【参院選2019】安倍政権の最優先課題「拉致問題」を各党はどうする?

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前回の消費税増税問題に続けて、今回は北朝鮮による拉致問題に関する各党の参院選公約を比較してみた。先ずは下記の一覧をご覧いただきたい。

北朝鮮拉致問題をめぐる各党公約

自由民主党

  • 米国はじめ国際社会と緊密に連携し、北朝鮮の核・ミサイルの完全な放棄を迫るとともに、最も重要な拉致被害者全員の帰国を目指す。
  • 北朝鮮に対し、制裁措置の厳格な実施とさらなる制裁の検討を行うなど国際社会と結束して圧力を最大限に高め、関係国政府・議会および国連に対する連携や働きかけを強化する。これらを通じ、核・ミサイル開発の完全な放棄を迫り、あらゆる手段に全力を尽くして拉致被害者全員の即時一括帰国を目指す。
  • 公明党

  • 日朝平壌宣言に基づき、核、ミサイル、そして何よりも重要な拉致問題を解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現をめざす。
  • 具体的には、北朝鮮によるすべての大量破壊兵器およびあらゆる射程の弾道ミサイルの完全で検証可能、かつ、不可逆的な方法での廃棄の実現に向け、日米、日米韓三カ国で協力し、中国、ロシアを含む国際社会と緊密に連携を図る。
  • また、拉致問題の解決に向けて、わが国自身が主体的に取り組み、あらゆるチャンスを逃すことなく、一日も早い全拉致被害者の帰国をめざす。
  • 立憲民主党

  • 北朝鮮の核・ミサイル開発と拉致問題の解決に向けた交渉に着手する。
  • 国民民主党

  • 北朝鮮の核・ミサイル・拉致問題の解決を目指す。
  • 関係各国と緊密に連携し、北朝鮮の完全な非核化 、ミサイル放棄を実現するとともに、拉致問題の解決を図る。
  • 日本維新の会

  • 北朝鮮の核・弾道ミサイル・拉致問題の解決に向け日米韓中の連携をさらに強化する。
  • 日本共産党

  • 東アジアにおける平和と非核化の推進、拉致問題の解決
  • 核問題の解決、拉致の問題解決に努力を尽くし、日本と北朝鮮の国交正常化への道筋を。
  • 社会民主党

  • 北朝鮮の核開発とミサイル技術開発に反対する。
  • 徹底した対話による外交努力で平和解決をめざす。日朝平壌宣言に基づき、拉致問題の解決と国交正常化について粘り強く交渉する。
  • 幸福実現党

  • 米国と結束し、北朝鮮の非核化プロセスを進展させるとともに、北朝鮮の「開国」を促す。
  • 北朝鮮による拉致問題の解決に全力を尽くす。
  • 自衛隊による拉致被害者の救出を図る。
  • 朝鮮半島有事に際し、拉致被害者を含む邦人の保護・救出に向けて、米国、韓国との十分な調整を行う。領域国(北朝鮮)の同意がない場合でも、自衛権を行使し、邦人救出を実施する。
  • れいわ新選組

  • 言及なし。
  • オリーブの木

  • 言及なし。
  • 労働の解放をめざす労働者党

  • 言及なし。
  • NHKから国民を守る党

  • 言及なし。
  • 安楽死制度を考える会

  • 言及なし。
  • 安倍政権の「最優先課題」?

    安倍首相はつねづね「北朝鮮による日本人拉致問題は政権の最優先課題」と述べてきたが、とくに目立った進展はない。強いて述べるならば、トランプ大統領に数度拉致について言及せしめたことがあるが、日朝首脳会談の目処は立っておらず、北朝鮮側にも軟化の兆候は無い。

    この膠着した現状を打開する方策として公約に書かれているのは「制裁措置の厳格な実施」「さらなる制裁の検討」「関係国政府・議会および国連に対する連携や働きかけ強化」であるが、これまで行ってきたことと同じだ。

    政権与党の公明党は「わが国自身が主体的に取り組み、あらゆるチャンスを逃すことなく」と述べるだけで、具体策が無いまま「日朝国交正常化の実現をめざす」という。

    翻って野党の公約を見るに、立憲・国民・維新が北朝鮮の「核開発」「ミサイル開発」「拉致問題」を同列に扱い、さらに共産・社民が「日朝国交正常化」をめざすとしている。

    確認団体(諸派)に至っては言及すらない。特に「れいわ新選組」は拉致被害者家族である蓮池透氏を擁立しているので言及があって然るべきだが、少なくとも政策はないようだ。

    そんな中、突出しているのが幸福実現党で、「自衛隊による拉致被害者救出」を打ち出していることは高く評価して良いだろう。

    拉致問題は安倍政権の最優先課題ではなく「日本国の最優先課題」であるべきだが、参院選の各党公約を概観する限りそうなってはいない。

    安倍政権に拉致問題の責任は無い?

