまで遡ることができるようだ。

近年、ヨーロッパではベーシックインカム導入が盛んに議論されている。それは、社会保障制度が複雑多岐にわたっており、(社会保障の)受給者が本当に必要としている保障を享受できていないのではないか、との不安が拭い切れないからである。

日本の現行の社会保障制度には、例えば健康保険、年金、失業保険、生活保護などがあるが、いずれも特定の状況が発生し、生活に支障が来されることを防ぐことを主眼としている。見方を変えれば、誰もが「平等に」給付を受けられる制度とはなっていない。

一方、ベーシックインカムは特定の状況を排除し、すべての個人を対象とする制度となっている。

どのような制度であっても、万人が恩恵を受けることは容易ではなく、メリットの裏返しはデメリットである可能性も考慮しなければならない。

先ずメリットであるが、「就労の有無に関わらず」現金が支給されるのであれば、無駄な残業をしたり、不本意な待遇下で働いたりすることを免れるということだ。極論、ベーシックインカムによる支給額で生活ができるのであれば、必ずしも働く必要がなくなるということである。

また、例えば老若男女を問わず、難病などで働きたくても働くことができない人々にとっては有難いことではないだろうか。

これに連動して、労働者は当然、労働環境の良好な企業を選択するであろう。そうすると、いわゆる「ブラック企業」と呼ばれる企業も淘汰されていくことが想定できる。

さらに、複数ある現行の社会保障制度を一本化することで、業務の効率化を図れるという利点も挙げられる。

一方デメリットであるが、メリットで記したことの裏返しとして、労働に関して「就労の有無に関わらず」とあることで、以下のようなケースも出てくるかもしれない。つまり、(働けるにもかかわらず)「働かなくても現金が支給されるのであれば、働かないでおこう」と考える人々が出てこないとも限らない、ということだ。

しかし、我々日本人は元来、労働を「美徳」としてきた。仮に、働かずに収入を得たとしても、そのことが労働意欲の妨げになることは考えにくいと考える。

そして、何はなくとも、その財源をどこから持ってくるのか、ということが重要だ。

近年、日本の社会保障費は右肩上がりに増え続け、給付総額は2017年度(予算ベース)で約120兆円、年金・医療で約8割を占めており、国民1人当たりの社会保障給付費は約90万円という状況である。


 【出典:厚労省HPより】

120兆円すべてが無条件で国民1人ずつに分配されたと仮定すると、1人当たり月々約75,000円の支給ということになる。

諸条件などもあり一概に比較はできないが、例えば国民年金支給額は月額平均約55,000円という実績が公開されている(厚生年金は約14万7千円)(厚生労働省「平成27年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。

また、生活保護についても、地域、家族構成、年齢などによって支給金額が異なる。単純な比較は難しいが、厚労省の資料が一つの参考になると思われる。

 
 【出典:厚労省HP】

消費増税の可否は今回衆院選の大きな論点の一つと言ってよい。各党とも公約で消費増税の可否について言及しているが、自民党を除き、増税凍結、反対、また連立を組む公明党も条件付き(軽減税率導入)という立場である。

ベーシックインカムと税制の議論は不可分だ。政策として、ベーシックインカムと消費増税凍結は、財源確保の観点から相容れないのではないか、と指摘する識者もいるようである。しかし、少子高齢化という構造的な課題に加え、膨張し続ける社会保障費への対処は喫緊の課題だ。

モアは『ユートピア』において、理想社会を描くことで、当時の社会を批判した。しかし、現実の政治に求められるのは厳然たる結果であり、批判ではなく建設的な対案である。

具体的に給付額をいくらにするのか、と言った部分などは今後議論を深めていく必要があるが、先ずは新たな社会保障施策として、ベーシックインカムを議論のテーブルに乗せることが必要であると考える。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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