自由民主党荒川区議会議員団(以下「区議団」)が政務活動費を使って新潟県湯沢町(以下「越後湯沢」)へ親睦旅行に行っていたことが、令和3年1月13日の東京地裁判決によりわかった。
筆者は上記判決の報道を受けて、荒川区と荒川区議会に情報公開請求をおこない関係する公文書を入手するとともに、住民訴訟の原告となったオンブズマンにも取材をおこなった。
越後湯沢で荒川区政に関する研修会を開く区議団
区議団13名と区幹部職員42名の計55名は平成30年7月21日に「区政の今後について」をテーマとする研修会を開催した。研修会の時間割は以下のとおりである。
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10時から16時頃まで区の11部署が区政について講義をおこなう形式となっている。これが区内(またはその周辺地域)で実施されたのであれば問題はない。
ところが、なぜか研修会は上野駅から新幹線で70分程度かかる越後湯沢駅近くのホテル会場でおこなわれた。しかも16時頃に研修会は終わっているので、日帰りで済むはずなのに研修会場となった温泉付きホテルに宿泊している。
この研修会に区議団は宿泊費や研修会場費、交通費などに合計388,470円を政務活動費から支出した。

一方、幹部職員側は私費での参加となっている。本来休日である土日に遠方まで駆り出され、私費で宿泊費や交通費を支出した職員は気の毒としか言いようがない。
研修会に42名もの職員が動員されたことも違和感を禁じ得ない。11部署が講義を担当するのであれば、最低11名の職員が参加すれば研修会は成立したはずである。いくら最大会派の区議団からの要請とはいえ、そこまで忖度する必要があったのか。
区議会では政務活動費の領収書をネット公開していない。「徳の国オンブズマンの会」の代表(税理士・行政書士)は、区議会に対して情報公開請求をおこない、区議団が区政についての研修会を越後湯沢でおこなったことを突き止めた。
そして「政務活動費支出は違法」とする住民監査請求をおこなった。「区政についての研修会を越後湯沢で開催する必然性はまったくない」というわけである。
この監査請求に対して区の監査委員は、「(政務活動費の条例等には)研修会場については、明確な規定はない」とした上で「越後湯沢は、常識的な範囲の研修会場であったと考えている」と判断し、請求を棄却した。
監査請求の棄却を不服とするオンブズマン代表は、東京地裁に区を被告とする住民訴訟を提起した。東京地裁は、1月13日に原告の請求を一部認容(実質勝訴)する判決を出した。
住民感覚とズレた「地方議会の論理」
まず、越後湯沢で研修会を開催した理由について区議団の主張はこうである。
区議は職務上、携帯電話などを通じて区民から連絡や相談、場合によっては呼び出しを受けることがある。仮に区内で研修会を開催し、区民から連絡があれば、対応に一定の時間を割かざるを得ないため研修の効率は低下する。そのため区民から連絡があっても、区内から一定離れた越後湯沢であれば、すぐに戻ることができないことに理解をしてもらうことができ、急ぎの対応が必要な案件であれば、新幹線では70分程度で区内に戻ることができる。そのため越後湯沢で研修会を開催したのは集中できる環境を整えるためであった
などとしている。
これに対して裁判所は、越後湯沢周辺に居住する講師を招いたわけではなく、区内周辺の会議室でおこなうことができる性質のものであり、越後湯沢で研修会を開催する必要はまったくなかったと指摘。
「集中できる環境」を整えるために区職員を私費で参加させてまで越後湯沢で研修をおこない、その費用に政務活動費を充てることは「住民の理解を得られるものではない」と判断した。
区民からの連絡が気になるために「集中できる環境」が必要というのであれば携帯電話の電源を切り、研修会終了後に着信を確認して折り返し対応すれば良いだけの話しである。
次に宿泊した理由である。区議団の主張はこうである。
時間割に記載の研修会終了後も、飲食を伴いながらではあるが、午後9時頃まで区職員と意見交換をおこなった。この会食では公式な場では取り上げることが難しい内容を本音で交わすことができ、研修の効果を高めた
というのである。
これに対して裁判所は、宿泊費については「結局のところ、議員らが区職員らとの宿泊を伴う懇親会をおこなうため」のものにほかならないとして政務活動費として支出することは違法と判断した。
つまり、この研修会は「親睦旅行」だと認定されたわけである。区議団の主張は苦しい言い訳にしか聞こえない。温泉地で楽しく飲み食いするために、なぜ政務活動費から交通費や宿泊代を支出する必要があるというのか。
国会議員の感覚が国民感覚と乖離しているときに国会がある地名を取って「永田町の論理」という言葉が使われる。区議団の主張は住民感覚からズレた荒唐無稽な「地方議会の論理」としかいいようがない。

「視察研修」という名の税金旅行
判決を受けて、区議団は「主張が認められず残念だが、司法判断を尊重する」として判決に従い約32万円を区に返還した。反省の色はなさそうである。
一方、原告のオンブズマン代表は請求内容の一部しか認容されなかったことを不服として東京高裁に控訴。現在も訴訟は係属中である。
筆者の取材に対して、控訴人となったオンブズマン代表は「控訴審では原審(東京地裁)で認められなかった部分についても認容されるように主張していく」と意気込んだ。「政務活動費は不正と税金の無駄使いの温床となっているので監視が必要だ」とも主張する。
地方議員の政務活動費や「視察研修」などについては、これまでに、さまざまな不正・不祥事が明らかとなっている。
「視察研修」と称しても実際は観光や親睦が目的の旅行ではないかと疑念を抱かれることは珍しくない。呆れたことに「視察研修」と称して埼玉県議会や徳島県吉野町議会が海外へ買春旅行に行っていたことが明らかになったこともある。
オンブズマンは目を光らせているが、政務活動費の不正支出や「視察研修」という名の税金旅行がなくならないのが現状である。
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