テロに対するイスラエルの反撃を「非難」する日本の悪しき日和見主義

国際
ハマスが襲撃した音楽フェスに参加していた女性(駐日イスラエル大使館SNSより)
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西暦2023年10月7日、イスラエルが悲劇に見舞われた。同国ガザ自治区を実効支配するイスラム原理主義組織・ハマスが大規模なテロを行ったのだ。まずは犠牲になったイスラエル国民とパレスチナ人のために祈りたい

駐日イスラエル大使館は、ハマスが急襲したイスラエル南部の音楽フェスに参加した人々の証言を日本語字幕付きで公開している。

報道によると、ハマスは7日早朝、突如としてイスラエル本土に数千発のロケットを発射。同時に自治区と本土を隔てるフェンスを破壊・突破し、大規模な破壊活動と民間人の殺戮・拉致を行った。10日までのイスラエル側死亡者は900名、怪我人2700名、さらに100名以上が人質として拉致されているようだ(同国軍発表)。

当然ながらイスラエル国軍は即時反撃、ガザ自治区を空爆した。パレスチナ当局はガザ自治区内の死亡者を770名、負傷者を4000名と発表。双方の死亡者は1600名を超えた

日本政府は10日までに「ガザ地区及び同地区との境界周辺」について退避勧告を発出。その中で「イスラエル軍は、今後、本格的な軍事作戦を実行することが見込まれており、事態は非常に流動的」「ガザ地区は(中略)在イスラエル日本国大使館による迅速な邦人保護対応は困難」としている。

イスラエルを支持する5カ国共同声明

9日、米英仏独伊5カ国の首脳はハマスのテロを非難し、イスラエルを支持する共同声明を発表した。以下のその全文を紹介する。

本日、我々(フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、イタリアのメローニ首相、英国のスナック首相、そして米国のバイデン大統領)は、イスラエル国家に対する揺るぎない結束した支持を表明するとともに、ハマスとその恐るべきテロ行為に対する明確な非難を表明する。

我々は、ハマスのテロ行為には正当性も合法性もなく、普遍的に非難されなければならないことを明確にする。テロリズムを正当化することは決してできない。 ここ数日、ハマスのテロリストが自宅で家族を虐殺し、音楽祭を楽しんでいた200人以上の若者を虐殺し、高齢の女性や子どもたち、そして家族全員を誘拐し、彼らは人質として拘束されているのを、世界は恐怖の目で見ている。

我々は、このような残虐行為から自国と自国民を守るイスラエルの努力を支援サポートする。私たちはさらに、イスラエルに敵対するいかなる当事者にとっても、この攻撃を利用して優位に立とうとする時ではないことを強調する。

私たちは皆、パレスチナの人々の正当な願望を認め、イスラエル人とパレスチナ人が等しく正義と自由を享受できるよう支援する。しかし、間違えてはならないのは、ハマスがそのような願望を代弁しているわけではないということだ。ハマスがパレスチナの人々に提供するものは、さらなるテロと流血だけである。

今後数日間、イスラエルが自国を守れるようにするため、そして最終的に平和で統合された中東地域の条件を整えるため、同盟国として、またイスラエルの共通の友人として、我々は団結し、協調していく。

ホワイトハウス(DeepLによる自動翻訳)

一方、日本政府は8日に以下の上川陽子外務大臣談話を発表した。こちらも全文を引用する。

10月7日、ハマスを含むパレスチナ武装勢力が、ガザ地区からイスラエルに向けて多数のロケット弾を発射し、イスラエル領内に越境攻撃を行い、多数の死傷者が発生しました。罪のない一般市民に多大な被害が出ており、我が国は、これを強く非難します。犠牲者の御遺族に対し哀悼の意を表し、負傷者の方々に心からお見舞い申し上げます。

また、一般の市民を含む多数の方々がハマス等により誘拐されたと報じられており、これを強く非難するとともに、早期の解放を強く求めます。

一方、イスラエル国防軍の攻撃によりガザ地区において多数の死傷者が出ていることを深刻に憂慮します。

我が国は、これ以上の被害が生じないよう全ての当事者に最大限の自制を改めて求めます

我が国としては、引き続き、在留邦人の安全確保に万全を期していくとともに、イスラエル、パレスチナ双方への働きかけを強化し、国際社会とも連携しつつ、事態の早期沈静化に向けて尽力していきます。

