数字ではわからない在日外国人の実態とは ネパール料理店で交流会を開いてみた

仕事
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私は福岡市南区塩原校区の人権尊重協議会(以下、人尊協)に所属している。ある時、人尊協の会議で校区における「外国人との共生」について話し合う機会があった。

私が司会進行役を務めたのだが、その場で委員から異口同音に出された意見があった。それは「そもそも在日外国人と接点、交流の場がない」というものであった。

同校区はネパールやベトナム国籍の人々が多く住んでいる。私がこの地区に住むようになって約10年になるが、この間、福岡市南区在住のネパール及びベトナム人は確実に増加してきた。

【福岡市南区におけるベトナム人・ネパール人在住者数】
ベトナム人 平成23年:193人 → 平成31年:1,589人
ネパール人 平成23年:386人 → 平成31年:1,614人
(福岡市統計)

そこで私は「ならば、そのような交流会を企画しよう」と思い立った。

今年度、同校区人尊協の目標に「外国人との共生を目指して」と掲げられていたことも、私の計画を後押しした。その結果、校区人尊協を挙げて開催するに至った。

交流会開催までの不安

まずはネパールの方々との「交流の場」を設けることが大事であると考え、交流会は食事会形式をとることにした。場所は校区内にあるネパール料理店である。

地域住民と、ネパールの人々が食事を共にするという、それだけの内容である。それでも同校区では初めての試みだ。ネパール人と日本人双方が集まることに意義がある。

準備の段階で、認識の違いを感じられる場面があった。事前の人数把握である。既に確定している参加者については前もって名札を準備し、万全の状態で当日を迎えたいと考えた。

同じ考えでネパール側の窓口であるお店の店長であるグンさんに、上記理由で参加者を把握したいので予め人数を教えてほしいという話をした。すると、グンさんから返ってきた答えは「今の段階で何名参加するかは分からないが、恐らく10人ぐらいは来ると思いますよ」というものだった。

当日蓋を開けてみなければ分からないという状況には、やきもきした。そもそも私が提案し、あたためてきた企画であり、人数が集まらなければ企画倒れになってしまう。私としてはグンさんを信じる他なかったが、正直居ても立ってもいられない心境で当日を迎えることになった。

嬉しい誤算

しかし、その心配は杞憂であった。

当日、集まったネパール側の面々は合計6名。皆、日本企業で働いているビジネスパーソンだった。彼らは仕事が終わって疲れているにも関わらず、そのような様子は微塵も表情に出すことなく、我々との交流に馳せ参じ食事を共にしてくれた。

参加者の一人にウプレティ・デブラジさんという方がいた。彼は何と、海外在住ネパール人協会九州支部会長という要職にあるという。

彼は、

「自分たちは日本とネパールの『橋』になり、後輩たち、そして日本とネパールの役に立ちたい」

と熱く語ってくれた。さらに、

「来年は『Visit Nepal 2020(ネパール観光年:ネパール政府による外国人観光客誘致キャンペーン)』の年で、自身の会長在任期間とも重なるため、何としてもこのイベントを成功させたい。そのためには日本側と協力する必要があるが、どうすればそのようなパートナーと知り合うことができるか模索していただけに、正に今日の交流会は『渡りに船』だった」

と興奮気味に話してくれた。

▽ビジット・ネパール・2020年
facebook.com/VisitNepal2020Japan

デブラジ会長以外の5名も日本語は堪能で、中には福岡県柳川市の某校区で子供会の会長を務めているという方もいた。

ネパール側6名全員が「今日の会を本当に楽しみにしていた」と語ってくれたことが本当に嬉しく思えた。また人尊協側メンバーも、ネパール料理に舌鼓を打ち、彼らとの交流を楽しんだ。

最後はネパールの国歌を全員で斉唱した。今年、日本中を熱狂の渦に巻き込んだラグビーW杯で、相手国の国歌を斉唱した「おもてなし」に倣ったのだが、何とも言えない一体感が醸成された瞬間だった。 

さらに嬉しかったことに、彼らから「君が代」を歌いたいと申し出てくれたのだ。彼らの申し出には感動した。店内に設置してあるテレビに映し出された日の丸を見ながら、参加者全員で歌った君が代は格別であった。

数字だけではわからない「共生」

これまでにも地元では行政主催により、人権というテーマで識者を招き「共生」に関する講演会が開催されてきた。

確かに、そのような場に参加して話を聴き、問題意識を持つことも重要だ。しかし、そういった場での話は往々にして、大所高所からの話として語られることが多い。

例えば「在留外国人数が282万9,416人で過去最高」「日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は40,485人で、前回調査より6,150人増加」といった全体的な数字の提示が中心である。

もちろん、このように全体的な数字を把握することで問題の深刻さを認識することは必要であろう。しかし、数字だけでは、一人ひとりの人間の「生き様」は見えてこない。

私は「真の共生」とは、地域に暮らす一人の人間として外国人と向き合うことから始まる、と考える。

未来に向けて 

私には在日外国人たちの日本での生活に関与する義務など無い。もしかすると、私が外国人たちに関わろうとすることは、彼らにとって「大きなお世話」なのかもしれない。

それでも、私が人尊協に属し、外国人との「共生」を推進しようとしているのには訳がある。それは彼らに、少しでも日本を好きになってほしい、という思いである。せめて日本を嫌いにならないでほしい。

在日外国人の大半は、いずれは母国に帰る。来日の目的や期間はさまざまだ。ただ、この瞬間日本で、私たちと同じ地域に生活しているという現実を受け入れることが必要だ。

今回の食事会を、地域住民と塩原に住む外国人住民の人々とが触れ合い、さらに交流していくきっかけとしたい。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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