日本が「プーチンの手口」から学べること

国際
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ロシアによるウクライナ侵攻は明らかに侵略戦争であり、断固容認してはならない。だが、プーチン大統領の国際法を逆手に取った手法は、日本にとっても大いに参考になる。

今回の事件を教訓に日本は国家戦略の再構築を図るべきだ。

外見上は「国際法遵守」のロシア

私が興味深く思ったのは、ロシア連邦が表面上「国際法遵守」を貫いたという事実だ。

平成26年(西暦2014年、皇暦2674年)のクリミア併合では、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領の承認を得ていた。

もっともその時すでにヤヌコーヴィチ大統領はクーデターで失脚していたのだが、彼自身は失脚を認めずウクライナの正統な大統領であると主張していた。だから実態はともかく、外見上は「合法的」にことを運んだことになる。

今回の軍事侵攻も、一応はドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国とを国家承認し、この両国を守るためといういわば「集団的自衛権の行使」という建前で行われたものである。

ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立に正統性があるのかはともかく、仮にこの両国の正統性を認めると、ロシアの行動は完全に合法となる。今後、ロシアはこの両国の独立の正統性を宣伝し続けるであろう。

もっとも「ロシア語圏だからウクライナから独立しても正統性はある!」という理屈を通すのであれば、ナチス・ドイツがドイツ語圏のアルザス=ロレーヌ地方やベルギーを占領したことも正当化されてしまう。

プーチン大統領のこんなトンデモ理論を認める訳にはいかないのだが、そんなトンデモ主張にも「国際法遵守」な外見を整えたのがプーチン大統領の賢さだ。

NATO加入“前”というタイミング

また、ウクライナのNATO加入前に軍事行動を起こしたのも流石だ。もしもウクライナがNATOに加入していたならば、欧米諸国が集団的自衛権を発動して第三次世界大戦になっていたところである。

厳密には軍事同盟を結んでいなくても集団的自衛権は発動可能だが、条約で明記されない限り、集団的自衛権行使は義務ではない。

現にNATOは今回のウクライナ侵攻で集団的自衛権を行使しないと明言している。

▽部隊派遣しないとNATO事務総長(共同通信社)
nordot.app

これは日本にとっても他人事ではないであろう。アメリカは日本の「施政下にある領域」でしか集団的自衛権を発動しないと言っているから、竹島や北方領土の周辺で武力衝突が起きても、今回のアメリカはせいぜい経済制裁を行う程度のことしかしないと思われる。

日本にとってウクライナは「反面教師」なのだ。

エネルギー自給率の重要性

言い古されたテーマだが、ロシアの強みはエネルギー自給率の高さにある。特にプーチン大統領はエネルギー安全保障の強化を狙っていた。

これも日本が学ぶべき点だ。メタンハイドレートやバイオマス、水力、地熱、波力等の活用で日本もエネルギー自給率の大幅な向上を可能とすることができる。

印パ紛争への影響が今後の焦点

なお、私は今回の件でNATOよりもむしろ印パ紛争への影響を懸念している。

既にパキスタン・イスラム共和国のイムラン・カーン首相はウクライナ侵攻の当日にプーチン大統領と会談している。

▽パキスタン首相、プーチン氏と会談 独立承認後初の首脳訪ロ(時事通信)
www.jiji.com

このタイミングが偶然なのか、事前から決められていた“演出”なのかは現時点では判断が難しいが、歴史的に親ロシア派であったインドがロシアと距離を置いて欧米寄りになる流れを促進する可能性は高い。

パキスタンはインドに対抗して中国とステルス戦闘機の共同開発を行っている。この最新型戦闘機はインドの地対空ミサイルシステムを躱すことが出来るという。

▽パキスタン、中国と共同開発のステルス50機を3月に配備(日本経済新聞)
www.nikkei.com

インドとパキスタンではカシミール地方を巡って今でも一発触発の状態だ。

私は令和元年(西暦2019年、皇暦2679年)にインドで暮らしていたが、インドではヒンドゥー至上主義者を母体とする政府がイスラム教のモスクへの抑圧を強めており、私が滞在している期間中だけで千個以上のモスクが閉鎖された。

こうしたインド内部での宗教対立は、イスラム教徒の支持を受けるパキスタンを利するものとなっている。

もしも今回のウクライナ侵攻が印パ紛争へ飛び火した場合、NATOの意向に関係なく第三次世界大戦へと発展する。

今のところその可能性は高くはないが、欧米中心の報道では見えてこない要素も国政情勢分析では考慮するべきであろう。プーチン大統領はそのことを理解しているからこそ、パキスタンとの関係を深めているのである。

日本も「国家承認」カードを活用すべし

さて、私がプーチン大統領の手法で「これは!」と思ったのが、彼の活用した「国家承認カード」だ。

国際法上、「国家」の定義は曖昧である。だからこそ日本も積極的に「国家承認」カードを使っていくべきだ。

例えば北キプロス・トルコ共和国を日本が国家承認すれば、我が国とトルコの友好関係はかなり強化されるだろう。

今回のウクライナ侵攻でロシアとトルコに溝も生じているから、北キプロス国家承認と引き換えに南樺太と全千島諸島の領有権を認めてもらうという手もある。

現状、日本は平壌政府(自称・朝鮮民主主義人民共和国)に対する「国家承認拒否」を除き、「国家承認カード」の有効活用をし切れていない。

しかも、平壌政府についても「北朝鮮は国家ではない」ということを知らない国民が少なくない状況であり、こうした状況を招いているのは専ら政府の責任である。

国家承認の活用といえば、東トルキスタン共和国(ウイグル)や大チベット国、満洲国、南モンゴル共和国(内モンゴル)の国家承認も検討されるべきであろう。これらの諸国の承認は、ドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国よりも余程正統性がある。

ちなみに国家承認といえば台北政府(自称・中華民国)がよく話題になるが、彼らも「国家承認カード」の有効活用を行っている。

令和2年(西暦2020年、皇暦2680年)に台北政府はソマリランドを国家承認した。ソマリアが中国と関係が深いことに対抗しての措置であろう。

“侵略にならない先制攻撃”

さて、プーチン大統領の狙いは、善悪はともかくとして「先制攻撃の正当化」にあるともいえる。NATO加盟前に先制攻撃をすることでNATO諸国の参戦を防ぎたい、かつ、侵略戦争ではなく自衛戦争の形を整えたい、という動機からの「国家承認」だ。

このようなことが道徳的に間違っていることは言うまでもないし、日本も真似してはならないが、(悪い意味で)優秀な人間の行動を良い方向へ応用すれば、国益にも国際平和にも資する。

日本がプーチン大統領から学べる点は多い。

日野智貴(ひの・ともき)平成9年(西暦1997年)兵庫県生まれ。京都地蔵文化研究所研究員。日本SRGM連盟代表、日本アニマルライツ連盟理事。専門は歴史学。宝蔵神社(京都府宇治市)やインドラ寺(インド共和国マハラシュトラ州ナグプール市)で修行した経験から宗教に関心を持つ。著書に『「古事記」「日本書紀」千三百年の孤独――消えた古代王朝』(共著・明石書店、2020年)、『菜食実践は「天皇国・日本」への道』(アマゾンPOD、2019年)がある。

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