意外に恵まれている?外国人技能実習生の住居と賃金の実態とは

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これまでにも、話題として何度か取り上げたことがある「技能実習制度」。「技能実習生へ技術などの移転を図り、その国の経済発展を担う人材の育成(外国人技能実習機構※ホームページより)」を目的とする制度である。

※外国人技能実習機構・・・法務省や労働基準監督署等の出向職員で構成され、外国人技能実習制度に関わる業務を監理、統括する組織。平成29年1月25日設立、「技能実習法」を設置根拠法とする。主務大臣は法務大臣及び厚生労働大臣。

日本に於ける外国人労働者の数は現在1,278,670人(1月26日、厚生労働省発表)。その内、技能実習生は257,788人(20.2%)を占めており、日本の労働現場でも無視できない存在となりつつある。

同制度については、内外共に種々の面から批判的な声が多く聞かれる。中でも、「劣悪な環境下、低賃金で、不当な労働を強いられている」といった、外国人労働者を語る際の「枕詞」とも言える、人権的側面からの批判だ。

人は眼前にある事象ではなく、ある物事を字面で見ると、自分の過去の経験などに則し、却って想像を逞しくする。例えば、同じ文芸作品で、映画化されたそれと、原作を読むことの違いである。

技能実習制度に与らない人が、新聞報道等で同制度に対する上記のような記述を読んだとする。そうすると、恐らく「技能実習生として働く外国の方々は、劣悪な環境下で労働に従事させられているのだろう」と思っても不思議ではない。

私は業務上、清掃の状況等含め日常生活面での指導をするため、実習生たちが住む宿舎を定期的に見て回ることがある。

そこで目にする光景は、多くの人が想像するであろう、そしてもしかすると、以前はそのようであったかもしれない、いわゆる「タコ部屋」とは程遠い、恵まれた環境である。

家庭用ホームシアターを設置している実習生、新婚夫婦の新居かと見紛う「マンション」の一室を住まいとして提供してもらっている実習生…。百聞は一見に如かず、さすがに無理ではあるが、状況が許せば、写真を掲載してご覧戴きたいと思う程である。

実習生の宿舎についても基準が詳細に規定されている。例えば、寝室は一人当たり4.5㎡を確保すること、寝る時間の異なる実習生がいる場合は、部屋を別にすること等、である。

いずれも旧労働省令の「事業附属寄宿舎規定」に沿った内容である。ただ、正直なところ、現場にいる人間として感じることは、そこまで「してあげる」必要があるのか、という素朴な疑問である。

企業の「人手不足」は加速している。直近(2017年12月)の有効求人倍率は1.59倍であり、1974年1月の1.64倍以来の高い水準となった。

技能実習生が本来の制度主旨である「技術移転」には大部分に置いてそぐわないものの、人手不足解消という現実問題の対処に貢献していることも事実ではある。

近年、日本の新卒採用は「売り手市場」が続いている。採用する企業側も、優秀な人材を確保すべく、説明会時に学生が企業の面接官を「逆指名」する試みなど、試行錯誤している。

この流れと歩を一にするかのように、技能実習生についても言わば「官製売り手市場」の様相を呈している。

従来、技能実習生が日本で働くことができる期間は3年であった。それが、法改正に伴い5年まで可能になった(但し、試験に合格することなど一定の条件が有る)。

また、賃金については原則、「日本人が従事する場合の報酬と同等額以上であること」とされており、「同一労働同一賃金」が謳われている。

このような流れは、現下の日本の労働市場を考慮すると、外国人労働者を日本人労働者と同等に捉えるという点に於いて一定の評価はできると考える。

我々のように技能実習生を受け入れる団体(組合)は、「営利を目的としない法人であること(国際研修協力機構ホームページ)」とされている。

さらに、実際に実習生を受け入れる企業と共に、冒頭で述べた外国人技能実習機構からの実地検査を受けることにもなっている。このように、国の管理下、膨大な提出資料と併せて諸々の縛りがある中で運営されているのだ。

先日、西日本新聞で韓国の外国人労働者受け入れに関する記事を読んだ。現在、韓国も日本同様、建設現場などで働く外国人労働者が増加しているという。

▽建設現場 支える外国人 労災事故多発 賃金の未払い 課題は日本と共通
www.nishinippon.co.jp/nnp/world/article/397096/

そのような中、釜山に「釜山外国人勤労者支援センター」という外国人労働者の支援をワンストップで行う組織が設立された。

重要なことは、同センターがNPOなどの民間団体ではなく、行政により設立されたことである。人材不足に喘ぐ労働現場の現状を直視し、対処しようとする韓国政府の「本気度」が見て取れる事例であると言えよう。

私はいっそのこと、日本も技能実習制度そのものを、政府が中心となって行えばいい、むしろ行うべきではないかと考える。

現在の状況は言葉を選ばずに言えば、「手間暇が掛かる」。しかし、実習生という一人の人間が国境を越えて動く責任とリスクを、政府は受け入れ団体、企業に押し付けている。

程度の差こそあれ、政府として、どこまで外国人労働者の受け入れに関与すべきであるか、本気度が問われている。 

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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