2017年8月17日、スペインのバルセロナで乗用車が人混みに突っ込んで多数の死傷者が出る惨事があった。少なくとも死者は14名、負傷者は120名と伝えられている。
地元メディアによると、犯行グループはバルセロナ郊外に住むモロッコ国籍の若者ら12名で、40代のイスラム教指導者が主導的役割を果たしたのではないかと見られている。今回のテロもイスラム過激派組織「IS」が関与している疑いがあるという。
ここ数年、特に欧州でIS関連のテロが増えている。以下、公安調査庁のWEBサイトから、欧州における2015年以降の主なIS関連事件を抽出してみた。
2015/11/13 フランス首都パリ中心部のレストランや劇場,同郊外の競技場などで,銃撃や自爆テロなどによる同時多発テロが発生し,130人が死亡,約350人が負傷。同日,オランド仏大統領は,同テロがISILによる犯行と断定。また,「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)フランス」名の犯行声明が発出。同声明では,「フランスがシリアでの空爆を実施したことへの報復」などと主張。
2016/7/14 フランス南部・ニースで,フランス革命記念日の花火見物の群衆にトラックが突入し,外国人38人を含む少なくとも84人が死亡,202人が負傷。ISILと関連を有する「アーマク・ニュース・エージェンシー」が,「イスラム国」の兵士の1人が実行した旨報道。
2016/7/24 ドイツ南部・バイエルン州アンスバッハで,シリア人難民とされる男が野外音楽祭を狙って自爆し,15人が負傷。ISILと関連を有する「アーマク通信」が,ISILの兵士が作戦を実行した旨報道。
2016/12/19 ドイツ首都ベルリン中心部で,クリスマスマーケットに大型トラックが突入し,少なくとも12人が死亡,48人が負傷。
2017/5/22 英国中部・マンチェスターのコンサート会場入口で,移民2世の男による自爆テロが発生し,22人が死亡,120人が負傷。「ISIL英国」名の犯行声明が発出。
このように続々とテロを引き起こすIS(ISIL)とは一体どういう組織なのだろうか。
イラク・レバントのイスラム国(ISIL) イラク,シリアなどで活動するスンニ派過激組織。「カリフ制国家」を自称。両国などで,政府や,シーア派などイスラム教スンニ派以外の宗派,宗教の住民などを標的としたテロを実行。(公安調査庁)
ISは2004年ごろに成立したとされ、イラクとシリアにかけて勢力圏を築いている。構成員は2万人とも3万人とも言われる。2015年ごろからイラク及びシリアでの勢力圏が小さくなり、欧州でのテロ活動が活発化している。
いったいISは何を目的として殺戮を繰り返すのか。よく言われるのが、カリフ制国家の建国だ。カリフはイスラム教の創始者であるムハンマドの後継者を意味する言葉で、イスラム共同体の指導者のことだ。実際にムハンマドの死後、ムハンマドの親族などが4代にわたってカリフを務めたとされる。
イスラム教の内、このカリフ制の復活を掲げているのがスンニ派だ。そしてISもイスラム教スンニ派を信奉している。(世界のイスラム教徒の8割がスンニ派)
要するに、ISは中東地域を統一するイスラム宗教国家を再建したい。そのために、かつて中東を分割統治し、いまなお影響力を保持する欧州諸国を攻撃するということなのだろう。
テロの指導者たちは、自爆テロによって死ぬことはイスラム教に殉じることになり、「死後は天国へ行ける」と言って若者をそそのかしている。(ただし多くのイスラム法学者は否定)
またISはアラビア語以外に英語などを使って、インターネットを駆使した宣伝活動を行なっていることでも知られている。この宣伝活動によって、ISはアラブ圏以外にもテロリスト候補のリクルート活動を行なっている。欧州での相次ぐテロは、ISによるインターネットでのリクルート活動の結果とも言えるのだ。
ISなどのイスラム原理主義組織によるテロには、中東の歴史的背景があり、問題の根は深い。東京五輪を控えるわが国にとってもテロ対策は他人事とは言えない。政府及び東京都は、自衛隊の活用も含めて万全の体制を整えるべきだろう。