外務省

岸田文雄首相は、上記の談話と同じ趣旨の文章を自身のSNSに日本語と英語で投稿している。

5カ国と日本の温度差

米英仏独伊5カ国が共同声明で「自国と自国民を守るイスラエルを支援する」としているのに対し、日本政府はイスラエル国軍による空爆を「憂慮」という言葉で非難し、「全ての当事者」という言葉で同国軍に自制を求めている。

すでにイスラエルはハマスに攻撃された本土南部を制圧したと発表。しかし今後、ガザ自治区内に拉致された被害者を救出するという非常に困難な任務に直面している。イスラエル政府はガザ自治区への電力供給を停止。EU諸国もパレスチナへの支援を一時停止している。

ハマスのテロによる犠牲者はイスラエル人とパレスチナ人だけではない。NHKが各国政府の発表をまとめたところによると、米国人11名、タイ人2名、フランス人4名、イギリス人10名、アルゼンチン人7名、ブラジル人1名、ペルー人1名の死亡が確認され、さらに多くの行方不明者がいる。

いまのところ日本人の死亡者や行方不明者は確認されていないが、他人事とはいえない。しかし日本政府の反応は鈍い。外務大臣談話から感じられるのは、日本政府の無責任と無関心である。

和平を一方的に破壊したハマス

イスラエルは建国当初から、パレスチナ人との共存という困難な課題を抱えてきた。近年の、同国政府による対パレスチナ政策が妥当だったのかなど、今後検証すべき問題はあるだろう。

しかし一方で、ハマスは軍事的にガザ自治区を実効支配している武装勢力に過ぎず、ガザ住民の意思を代表しているとみなすことはできない。アラブ諸国とイスラエルの関係改善が進む中、自らの存在感を示したいという欲求も垣間見える。

ハマスの行動パターンは典型的なテロ組織そのものだ。2001年のアルカイダによる米国同時多発テロを想起するまでもなく、彼らの破壊活動は「支配への抵抗」というよりは、デモンストレーションによる自己顕示であり、目的は自らへの支援拡大だった。

今回のテロも、もし「パレスチナ人の自治権拡大」あるいは「パレスチナの独立」が目的であるならば、どう考えても逆効果である。ハマスは長年「イスラエルの殲滅」を掲げているが、そもそも彼らにそんな力はない。少なくとも国際社会は「イスラエルの殲滅」など許容しない。

ハマスがイスラエル政府に与えた衝撃は計り知れない。今後、同国政府はパレスチナ自治区に対する政策をより厳しい方向に修正せざるを得ないだろう。自治権の拡大は、即、自国民の危機に繋がることが明白になったからだ。

わが国も長年、パレスチナ自治区に対し人道支援を行ってきた。食糧援助やインフラ整備など、1993年以降の支援額は累計23億ドル(外務省)に上る。現状、日本政府からパレスチナ支援を見直す声は聞こえてこないが、自治区内にテロ組織が残存したまま支援を継続することは人道に反し、パレスチナ人のためにもならない

敵はテロリストとテロ国家

いまハマスはイスラエル人と、その他多くの国々の国民を拉致している。彼らを人質とし、人間の盾とするためだ。

日本政府はこの後に及んで中立的な態度をとっているが、自国民が北朝鮮に拉致されているのを忘れているようだ。北朝鮮による日本人拉致は極めて長期間にわたっており、もちろん背景も異なる。しかし本質的には侵略(主権侵害)であり、テロであることに変わりはない。

イスラエル政府には自国民の人権を保護する義務があり、同様の義務が日本政府にもある。イスラエルがその義務を果たそうとしているのに対し、日本政府にはその兆候すらない。日本の対北朝鮮政策と、今回のハマスによるテロへの無神経な態度は一貫している。非常に問題だ。

ロシアによるウクライナ侵略戦争も終結の見通しがない中、中東の火薬庫が爆発した。今後、世界情勢は一層混沌とすることになる。日本としては台湾や北朝鮮に火種を抱えている。日本の政府と国民は、これ以上「日和見主義」を続けることはできない事態に追いやられたことを知るべきだ。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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