「教育無償化」だけで良いのか?学習塾に依存する日本の教育現場

現在、日本の多くの児童・生徒にとって、学習塾に行くことは、ほぼ「標準装備」に近い状態である。学習塾も従来の5科目に加え、英会話や新しく小学生の学習指導要領に組み込まれるプログラミングなど内容を充実させてきている。

下記の数値は小6、中2・3の通塾率の推移である。中学生の約半数以上が何らかの形で通塾していることが分かる。

<通塾率推移>

小6 中2 中3
2007年 37.8% 50.9% 65.2%
2002年 35.6% 48.9% 62.5%
1993年 41.7% 59.1% 67.1%

【出典:文部科学省データ】

文部科学省の学校基本調査によると、補助学習費における「学習塾費」は以下のとおりである。

<中学校、高校学習塾費(人/年)>

学年 公立 私立
中1 125,018円 107,105円
中2 161,115円 141,936円
中3 326,333円 156,886円
高1 56,681円 77,061円
高2 94,666円 154,695円
高3 136,647円 198,889円

【出典:「文部科学省学校基本調査(平成26年度)」】

また、学習塾費用を支出している場合、公立中、公立・私立高では「40万円以上」支出している割合が最も高くなっている(私立中は20~30万円未満)。

中・高いずれの学齢でも、最高学年での出費が最も多くなっている。受験期を迎える学年ということもあるだろうが、決して少ない額ではない。

昨今は、一時期「受験戦争」と称されたような激しい言葉は聞かれなくなった。しかし、それでも冬の受験シーズンを迎えると、それぞれの学習塾では直前の講習会が行われる。そして、やはり少なくない金額が、この受験戦争に投じられることになるのだ。

とは言え、私は受験それ自体を全面的に否定するものではない。その理由は、受験という一つの壁を乗り越えることで、成長する子供たちを何人も間近に見てきたからだ。

私は小学校から大学まで、すべての学齢の受験に携わったことがある。そのうえで敢えて言うと、受験を必要とする小学校及び中学校に入学するためであれば、学習塾に行くことも必要であると思う。なぜなら、入学試験の内容がそれぞれ、特に幼稚園、小学校の通常の学習過程で学ぶものではないからである。

また大学入試についても、いわゆる「偏差値の高い」大学であれば、それ相応の対応が必要になることもある。

しかし高校、特に公立高校入試(ここでは福岡県の場合を想定)は、学校の授業をしっかりと理解しておけば、塾に行かずとも十分「戦える」内容である。中学生は受験を控える3年生に留まらず2年生はもちろん、1年生も早ければ中学生に上がる前から既に、中学校の勉強の準備と称して通塾する児童も少なくない。
 
文部科学省が小学生、中学生を対象として、学習塾に通わせた理由を調査した結果である(平成20年度公表)。小学校全学年、中学3年で最も多かったのが「子どもが希望するから」という回答だった。ほぼ大半の生徒が高校を受験する中学3年生については、「学校の勉強だけでは受験勉強が十分できないから」という理由は2番目であった(中学1,2年で最も多かった回答は「一人では勉強しないから」)。

私が学習塾の運営に携わっていた際、ある保護者から次のような話を聞いた。「私立高校は公立高校に比べ、学習面でも細かく見てくれると聞いていた。それで塾に通わせる必要がないと考えていたが、結局は(子どもの成績が芳しくなく)通塾することになってしまった」。

誤解を恐れずに言えば、勉強の出来不出来は最終的に生徒個々人の努力に因るところが大きい。ただ、この保護者にとっては、公立高校よりも高い私立高校の授業料と、通塾費用の「ダブルパンチ」が大きな痛手であったのだ。

昨今確かに、部活動や書類作成などの事務作業に掛かる時間の多さが指摘され、先生方の「本来業務」であるはずの、授業(準備)や生徒対応が疎かになっている点が問題視されている。ただ、授業については実際に教室現場で教える先生方に頑張っていただくしかない。

一方、学習塾そのものについても、一定の必要性はあると思う。

私が運営に携わっていた教室の生徒に、ある事情から不登校になっていた中学生の女子生徒がいた。その子にとっては塾で勉強することが、本来教室で学ぶべき内容に遅れを取らないための唯一の手段であった。

ただ私は、受験を含めて、塾に行かなければ立ち行かない、また「塾ありき」になってしまっている現行の教育現場の在り方には疑問を感じる。
 
塾業界の売上高(受講料収入と教材売上高の合計)は、平成26年度から28年度のデータを比較すると増加傾向にある。平成29年については9月までの数字であるが、それでも前年度同時期と比較するとやはり増加しており、前年度を上回る可能性が大きい。

<学習塾業界の売上高推移>

年度 売上高(百万円) 備考
平成29年度 321,391 1~9月の実績
(7~9月=125,775百万円)
平成28年度 437,173 7~9月=124,489百万円
平成27年度 434,216
平成26年度 409,768

【出典:経済産業省データ】

先月(11月)末、自民党政務調査会が「人生100年時代・全世代型社会保障への転換」という提言を公表した。提言中、高等教育に関し「新たな政策パッケージ」として、授業料減免措置や給付型奨学金の拡充を進めるべきであるとの言及がなされた。

一方、低所得世帯に限定するであったり、対象とする大学も限定される可能性があったりと、一定の制限を設けたうえでの(高等教育への)アクセスの機会均等確保が検討されるようである。

我が子によりよい教育を与えたいというのは、万人の親の願いである。仮に学習塾に頼らなくてもよい学習環境が整い、それまで学習塾に費やされていた費用を他の使途に回すことができるとすれば、社会のおカネの動きも変わってくるのではないか。

昨今の教育無償化に関する議論は先々、学習塾業界にも少なからぬ影響を及ぼすことになるだろう。
 

安部有樹(あべ・ゆうき)/昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。現在、外国人技能実習生を受け入れる管理団体に勤務するかたわら、社会的な問題解決のための提言を続けている。

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