令和元年7月4日、第25回参議院議員選挙が公示された。最大の焦点は今年10月に予定されている消費税増税。さらに、金融庁の報告書でクローズアップされた「老後2,000万円不足問題」で与党に「やや逆風」が吹いている。
とはいえ、野党第一党である立憲民主党の枝野代表を筆頭に、野党側には政権を追い詰めて消費増税を阻止するという気迫が見られない。このまま自民公明の与党が圧勝し、既定路線通りの10月増税となる見込みだ。
消費税増税をめぐる各党公約
まず、今回の参院選における各党公約より、消費増税に関する文言をピックアップし比較してみたい。
自由民主党
公明党
立憲民主党
国民民主党
日本維新の会
日本共産党
社会民主党
幸福実現党
オリーブの木
れいわ新選組
労働の解放をめざす労働者党
NHKから国民を守る党
安楽死制度を考える会
全ての野党が消費増税に反対
自民公明が「予定通り10%への消費増税を実施する」としているのに対し、立憲・国民・維新・共産・社民の全野党が反対している。
また、政党要件を持たないが参院選に確認団体として出馬している幸福実現党・オリーブの木・れいわ新選組が消費税率を引き下げる「消費税減税」を唱えている。
今年10月の増税に反対している野党各党について、「凍結」「中止」など微妙に表現が異なる。立憲・国民・維新はあくまで一時的な措置としての増税凍結(つまり条件が整えば増税容認)、共産・社民は恒久的な増税打ち止めを主張しているものと思われる。
軽減税率をめぐり批判噴出
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公明党ポスター(平成29年衆院選)
参院選公示直前、SNSのTwitterでは「生理用品」というキーワードがトレンド入りした。発端は、「生理用品やオムツが軽減税率の対象に入っていない」というネットユーザーの投稿だった。
従来、軽減税率の導入を大々的に公約としてきたのは公明党である。
公明党は平成29年の衆院選に際して発表した公約の中でも「消費税率10%への引き上げと同時に飲食料品等に対する軽減税率制度を確実に実施」と記載し、政党ポスターにも「いまこそ、軽減税率の実現へ。」と大書しており、最大の目玉政策としていた。
国税庁が公表しているパンフレット「よくわかる消費税軽減税率制度」では、軽減税率8%の対象として食料品及び新聞が明記されており、公明党の公約が実現した形だ。
公明党が軽減税率を強く打ち出していた背景には、同党の支持層がある。公明党の支持母体である創価学会は伝統的に低所得層を主な勧誘ターゲットとしており、低所得層を直撃する消費増税は評判が悪い。そこで、軽減税率導入によって支持層の離反を防ごうとしたのだろう。
軽減税率は消費税(付加価値税)率が極めて高い欧州諸国で導入されており、英国などでは生活必需品全般に適用されている。そのため、日本国内でも軽減税率が生活必需品全般に適用されるのではないかという期待があり、「生理用品」云々の炎上に繋がった。
しかしもともと、軽減税率制度じたいに「適用品目の区別が難しい」など、運用面からの批判は根強く、財務省は軽減税率の導入そのものに否定的であった。
そもそもなぜ増税するのか?
消費税増税が決まったのは平成24年の民主党政権下における「三党合意」だ。
民主党・自民党・公明党の三党間で「社会保障と税の一体改革に関する合意」が結ばれた。この合意に基づき、「平成26年4月1日から8%、平成27年10月1日から10%とする」消費税法改正案が国会で可決された。
その後成立した自民党安倍政権下で平成26年に5%から8%への増税が予定通り実施されたものの、10%への再増税は2度にわたり延期された。
そして現在、民主党の後継政党ともいうべき立憲民主党と国民民主党がともに増税反対を唱える中で、「三党合意」の呪縛は存在しない。
消費税は、その創設前から時の為政者を苦しめてきた。
昭和54年に自民党の大平正芳(自民党)政権が5%の「一般消費税」導入を掲げるも、総選挙に大敗して断念。昭和63年に初めて竹下登(自民党)政権が消費税法(3%)を成立させ、翌年退陣。
平成6年には細川護熙(非自民・非共産8党連立)政権が7%への増税を発表するも翌日撤回。同年、政権交代した村山富市(自社さ連立)政権が3%から5%への増税を決定。翌年の橋本龍太郎政権(自社さ連立)で施行された後、税収は大幅減少している。
平成21年、民主党へ政権交代。その際、民主党は「消費税率5%の維持」を政権公約に掲げていたが、平成22年の参院選で菅直人(民主党)政権が消費税10%への増税を打ち出し惨敗。しかし平成24年の野田佳彦(民主党)政権で三党合意のもと増税を決定した。
このように、消費税の導入や増税を決定した政権がことごとく支持を失い、首相の座を失っている。
消費税の導入及び税率増の目的は、増大する社会保障費を補填すること、そのような支出の増大に対して国の財政を「健全化」することであるとされている。しかし過去の導入・増税に際して長期的に税収は下降しており、国の税収は1990年代の約60兆円を一度も越えていない。
消費増税に伴って税収が減少した原因としては、消費税が国内の景気に直接影響するためであると考えられる。そもそも税には「懲罰税」という言葉もある(たばこ税が典型)ように、課税品目の消費抑制効果がある。消費税はあらゆる物品・サービスに適用されるため、当然あらゆる消費を抑制する。消費が減れば、景気が悪化し、税収が減る。
黒幕は財務省高級官僚
選挙で勝たねばならない政治家にとって、消費増税は避けて通りたい道だ。それでも彼らが増税に邁進する原因として、「財務省の強い意向」が囁かれる。
日本では米国のような「政治任用制度(官僚人事権)」も無く、政治家の公務員への権限が極めて弱い。気に入らない政権に対しては、意図的に内部の失態をリークして政権に責任転嫁する「自爆テロ」(平成19年の年金記録問題など)を起こすことすらある。
中でも財務省は中央官庁最強とされており、首相といえども財務省の意向に逆らうことは困難だというのだ。
その財務省が消費増税を強力に推し進める理由については諸説ある。
国際的な法人税減税競争圧力や、官僚の天下り先となる大企業の利益を増大させるための法人税減税、所得税などに比べて経済動向に左右されにくい消費税の比率増(税収安定化)などが挙げられるが、エリート層である財務省高級官僚が国民生活のことを考慮していないことは明らかだ。
「景気が良くなると政権支持率が上がり、政治家が官僚の言うことを聞かなくなる」と言う指摘まである。
つまり消費増税問題とは、国民と官僚の対決そのものなのだ。消費増税「反対」を掲げる野党が前面に「増税阻止」を打ち出さない背景には、「高級官僚を敵に回したくない」「どうせ増税しないといけないのであれば敵である安倍政権にやって欲しい」といった政治家心理が透かし見える。
「安倍一強」と呼ばれる勢力図のまま自公両党が参院選に圧勝すれば、予定通り10月に消費増税が実施され、増税に伴う景気悪化によって政権支持率は急降下し、アベノミクス景気による世論の支持だけを基盤にしてきた安倍政権は早晩退陣を余儀なくされるだろう。
逆に与党惨敗となれば、増税撤回の大義名分となる。この参院選で最も苦しい選択を迫られるのは、安倍政権支持者に他ならない。
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本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。