独裁政権・中国共産党が最も恐れる「易姓革命」の呪縛とは

上岡龍次
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中国の悪しき伝統の一つ、それは「易姓革命」である。

古代より中国大陸では、人が集まれば力となり、反乱の種になった。中国には「天命の思想」と呼ばれるものがあり、ここでいう「天」とは、すなわち「民衆の心(支持)」を表す。

覇者は天命によって中華皇帝になれるが、天命が革(あらた)まれば王朝は消滅(=革命)した。

しかし中国共産党は歴史・伝統を否定しており、文化大革命(西暦1966-76年)では宗教・伝統・歴史を暴力で徹底排除した。中国共産党は近代的イデオロギーである社会主義・共産主義を掲げるが、それでも「易姓革命」の呪縛だけは逃れることが出来ない。

法輪功を恐れる

「法輪功」とは、伝統的健康法である気功を体系化した気功集団である。その思想の土台には仏教や道教がとりいれられているのだが、法輪功が宗教組織として機能しているとまでは言えない。それでも中国共産党が法輪功を敵視する理由は、「学習者」と呼ばれる構成員が1億人を超えたためだ。

法輪功の学習者が1億人を超えると、共産党員(約9千万人)よりも多いことになる。仮に法輪功の指導者が政治に無関心でも、学習者の多さが中国共産党に恐怖を与えてしまった。

人が集まれば、それは易姓革命の種となり、民衆の心こそが天命なのだ。もし法輪功が天命を受ければ、中国共産党の支配が終わる。だから中国共産党は法輪功を異常なまでに弾圧している。

宗教を恐れる

中国共産党はチベットやウイグルを併合し、「チベット自治区」「新疆ウイグル自治区」とした。名称は自治区だが、そこでは人間が獣扱いされている。中国共産党はチベット人やウイグル人を人間とみなしていない。さらに、彼らから宗教・言語・歴史などの伝統を奪っている。

一般的に、宗教は「権威」であり、直接は力を持たない。しかし宗教的権威は、強制しなくても人間(信徒)を従わせることができる。人は宗教を強制されなくても崇拝するが、社会主義・共産主義などのイデオロギーは、たとえ強制されても崇拝することはない。

中国共産党は現世の権力である。しかし中国共産党が人民に命令しても、宗教のように崇拝させることはできない。党が「恐怖」によって社会主義・共産主義を押し付けるしかない。だから、中国共産党は宗教が怖いのだ。

宗教とは、人間の生き方を示す道徳の規範である。それだけではなく、人は神仏を畏れ敬う。しかも宗教は、誰かが命令しなくても人を集めることができる。中国共産党からすれば、宗教は易姓革命の「種」に見えるので警戒するわけだ。

神に挑む中国共産党

中国共産党は宗教を否定し、イデオロギーである社会主義・共産主義のみを絶対視している。従って、中国共産党はキリスト教・仏教・イスラム教も認めない。そして中国共産党そのものを人民にとっての神として押し付ける。

宗教の神ではなく、中国共産党を神として崇拝させれば良い。歴代の中国共産党指導者を神として崇拝し、今の中国共産党指導部の信徒として生きることを人民に強要している。

これは、中国共産党が求める社会主義・共産主義という名の宗教だ。

もし中国共産党に魅力があるなら、国民は強制されなくても共産主義者になるだろう。国民は命令されなくても共産党を崇拝するだろう。しかし現実には、中国共産党にはそのような魅力がない。

だから中国共産党は党への崇拝を、人民に強制的に押し付けなければならない。

強制収容所

ウイグル(新疆ウイグル自治区)には100万人が収容された強制収容所があるとされる。そこではウイグル人から宗教や伝統的な生き方を奪う「思想改造」が行われている。さらに強制収容所では、ウイグル人を働かせて暴利を得ているとされる。

中国の経済力は予想以上に強かった。それは何故か? 強制収容所でウイグル人を働かせているからだ。強制収容所で生産される商品の価格は安い。しかし人件費がゼロなら、100万人の生産力が生み出す利益はとてつもなく大きくなる。

中国共産党はウイグルに強制収容所を作り、そこでの強制労働は思想改造を兼ねている。日々の伝統的な生き方を破壊し、労働だけを行わせる。生活リズムを変え、人間をロボット化してしまうのだ。

日々の労働が人間性の破壊を伴うのだから、反乱分子を潰すことにもなる。反乱潰しと同時に、中国共産党は利益を生み出すロボットを獲得する。そのため、伝統的な生活を続けるウイグル人はテロリストとして拘束する。そして強制収容所で働かせる。

テロリストにされる理由

ウイグル人は、生きているだけでテロリスト扱いだ。

その理由は、中国共産党が進める経済圏構想「一帯一路」にもある。実はウイグルは、一帯一路の出入り口に位置する。ウイグルを「門」として外国の貿易路と繋がるのだから、もしウイグルで反乱が発生すれば、一帯一路全体が機能を低下させることになる。

だからこそウイグルは、他の省や自治区と比べ異常なまでに過酷な扱いを受けている。同じ反乱でも、ウイグルの反乱は特別だ。ひとたびウイグルで反乱が発生すれば、一帯一路が機能低下する。これでは経済圏を維持することはできない。

そこで、中国共産党はウイグル人をテロリスト扱いし、伝統的な生き方をするだけで強制収容所に入れる。全ては中国共産党の繁栄のため。ウイグルは中国共産党が繁栄するための生贄なのだ。

人民解放軍すら信用しない

ところで、「中国人民解放軍」は国家の軍隊(国軍)ではない。実は人民解放軍は中国共産党の私兵に過ぎない。しかし中国共産党指導部は、自らの私兵であるはずの人民解放軍すら信用してはいない。

それは人民解放軍の編成を見ればわかる。一般的な近代国家の軍隊は、地方分権型で運用されている。ところが人民解放軍は、警察と同じ「中央集権方式」で運用されているのだ。

軍隊は、外国の軍隊と交戦するために存在する。だから当然、国境付近により多くの基地を置き、武器の大規模な整備や補給を行えるようにする。もし戦闘になれば必ず損耗・破損が出るので、できる限り戦場に近い基地で修理する必要がある。これを効率的に継続できる軍隊が戦闘に勝つ。

ところが、人民解放軍の「修理・整備が可能な基地」は北京周辺に限定されている。もちろん中国の国境付近にも人民解放軍の基地は存在するが、大規模修理が可能な基地は存在しない。

これは中国国外に配置した基地も同じだ。そこでできることは軽い整備と補給だけなのである。

中国共産党は、私兵である人民解放軍の反乱をすら恐れ、地方の基地をまともに整備しようとしない。仮に地方に有力な基地を整備すれば、その基地が反乱の原因になると考えている。

易姓革命を捨てられない

中国共産党は自国の伝統を否定したが、中国の悪しき伝統である易姓革命だけは脱却できない。仮に捨てようとしても、中国人としての本能が易姓革命を呼び起こすのだろう。だからこそ法輪功やウイグル人を苛烈に弾圧し、人民解放軍すら信用しない。つまり、中国共産党こそが易姓革命の狂信者なのだ。

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上岡龍次(うえおか・りゅうじ)/戦争学研究家、昭和46年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。

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