令和3年5月24日から3ヶ月間、東京と大阪で自衛隊が新型コロナウイルス感染症ワクチンの大規模接種会場を運営する。東京会場は東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の居住者、大阪会場は大阪府、京都府、兵庫県の居住者で、いずれも65歳以上が対象。
これら東京・大阪の大規模接種会場運営について、小野寺五典元防衛大臣は12日に自身のツイッターで「設営、運営する費用は、業務委託費が約40億円、会場借り上げ等諸経費まで含めると合計で約60億円に上る。この費用は防衛省が負担するとのこと。ワクチン対策費用から出すべき」と述べた。
小野寺元防衛相はさらに「災害派遣ではないため派遣医官等には手当も出ない。政府には費用負担は元より、関わる自衛隊員には確実にワクチン接種を完了してから任務遂行できるよう、しっかりと責任を果たして欲しい」と加えている。
今年度の防衛予算は約5兆1,235億円だが、内4割は人件費だ。防衛予算自体は7年連続で微増されているものの、宇宙・サイバー・電磁波など新たな領域への対応費用は莫大で、とても潤沢とはいえない。駐屯地や基地内ではトイレットペーパーが足りずに隊員が自弁しているというのは有名な話だ。
また、防衛予算内で想定された新型コロナ対策費は海外派遣部隊のための感染対策予算として2億円、事務官のテレワーク環境整備予算として2.9億円が計上されているに過ぎず、60億円の大規模接種会場費用は自衛隊にとって予想外の痛手となりそうだ。
防衛問題研究家の桜林美佐氏は、小野寺元防衛相のツイートについて「後で補正等で手当てされるとしても、一時的に自衛隊の活動費がなくなることは痛手」「自衛隊のワクチン優先枠のようなものは無い。もっと早く隊員のワクチン接種がなされるべきだった」と指摘した。
河野太郎ワクチン担当大臣は5月5日に出演したテレビ番組の中で、大規模接種会場について「1日1万人になるかどうかは自衛隊の検討次第だ」と述べ、「自衛隊に丸投げするのか」などと批判を受けていた。
そもそも、自衛隊の医官や看護師は約23万人の自衛官のために存在する。これらの人員が一般国民のワクチン接種に割かれるだけでなく、大規模会場運営のために陸上自衛隊などから一般隊員が動員されるであろうことは容易に予想できる。
中国軍の脅威が増す中、自衛隊の人員や予算をワクチン接種のために転用することは本末転倒ではないだろうか。政府は7月末に開幕することになっている東京五輪までに高齢者のワクチン接種を終わらせるべく、自衛隊を便利屋扱いしているとの批判を免れないだろう。
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