自分の生活を自分で守るために、日本人は金融を学ぶ必要がある

人生観
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日本人にとって馴染みの薄い教育の一つが「金融教育」ではないだろうか。日本人は、お金のことについてはあまり、とやかく言うことを好まない国民性であるように感じる。

しかし、このことが時に物事の進行に影響を及ぼしたり、(物事を)曖昧なままにしてしまったりすることにも成り兼ねない。特に外国との交渉事などにおいては、相手のために無償で何かを行おうというボランティア精神が、却って裏目に出てしまうことも私自身の実体験としても、ある。

現在、日本の貯蓄額は約1,600万円と言われている(下図参照)。近年はアベノミクスの影響もあり、徐々に貯蓄から投資に向かい始めたものの、長らく続いたデフレ下では、人々のマインドはそう簡単に変わるものではない。

<金融資産データ>

【出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2016)】
 ※中央値…数値を小さい方から並べた際、真ん中に来る数字

一方、国は国民のお金を動かそうと、さまざまな政策を講じている。

近年の代表的なものとしては、アメリカの制度に倣った日本版の確定拠出年金「401k」、個人型確定拠出年金「iDeCo」、イギリスのISA(個人貯蓄口座)を手本にした「NISA(少額NISA)」などが挙げられる。

確定拠出年金は私的年金制度の一つである。「確定拠出」とは掛け金が確定しているという意味であり、確定した掛け金を拠出して、それを基にした運用収益と掛け金が給付される。年金は退職後に受け取る。

この制度が導入された背景には、社会を取り巻くいくつかの環境変化の影響がある。例えば、少子・高齢化による現役世代の負荷増加といった公的年金にまつわる変化、人材派遣、契約社員の活用が進むことで雇用の流動化・多様化が促されると言った雇用に関わる変化などが挙げられる。

iDeCoの特徴は、毎月の積立、運用、受取り方法など、すべて自分自身で決めることができるという点だ。また月々、5,000円から始められるという手軽さが魅力となっているが、原則60歳以降に受け取る仕組みとなっている。

NISAは2014年1月に始まった個人投資家のための税制優遇制度である。通常、金融商品(株式、投資信託など)に投資をした場合、売却後の利益や受け取った配当に対しては約20%の税金が掛かる。

しかしNISAは同口座内で毎年120万円の非課税投資枠が設定されている。このため、金融商品の配当・譲渡益などが非課税対象になるというものだ。

金融庁が平成28年10月に、NISA制度の効果検証結果を公表している。それによると、現状として口座開設数及び買い付け額は順調に推移しているようである(下図)。

【出典:金融庁データ】

また、若年層や投資未経験者の投資の裾野拡大という効果もあった。このことは、制度開始時に36.7%であった口座開設者に占める50代以下の割合が、46.4%にまで増加したことからも見て取れよう。

おカネについて、とやかく言わない日本人の国民性に起因する、と言ってしまえばそれまでである。また、資産運用など、金融の土壌が成熟していないという見方もできるのかもしれない。

しかし、千年以上の長きにわたり受け継がれてきた日本人の国民性を変えることなく、未来に向かって、我々の生活がより良い方向に向かうためにおカネの使い道を見直すという事であれば、一考の価値はあるはずだ。

これは、高度経済成長が成された理由の分析とも重なる。

高度経済成長が起きた理由は、内外的に我々の先達の「勤勉性」に依るところが大きいと言われる。もちろん、それが成功の下敷きとなっていたことは間違いない。しかし、客観的な理由として「人口増加」「キャッチアップモデル」「冷戦」という要素があったことも考慮する必要がある。

同様に、金融政策が振るわない原因を、我々のおカネに対する「国民性」という不可視な要素だけではなく、より客観的に考察することが必要だ。

ある生命保険会社の社長から聞いた話がある。その会社は業務の一環として、高校、大学などで金融教育の出前授業を行っておられるのだが、日本の教育現場に金融教育が根付くことの難しさについて、「金融に対する教職員の意識も一つの原因ではないか」と話しておられた。また、義務教育に金融科目を取り入れることは「さらに難しいだろう」との認識であった。

しかしこれからの時代、企業の賃上げに頼るだけでなく、自分の「おカネ」を自ら守り、そして増やす、いわば資産的に自立することが必要だ。そのためにも、特に若い世代については、早い段階での金融教育が必要になってくるだろう。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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