【自民全敗】選挙結果は「保守系野党」を求める国民の声

政治
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令和3年(西暦2021年、皇暦2681年)4月25日、衆院選・参院選の補選と参院選の再選挙、名古屋市長選挙の、合計4つの選挙の投開票が行われた。4つとも自民党の公認候補や党籍を持つ候補者が落選した。

4つの選挙はそれぞれ「衆院選補選」「参院選補選」「参院選再選挙」「政令指定都市首長選挙」と、全く性質が違う上に、地域までバラバラだ。しかし、この4つの選挙で共通して見られた特徴が「保守層の自民党離れ」であり、複数の地域で同時に見られたこの傾向は、日本全体に当て嵌まると考えられる。

「保守系候補」擁立が立憲民主党勝利の決め手

4月25日の選挙では立憲民主党公認候補が2人も当選した。自民党とは対照的な「勝利」であるが、これを「リベラル派の勝利」と考えてはならない。むしろ逆である。

立憲民主党公認候補の勝利した北海道2区と長野県は保守層の強い選挙区である。

北海道2区は過去には野党が勝利したこともあるが、その野党候補は全員旧新進党系の保守派候補であり、しかも平成24年(西暦2012年、皇暦2672年)以降は自民党の全戦全勝であった。

参院選長野県選挙区も2人区時代は自民党候補者が一度の例外を除くと必ず当選していた。

長野県は比較的社会党が強かったが、社会党解党後は野党の当選者も全て旧新進党出身の保守系であり、唯一の例外が菅直人元首相のグループに所属する杉尾秀哉議員(平成28年当選)だが、彼も緊急事態条項明記のための改憲には賛成するなど、菅直人派にしては保守色が強かった。

この両選挙区で今回立憲民主党が勝利したのは、いきなり保守派が減ったからでは、無い。今回当選した松木謙公議員と羽田次郎議員は、いずれも旧国民民主党出身である。

松木謙公議員は藤波孝生元官房長官の秘書出身であり、菅直人政権への内閣不信任決議案に賛成して民主党を除名された人間だ。

尖閣諸島問題では「役人を派遣してでも、そこに住まわせてお」くべきである、と主張するタカ派でもあった(松木謙公『日本をダメにしたこの民主党議員たち』日本文芸社、参照)。

羽田次郎議員は国民民主党の故・羽田雄一郎議員の弟。羽田一家は自民党→新生党→新進党→太陽党→民政党→民主党→民進党→国民民主党と歩んできたが、いずれも「保守」の立場であった。

もっとも、羽田次郎議員について言うと今回の補選で共産党の推薦を受けたことが問題視されたが、結局「国民民主党の綱領を支持する」と述べて国民民主党からの推薦も受けている。そもそも「左翼的」とされた市民連合との政策協定の内容は曖昧な内容であり、少なくとも左派色を鮮明にはしていない。

長野県には衆院選の選挙区が5つあるが、平成29年(西暦2017年、皇暦2677年)の衆院選での当選者の所属政党は「自民党2人、希望の党2人、無所属1人」であり、同選挙で逆風を受けていた保守系野党の希望の党が2人も当選していることからも保守系野党の強さが伺える。

羽田次郎議員当選の決め手が「非自民の保守票」であることは明白だ。

自民党は有権者から「共産党以下」と思われている?

しかし、北海道2区も長野県選挙区も、共産党は候補者を擁立しなかった。そのことが「決め手」になったのではないか、という反論もあるだろう。

だが、それは共産党の「基礎票」を見ると錯覚に過ぎないことが判る。

今世紀に入ってから共産党候補者が獲得した「最も少ない票」を「共産党の基礎票」としてみる。彼らは「どんなことがあっても共産党の候補者に入れる層」だ。

北海道2区の共産党の基礎票は2万4千票、長野県選挙区の共産党の基礎票は11万6千票である。

無論、これは決して軽視できない数だ。だが、今回の選挙で仮に自民党が「保守票」を固めていたならば、逆転は不可能で無かったはずである。

特に、今回自民党が公認候補を擁立せず「不戦敗」となった北海道2区では、自民党員の長友隆典候補が獲得したのは1万5千票。共産党の基礎票にすら及ばない。「当選したら自民党に入党する!」と言っていた鶴羽佳子候補も2万7千票で「共産党レベル」に過ぎない。

なお、北海道2区では維新の会の公認候補が2万2千票を獲得した。共産党の基礎票よりも少ないものの、自民党の退潮と合わせて考えると、今後維新の会がキャスティングボートを握る可能性は出てきた。

さらに言うと有権者からすると「反共」だけならば維新の会でも問題ない訳であるから、今後いくら自民党が立憲民主党と共産党の共闘を批判しても票にはつながらなくなるであろう。

長野県選挙区では羽田次郎議員は共産党から推薦を受けていたにもかかわらず、当選した。自民党は有権者から「共産党よりも酷い」と思われていることを自覚した方が良い。

繰り返すが、今の時代本当に反共を重視する有権者は、維新の会に投票する。

広島県の再選挙では野党の宮口治子議員が当選した。これについても「亀井静香先生が宮口さんを応援していたため、島嶼部でも意外に支持が集まっていた」(宮内陣営の応援に行った国民民主党の党員)との声を聴いた。言うまでもなく亀井静香元金融大臣は保守派である。

「保守層の自民党離れ」は深刻であると言わざるを得ない。

名古屋市長選挙の結果は「保守派の怒り」

それを典型的に表しているのが、上記国政3選挙と同日に行われた名古屋市長選挙である。

名古屋市長選挙では、自民党員の横井利明候補が自民党・公明党・立憲民主党・国民民主党の4党の推薦を受けて、さらに共産党と社民党からも応援されたにもかかわらず、落選した。

名古屋市長選挙での「自共共闘」は過去にも例があったし、今回は愛知県知事リコール運動で署名不正問題の責任を問われるなど、河村市長側に「逆風」が吹いていた。にもかかわらず、河村市長が勝利した理由は一つしかない。保守票が自民党ではなく、河村市長を支持したのである。

特に、公費で天皇陛下の肖像画を焼いた展示を行った「あいちトリエンナーレ」は、過去には動物虐待展示を行うなど、以前から問題のある団体であった。その会長が大村知事であり、そして自民党は大村知事への不信任決議案に反対するなどしていたため、保守派の怒りを買っていた。

それが、一貫して野党に所属していた河村市長の勝利へと繋がったのだろう。自民党は保守票を取り込むどころか、あべこべにリベラル派を含む野党と手を組んでしまったが、同日の他の選挙では勝利していた立憲民主党の推薦も、ここでは何の意味もなかった。

自民党の敗北は、保守派の敗北ではない。むしろ4月25日の総選挙は、保守派による自民党への怒りを象徴しているのである。

このことから少なくない国民が「非自民の保守政党」を望んでいることが明白であると言えるのではないか。政治家の皆様には賢明な判断をしていただきたい。

日野智貴

(ひの・ともき)平成9年(西暦1997年)兵庫県生まれ。京都地蔵文化研究所研究員。日本SRGM連盟代表、日本アニマルライツ連盟理事。専門は歴史学。宝蔵神社(京都府宇治市)やインドラ寺(インド共和国マハラシュトラ州ナグプール市)で修行した経験から宗教に関心を持つ。著書に『「古事記」「日本書紀」千三百年の孤独――消えた古代王朝』(共著・明石書店、2020年)、『菜食実践は「天皇国・日本」への道』(アマゾンPOD、2019年)がある。

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