なぜ日本人は「Z」が好きなのか? 日本海海戦から受け継がれる魂とは(後編)

私は教育のあり方とは、その本質において、優れて保守的なものと思っています。先人が営々として積み上げてきた文化、その上に私達の今の繁栄があります。

例えば、ゼロは現在では小学生でも学びますが、ゼロ概念そのものは数学上の大発見の一つです。

西洋の言葉に

「巨人の方の上に乗っているこびとは巨人よりも高い物を見ることができる。」

というものがあります。

ニュートンが出した手紙の一節に、

「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。(If I have seen further ,it is by standing on ye shoulders of Giants.)」

とあるそうですが、これなどはその間の消息を示して余りありません。

この先達の“魂のバトン”とでもいうべき精神の精華をしっかりと受け継ぎ、さらに進めて次の世代へとバトンを渡すこと、この伝統文化の継承・進展こそは教育の第一義の筈です。

そして、そのとき、私達の心は動き始めます。何故ならば、文化の継承・進展は心の働き無くしては成り立たないからです。

伝統文化と単なる古い慣習や遺物の違いとは何か、それは、今も私達の生活の中に生きているか、生きていないかの違いです。

そして、過去のものが現在も生きているとは、人が常に心に受け継ぎ、進展させていることを意味しています。それこそは、異世代間の文化の継承(文化遺伝子の伝達)なのです。

そして、当たり前のことですが、そこには、人間の存在と、受け継がれてきた生命と文化に対する深い愛情と畏敬の念、そして自己に対する真摯な省察があります。

伝統文化は、私達に深い自己省察の契機を与えてくれます。(小説家・三島由紀夫は、これを「文化が我々を見返してくる」と表現しました)

そして、その時に、私達の経験は深化を始めるのです。深い学びの始まりです。この自律的な努力を軽視すれば、伝統は唯の知識の集積であり、新たな創造の枷(かせ)でしかありません。伝統は、自己(心)が深まること以外には真に継承することが出来ないと言われる所以です。

翻って戦後、私達は、この文化の継承・進展という教育の第一義をどれほど大切に考えてきたでしょうか。私は、今の教育には心を働かせる局面が非常に少ないように思います。心が動かない状態を、人は退屈と呼びます。今、授業中居眠りをしている生徒達は、心の働きの本質的な意味において退屈なのです。

このようなことに思いを馳せる時、私の脳裏にいつもよぎるのは、福岡市の修猷館高校で、長年に渡り極めて優れた国語の教育を行い、その卓越した識見と情熱迸る教育姿勢から、平成の吉田松陰とまで言われた、故小柳陽太郎先生が残された次のような文章です。

彼らは、口にこそ出さないでも、心の底ではこのような歴史に輝く美しさにふれることを待っているのです。彼らはその「美しさ」に飢えている。「感動」に飢えている。その心に応えてやることから新しい教育は出発しなければなりません。
小柳陽太郎著「教室から消えた[物を見る目]、「歴史を見る目」」(草思社)より

この言葉は、いつも私の胸に刺さります。皆さんはいかがでしょうか。

先だっての2005年は、日本海海戦100周年の年でもあると同時に、奇しくもトラファルガー海戦200周年の年でもありました。

当時ロンドンに在住していた方からの話によれば、イギリスでは国をあげて、盛大なイベントを挙行し、自国の輝かしき歴史を讃えたそうです。

一方、我が国はどうだったでしょうか。まったくもって憂慮に堪えない状況です。一人の人間に光もあれば影もあるように、一国の歴史にも光と影が有り、その両方を学んでこその歴史だと思うのですが。

小柳陽太郎著
『教室から消えた「物を見る目」、「歴史を見る目」』
草思社刊
学校は個性尊重を言う前にまず古典教育を徹底せよ! 福岡県で名物国語教師として知られている著者が、軽視され続ける日本の伝統文化の復権を説く骨太の教育論。

石原志乃武(いしはら・しのぶ)昭和34年生、福岡在住。心育研究家。現在の知識偏重の教育に警鐘を鳴らし、心を育てる教育(心育)の確立を目指す。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会幹事。福岡黎明社会員。




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