    私がTwitterの個人アカウントで「拉致問題だけ考えても、安倍政権下で1ミリも前進してない。拉致問題を理由に安倍政権を支持する根拠もない」と述べたところ、反論コメントがついて議論の応酬になった。

    反論者の趣旨としては、

    ・そもそも(安倍政権でなくとも)拉致問題は解決不可能
    ・拉致被害者は死亡している可能性が高い
    ・拉致被害者は結婚して現地の生活に馴染んでいる(ので帰国を望まない)
    ・そもそも(第二次安倍政権の)たった7年で進展する筈がない
    ・安倍政権だけではなく歴代政権の責任
    ・日本側には有効な外交カードが無い
    ・解決方法は政権だけではなく、みんなで考えるべき

    といったものだった。実際には救出運動関係者に対する侮辱ともとれる表現もあったが、ここでは取り上げない。

    拉致被害者の死亡云々については確認しようが無いのだから議論にならない。仮に死亡が確認されたとしても、拉致犯罪について北朝鮮当局者を処罰する義務が日本政府に生じるだけの話だ。

    拉致被害者が「帰国を望まない」可能性については、いったん帰国させてしばらく時間が経たないと判断できない。北朝鮮で自由な発言はできないし、日本国内でも拉致被害者が本音を話せるようになるまでには時間がかかる(過去の帰国者がそうだった)。

    少なくとも横田めぐみさんについては、強い帰国の望みを持っていたことが、帰国者の証言で明らかになっている。

    拉致問題が安倍政権だけの責任では無いのはその通りだが、拉致を「政権の最優先課題」としてきたのは安倍首相じしんである。それで7年経っても進展がないというのは如何なものか。

    私の「拉致問題を理由に安倍政権を支持する根拠もない」という指摘は、「消費税に関してはこのまま行けばマイナス100点。拉致問題に関しては0点。つまり拉致問題への取り組みによって増税の失点を補うことはできない」という意味である。

    日本側が取るべきカードとは?

    反論者は「日本側には有効な外交カードが無い」「安倍政権でなくとも拉致問題は解決不可能」というが本当にそうだろうか?

    例えば、いまだに全国の自治体は朝鮮学校に対して補助金を支出しているし、政府は朝鮮総連の活動を取り締まっていない。これは中央政府の立法措置によって一括禁止すべきではないか。少なくともそのような法案を準備するだけで対北圧力になる。

    また、北朝鮮は「力の信奉者」ともいわれる。米朝首脳会談が実現した背景には、米国側の「戦争準備」があった。トランプ政権発足後しばらく、米軍はかなりの確度で戦争準備を進めており、これを敏感に察知した北朝鮮側が膝を屈したのである。

    米国が戦争してでも阻止したかったのは、北朝鮮の長距離核ミサイル開発である。米国に届く核ミサイルは容認できないが、それ以外はどうでも良い。日本人拉致問題について首脳会談で「口に出す」ことはあっても、戦争して取り返してくれることは無い。

    北朝鮮は日本の憲法問題(専守防衛)などについてよく知っている。しかしそれでも、小泉政権の時には「日本が自衛隊を派兵してくるのでは」と考えた。拉致問題がそれくらいの重大問題であることを、北朝鮮側は理解している。

    そもそも拉致は、北朝鮮にとっては戦争の一環として行ったものであり、日本側に戦争当事国としての自覚がなかっただけの話だ。

    現状、直ちに安倍首相が自衛隊に下命して北朝鮮に派兵し、拉致被害者を奪還することは難しい。法的にも技術的にも課題が多くある。しかしそれでも、その方向に向けて準備するだけで北朝鮮は反応する。

    その一つが、「拉致問題担当大臣の防衛大臣兼務」である。

    平成27年、福岡市で開催された「第13回北朝鮮人権侵害問題啓発集会」(主催・救う会九州連絡協議会)において山谷えり子拉致問題担当大臣(当時)出席のもと、安倍首相あてに「防衛相に拉致問題を担当させる要求決議」を採択した。

    ▽防衛相に拉致問題を担当させる要求決議を採択しました(救う会・福岡)
    http://sukuukai.jugem.jp/?eid=1629

    実は歴代の拉致担当大臣の多くが警察のトップである国家公安委員長と兼務していたのだが、これを防衛大臣との兼務にすべき、という趣旨であった。

    しかしその年の内閣改造で拉致大臣に任命された加藤勝信大臣は、少子化・男女共同参画・一億総活躍・女性活躍・再チャレンジ・国土強靭化担当大臣などを兼任。平成29年からは厚生労働大臣と兼務したのである。

    これが、われわれの「決議文」に対する安倍首相の回答であった。

    いうまでもなく、大臣人事は首相の専権事項であり、どの大臣と兼務させようが問題はない。現在は菅義偉官房長官が兼務しているが、首相以上に忙しいともいわれる官房長官に何ができるというのか。

    拉致担当大臣の処遇一つ見ても、安倍首相の拉致問題に対する本気度は透けて見える。

    拉致問題を語れない政治家には政治家の資格がない

    各野党の拉致問題に関する政策は論評に値しない。「書いておかないと叩かれるので、とりあえず書いているだけ」としか思えない。「拉致問題を解決」と口を揃えるが、何を持って解決とするのか不明だ。

    拉致問題が、占領憲法に縛られた現在の日本にとって極めて対処困難な課題であることは間違いない。しかしその上で、解決を目指すことこそが政治というものではないか。

    安倍首相が「最優先課題」に掲げる問題に野党が実効的な解決策を提示できれば、次の衆院選で政権交代することもあり得るだろう。拉致されているのが一般国民である以上、拉致問題は民主主義の危機であり、安全保障上の危機なのだ。

    大臣の兼務だけではなく、防衛予算のGDP比1%制限撤廃や、自衛隊の行動をネガティブリスト化すること、実弾訓練の強化など、いっけん拉致問題と無関係に見える防衛力強化政策でも、充分に北朝鮮を怯えさせることは可能だ。

    それくらいのことも提案できない野党に、存在価値はない。

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    『日本独立論: われらはいかにして戦うべきか? 』(独立社デジタル選書)
    主な内容:なぜ私はネット選挙を解禁したのか/日本核武装論とパブリックリレーション/北朝鮮による拉致は侵略戦争である/国と地方の権力構造/互助共同体仮説 流血なき内戦を戦え/日本政治のポジショニングマップ/三島由紀夫は何と戦ったのか

    本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

    本山貴春

    (もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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