平成29年5月3日の憲法記念日、読売新聞に安倍首相のインタビューが掲載され、国内に衝撃が走った。それは、2020年までに憲法改正を実現する、それも、憲法9条の1項2項を残し、「自衛隊保持」を明記するという提案だったためだ。
この首相案は、従来の自民党改憲案とも異なっていた。自民党案は「9条2項削除」「国防軍保持」であり、これは保守派が最低限許容できるラインだった。そして左翼の多くは9条護持を掲げてきた。
わが国において憲法改正が悲願とされながら、70年間にわたり一言一句変えることができていない。そのような膠着状態を打破する秘策が「9条保持、自衛隊追明記」だったのだ。そしてこの案を提言していたのが、民間シンクタンク・日本政策研究センターである。
平成29年8月25日、日本政策研究センター研究部長の小坂実氏が福岡市で開催された「憲法改正推進勉強会」で自衛隊明記をテーマに講演した。この勉強会は、民間団体である「美しい日本の憲法をつくる福岡県民の会」が主催し、毎月一回開いている。
小坂実氏は講演の中で、「安倍首相の提案は、護憲派の主張をすり抜ける画期的なもので、これまでの改憲論議を一変させた」と高く評価。追い詰められた護憲派が憲法9条を死守するために、森友・加計学園問題などのスキャンダル倒閣運動に走ったと暴露した。
とくに日本共産党は党機関紙「しんぶん赤旗」などで、安倍首相案は「日本会議発」であり、日本会議は「侵略戦争正当化掲げる右翼団体」とレッテル張りと印象操作に懸命になっている。
さらに共産党は、日本政策研究センターの機関誌『明日への選択』から小坂実氏の論文を引用し、改憲派の狙いは「憲法9条2項の空文化」にあると糾弾している。これらの護憲派の動きは、今回の首相案の「破壊力」を裏付けている。
森友・加計問題の影響で内閣支持率は下落したが、小坂氏は「過度の悲観主義を自戒せよ」と説く。東京都議選で敗北した直後に国政選挙があれば影響は必至だが、幸い、衆院任期まで一年以上時間が残されているためだ。
そして自民党にとって最大のライバルである民進党の凋落は止まらない。新たな脅威になる可能性の高い小池新党にしても、憲法改正に関しては連携できる可能性が残されている。小池都知事はもともと改憲論者だからだ。
さらに小坂氏は、自衛隊を憲法に明記することの意義を強調した。自衛隊は発足以来、違憲の存在としての不条理に悩まされてきた。
自治体において、自衛官の住民登録を拒否したり、自衛官に「人殺し」と誹謗中傷したり、自衛官の子弟が学校で教師からいじめを受けるなど、「違憲の疑い」に由来する自衛隊差別の事例は枚挙にいとまなく、防衛白書に書かれたほどだ。
それだけではない。かつて阪神淡路大震災に際しては、関西国際空港で支援物資を運ぶ自衛隊ヘリの着陸拒否、避難所における左翼団体による自衛隊炊き出し拒否、市役所の対策本部では自衛隊連絡班の参加拒否など、災害支援に深刻な影響をもたらす事件が多発した。
これら「自衛隊差別」は現在では減っているとはいえ、法的規制や予算、人員配置の観点からも、自衛隊はなお不条理な状況に置かれている。
本来、憲法は全面改正するのが筋であるが、少なくとも自衛隊を憲法上の存在として明記することで、これらの状況を打破することが「9条への自衛隊明記案」の狙いだ。
小坂氏は「憲法9条に明記しただけでは、自衛隊の権限は変わらない」が、「地位は大きく変わる」と言う。地位が変わった結果、自衛隊に対するこれまでの誹謗中傷や不条理な処遇こそが「憲法違反」になるためだ。
地位が変われば、予算や人員の充実、隊員の処遇改善に道が開ける。また、条文に「平和と独立を守り、国民の安全を保つため(自衛隊法)」自衛隊を保持する、と追記することで、敗戦後初めて「国家自立の意思」が明記されることになる。これが「普通の国」への第一歩になると言うわけだ。
最後に小坂氏は「憲法改正の最大の受益者は自衛隊ではなく、国民自身だ」と強調。自衛隊を支持する圧倒的多数の国民世論を基盤として、憲法改正運動に取り組むべきであると檄を飛ばした。
▽美しい日本の憲法をつくる福岡県民の会
http://www.kenpou-fukuoka.com/