外国人労働者を「安価な労働力」とみなす日本企業のトンデモない勘違い

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「外国人労働者が携わる仕事イコール単純な作業」という、それこそ「単純な」認識は、果たして正しいのであろうか。

ここでは技能実習生を念頭に置いて論を進めるが、企業によっては、日本人と技能実習生が同じ作業に従事していることが少なくないのだ。つまり、仮に実習生を「単純な」労働者と認識する時点で、既存の日本人社員が従事している作業が「単純な」作業という等式が成り立つことになってしまう。

また、技能実習生に限らず、外国人労働者の受け入れが論じられる際、往々にしてついて回る枕詞が「安価な労働力」である。

以前、ヒアリングを行ったある企業から、実習生を雇用する費用は「タダなのか」「安いのか」と本気とも冗談ともつかない口調で尋ねられたことがある。まだまだ外国人労働者を、文字通り「安価な労働力」としか見ていない雇用者がいることも現実である。

厚生労働省の平成28年賃金構造基本統計調査結果によると、平成28年の初任給(男女計)は、大学卒が203.4千円、高専・短大卒が176.9千円、高校卒が161.3千円という結果であり、いずれも前年を上回っている。

一方、技能実習生一人を一年間雇用するとした場合、福岡県の最低賃金時給765円(2017年9月時点)を基準に算出すると、支給額は一月当たり約13万円になる。もちろん、給与に加え、日本人社員同様、各種保険等福利厚生費が発生し、さらに法の改正により、実習生であっても日本人と同等の報酬、毎年の昇給が求められるようになった。

これらの事情を勘案すると、少なくとも技能実習生については「安価な労働力」ではないことがお分かり頂けるのではないだろうか。

 慶応大学の北尾早露教授が、外国人労働者受け入れを財政負担軽減の観点から、世代重複モデル※1で検証した取り組みがある。教授は「外国人労働者の受け入れは、人数や生産性によっては日本の財政改善に大きく寄与することが分かった。

ただし、必要とされる消費税率を、10%超下げるような大きな効果を上げるには、アメリカ並みに外国人労働者を受け入れなければならない。それが困難であれば、現実には他の改革(北尾教授は「個人年金勘定※2」としている)と組み合わせることが必要」と述べている。

 では「アメリカ並み」の受け入れとは、具体的にどの程度の数字を指すのか。

北尾教授とともにプロジェクトに参画していた南カリフォルニア大学のセラハッティン・イムロホログル教授の文章(2015年)に、特定先進国の外国人人口及びその比率がデータとして記載されている。それによるとアメリカの外国人人口は3,900万人であり、総人口(3億875万人)に占める割合は12.6%とされている(日本は200万人(1.6%))。

総務省統計局の労働力調査(2017年2月分)を参考に、日本の就業者数を6,427万人として、全労働者に占める外国人の比率を「アメリカ並み」の16.4%という率で算出すると、その数は944万360人となる。

直近の外国人労働者数は108万3,769人(平成28年末現在)で、平成19年に届け出が義務化されて以来、過去最高の数字であるが、それでも「アメリカ並み」の数字は、現実的とは言い難い。

教授は外国人労働者の受け入れを「短期的」、「他の改革案」である個人年金勘定を「長期的」なものと位置付けている。その理由を、北尾教授は「ベビーブーム世代(第一次。いわゆる「団塊の世代」)の引退などによる一時的な財政悪化を防ぐため」と述べているが、私はこれに加えて次のように考える。

つまり、労働者の送り出し先である国の経済が発展していくにつれ、給与などを総合的に勘案した際、わざわざ職を求めて日本へやってくる必要性、メリットが相対的に薄れていくということだ。

制度発足時から現在に至るまで一貫して、技能実習生の大半を占めているのは中国人である(約6割)。しかし近年はベトナム、フィリピンなどからの受け入れが増えており、中国からの実習生は減少傾向にある。

一つの理由として、中国国内の生活水準向上に伴い、相対的に日本で職を求めるメリットが少なくなってきたことが挙げられよう。例えば、みずほ総合研究所のレポート(2012年3月)によると、一人当たり月平均賃金は5年間で約2倍にまで上昇している。

結果、今度はベトナムやフィリピンに、その対象が移動しつつある。しかし、現在は未だ発展途上にある国々も経済発展に伴い、いずれは今の中国がそうなったように、日本で働くメリットが相対的に小さくなることは十分に考えられることである。

もちろん、賃金など待遇面は別にして、日本という国そのものに関心があるという理由で、日本で働きたいと考える労働者も中には存在する。

労働政策研究・研修機構のアンケートによると、技能実習制度を通じて具体的に役立ったこととして、最も多かった回答は「習得した技能」であった。

それ以外では「日本での生活経験」「仕事に対する意識」「職場の規律」など技能実習制度の本旨とは直接関係はないものの、副次的な効果として日本の美点を感じている実習生が少なからず存在することも事実である。

資源同様、人材は無限ではない。仮に日本が、海外からの労働者を「いずれ本国に帰る」という前提での受け入れを続けるのであれば、将来、現地からの送出しが滞ることを想定したうえで、働き方を見直すなど何らかの方策を講じる必要があると考える。

※1 世代重複モデル…世代ごとに異なる影響をもたらすと考えられる政策等が、各世代にどのような影響を与えるのかを考察するモデル。異なる世代間の資源配分を分析するうえで有用とされている
※2 個人年金勘定…「積み立て方式」の年金制度。現行の「賦課方式」の代替案として提示されている

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