問われる大学の存在価値 単なる就職予備校で良いのか

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そもそも、我々は何のために大学へ進学するのか。

ベネッセ教育総合研究所が2013年に大学へ進学した高校生を対象に行った「高校生の大学選択の基本要因に関する調査(2013年)」というデータがある。

これによると、国公立・私立を問わず「学びたい学部・専攻があるので、それを学べる学部・大学を選んだ」という前向きな理由が最も多かった。一方、「進学することだけが目的で入れる大学を選んだ」という後ろ向きな理由が少数派であったことに胸をなでおろした。

「教育の憲法」である「教育基本法」には、大学の在り方が次のように規定されている。

第七条 大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。
2 大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない

安倍総理は、先の衆議院解散前の記者会見で「人づくり革命」の一環として「どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する。所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限って高等教育の無償化を必ず実現する」と述べていた。

下図は高等学校卒業者の進路状況である。平成4年3月を境に、それぞれ大学・短大進学率は緩やかに増加、一報就職者の割合は緩やかに減少していき、ここ10年間はほぼ横ばいの状況である。平成28年3月時点のデータを見ると、高等学校卒業者の内、大学・短大進学率が54.8%、就職者の割合が17.8%という状況だ。つまり18歳の約半数が、大学進学以外の選択をしているということになる。

<高等学校卒業者の進路状況>

【出典:文部科学省「平成28年度学校基本調査」】

「就職率XX%」「大手企業に多数就職」。しばしば大学の広告などで目にする文言であるが、これらを目にすると、大学は学生が就職するために存在しているのか、との錯覚に陥ってしまう。

もちろん、大学で「専門的に」学んだことを、社会に出て思う存分活用できれば、それに越したことはない。しかし、必ずしもそうではない、むしろ大学で学んだことと接点がない仕事をするケースの方が多いのではないだろうか。

しかし、労働政策研究・研修機構のデータによると、学歴によって生涯賃金に相応の差があることが分かる(下図)。例えば大学・大学院卒と高校卒の男性を比較すると、約6,300万円の開きがある。

<学歴別生涯賃金(2015)>

【出典:労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2017」】
※各学校を卒業後、すぐに就職。60歳退職までフルタイムの正社員を続ける場合。同一企業に継続して就業とは限らない

この数字だけを見ると、やはり少なくとも大学まで進学したいと思う子供たち、そして「親心として」そのような子供たちを大学進学させたいと思う親がいたとしても不思議ではない。

ただ、上記金額は「フルタイム」の「正社員」を続ける場合である。

非正規雇用労働者は平成6年(20.3%)から緩やかに増加しており、平成28年の役員を除く雇用者全体では、37.5%を占めるに至っている。

一方、転職を中心とした求人サイトで求められる人材は「学歴不問」の場合が多い。新規学卒後、一定期間社会人としての経験を積んだのであれば、学歴よりもむしろ、実績の方が優先されるのは、至極当然のことであろう。

改めて、大学は何のために存在するのか、国公立・私学を問わず、各大学の存続を掛けた闘いが続いている。冒頭で述べた「学びたい学部・専攻があるから、この大学を選んだ」という学生の学問的欲求を満たし、彼らを実社会に送りだす、そのような体制が望まれる時がきている。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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