「発言取り消し命令」による言論封殺 維新・松沢議員の発言削除

政治
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昨年12月4日の参議院憲法審査会における松沢成文参議院議員(日本維新の会)の一部発言が会議録から削除されていたことがわかった。

憲法審査会で表現の自由を踏みにじる「発言取り消し命令」

参議院憲法審査会は林芳正参議院議員(自民党)が会長を務めている。松沢議員は同日、林会長の不信任動議を提出した。これにより林会長は退席し、会長代理の那谷屋正義参議院議員(立憲民主党)が一時的に会議を主宰することになった。

そして松沢議員が不信任動議の趣旨説明をおこなった。公式に公開されている会議録では以下のように記録されている。黄色でマークした━━━━━━━━━━という部分が削除された箇所となる。

国会会議録検索システムより

松沢議員は、一体どのような「不適切発言」をおこなったのか。

松沢議員のTwitterで公開されている、発言が削除される前の非公式な会議録によると「審議拒否する会派は委員の資格を返上すべきです」と記録されている。動画でも同様の発言を確認することができる。

松沢成文参議院議員のTwitter(令和2年12月4日付け)より

参議院 #憲法審査会 でのあるまじき言論弾圧!
私が提案した会長不信任動議の趣旨説明に立民と共産から赤線部分を削除しろとクレーム。これは私の意見であり誹謗中傷でも何でもない。当然私は断固拒否。言論・表現の自由がなんと憲法審査会で否定され、発言が削除されてしまう。皆さんどう思いますか? pic.twitter.com/QGoYqb1JIp

— 松沢しげふみ | 参議院議員(神奈川県選挙区)MATSUZAWA Shigefumi (@matsuzawaoffice) December 4, 2020

これは審議拒否をおこなう会派を批判する発言である。人身攻撃におよぶといった意見論評の域から逸脱するものではない。

審議拒否については批判があるのは至極当然であるし、こうした表現は時事新聞の社説などでも見られる表現である。とても誹謗中傷や侮辱といえるものではない。

表現の自由はいうまでもなく民主主義社会の根幹をなすものである。

政党(会派)や政治家はときとして辛辣な批判を受けることがあるが、これは公党・公人として当然甘受しなければならない。憲法審査会で表現の自由を踏みにじる行為があるとは笑い話にもならない。

いやしくも国会は「言論の府」といわれる以上は、院内での発言の自由は最大限保障されるべきである。われわれ国民は国会でどのような議論がおこなわれているのか「知る権利」もある。

今からでも「発言取り消し命令」を取り消し、会議録には松沢議員が発言したとおりに記録すべきである。

地方議会でも横行する「発言取り消し命令」

かくいう私も発言取り消し命令を受けたがある。

私の一般質問が終わり、その日の会議を閉じたときに某議員が議長に「あの発言は許されない」と抗議していたのが見えた。私としては、そのときは何が「不適切発言」だったのかまったくわからなかったが、後で議長から聞かされた話しでは私が某行政委員の不作為(権限不行使)を指摘したことが「侮辱」に該当するというのである。

「侮辱」とは罵詈雑言や嘲笑を浴びせかけることなどによって他人の人格を蔑視する価値判断を表示することである。

私はそのような行為をおこなっていない。議長からは「自ら発言を取り消す意思はないか」という意思確認があった。私は、自らの発言が「侮辱」に該当しないとして断固拒否した。

結局、会期最終日の本会議冒頭において議長から

「芦田議員の一般質問で不適当な発言がありました。この発言に伴う会議録の調整については、議長において精査し、善処いたします。今後、芦田議員は、発言を慎重にされるよう注意いたします」

と宣言があり、録画映像と公開用会議録から当該部分が削除されてしまった。議長権限での発言取り消し命令である。

私の事例に限らず、こうした不当な発言取り消し命令は地方議会でも横行している。単なる発言取り消し命令だけで終われば不利益は少ないが、懲罰(戒告や出席停止)や問責決議の可決にまで発展した例すらある。

1つ事例を紹介すると平成24年に長崎県議会で起こった不当な懲罰がある。

当時の県議会の最大会派は民主党、社民党と自民党の一部によって構成された「連立会派」であった。所属政党の枠を超えて長崎県を良くするために大同団結した会派というわけである。

このような会派は小規模自治体の議会ではしばしば見られるものである。実際に私が議員を務める京都府久御山町でも自民党と旧民主党の議員が混在した会派が見られたことがある。地方は国政と違って対立軸が少ないためだ。

他方で都道府県や政令市といった大規模自治体の議会では政党=会派となっていることが多く、自民党と旧民主党の議員が混在した会派というのはあまり見られない。

こうした会派の是非は意見が分かれるところであろうが、憲法によって結社の自由が保障されているため、どのような会派を結成しようが当事者の自由となる。

これに対して国政では対立する自民党と旧民主党の議員が「呉越同舟」の会派を結成するのはおかしいと批判することも表現の自由として保障されている。

県議会において、この「連立会派」を一般質問で批判したのが自民党会派に所属していた加藤寛治県議(現在は自民党衆議院議員)である。加藤県議は、「主義主張の違う政党が選挙戦後に連立会派を組むことは、県民を裏切る背信行為」「憲政の常道を冒涜する何者でもないと断ぜざるを得ない」などと「連立会派」を批判。

この発言を「連立会派」が問題視。「連立会派」を「侮辱」するものとして懲罰動議が提出され、数の力により加藤県議は9日間の出席停止処分を受けた。およそ「選良」とは思えない感情の赴くままの懲罰といえる。これでは中国や北朝鮮のような独裁国家の所業ではないか。

松沢死すとも院内での発言の自由は死せず

加藤氏が処分を受けて議場を去るときに「加藤は死すとも、言論の自由は死せず」と発言した。これは県議会の会議録にも残されている。

私は、このような不当・違法な出席停止処分は議会からの「勲章」と受け取るべきであろうと考える。

不当な発言取り消し命令があれば裁判所で争っては良いではないかと思われるかもしれないが、判例では発言取り消し命令は議会の内部問題として司法審査の対象とならないとしている。法律用語で「部分社会の法理」といわれるものである。

一方、議会への出席停止処分についても、これまで判例は司法審査の対象外としてきたが、昨年11月に最高裁判所は判例を変更。司法による救済が可能となった。60年ぶりに判例が変更された背景には地方議会が懲罰権を濫用してきたことが指摘されている。

国会も地方議会もいやしくも「言論の府」といわれるが、多数会派が結託すれば数の論理で簡単に言論封殺をおこなうことができるのが現実である。

不当な発言取り消し命令は「言論の府」として自殺行為であり(懲罰などは論外である)、まさに「憲法の定める表現の自由に反し、立憲主義にもとり、議会制民主主義を否定する暴挙」(昨年12月4日参議院憲法審査会での松沢議員の発言)なのである。

(あしだ・ゆうすけ)昭和58年生まれ。京都府久御山町議会議員(1期目)。平成23年行政書士試験合格。平成31年4月初当選。

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