映画『海獣の子供』と安部公房『第四間氷期』に見る水棲人類とは

映画館で『海獣の子供』を観た。予備知識としては、原作が細密美麗な絵柄で何か賞を取った漫画、ということしかなかったが、米津玄師(主題歌「海の幽霊」)のミュージックビデオと迫力ある深海風景のアニメーションの予告編に惹かれた。

感想は「大画面で観ることが出来て良かった」という事。猛々しい空や海の表情の変化を堪能するには、家庭用TVでは物足りないかも知れない。

孤独な主人公の少女・安海琉花は不思議な少年達との出逢いで、少女の目を通して海の神秘、生命の不思議に触れていく。

海辺の街で生まれ育った主人公にとって海の風景は親しみのある日常の風景だが、少年達に誘われて、ゾッとする様な怖ろしさがあり、美しくもある、生命の深淵たる深海に引きずり込まれていく。

日本古来の自然崇拝

物語は、いっけん少年少女の楽しく明るい海洋冒険談のようであるが、繊細な人物描写と荒れ狂う自然、暗黒の深海の描写がそれを否定する。私達が知っているのは優しい、表面上の空と海だけだという事実が突きつけられる。

ここに私は、私たちの国古来の自然崇拝を感じた。

合理主義が行き過ぎた国々の様に、それはコントロールできるものでも、力で捩じ伏せる対象ではないし、ましてや汚染などもってのほかだ。自然とは、恐ろしく、敬うものであり、ヒトが踏み越えてはいけない一線というものが必ずある。

だから日本の神様はときに戦い、荒れ狂い、祟るのである。

話が逸れるが、よくアメリカのドラマなどで、登場人物が諸事情で金策が必要になりそれが男性であれば「精子を売る」、女性であれば「卵子を売る」、などという話が半分ジョークで語られたりする(半分本当というのがコワイ)。

日本人の私には相容れない感覚だ。お金の為に自分のDNAを他人にばら撒き、その結果生まれた子に、もし自我が芽生え、自分のルーツに思い悩み、遺伝上の親を渇望したらどう責任を取るのだろう?

「どう死ぬか」という視点

話を元に戻すが、私達の住む地球が誕生したのは約46億年前、そして最初の生命が誕生したのは約38億年前の海中であると言われている。物語は空と海の「祭り」というキーワードでダイナミックに進んでいく。

これは地球上に生命が誕生した謎を解き明かす祭典であり、海の生物達が歓喜して集まって行く様を主人公は目撃するのである。

さて、物語の軸としての2人の少年だが、彼らは特殊な育ち方をして、海中を空飛ぶ鳥のように自由に泳ぎ回る事ができる。そのうち1人の少年には死期が迫っている。

冒険談の形を取っているにもかかわらず、メインキャラクターの1人が死と隣り合わせなのである。それでも少年は自らの死に抗いもせず、飄々と少女に命のバトンを渡していく。

これは日本アニメ独特の表現方法であると思う。戦後教育は「個人の自由」と「生きること」を強要してきたが、「どう死ぬか」という視点はおざなりだった。

生と死は表裏一体で本来身近なものであるが、我々は死と向き合わず、死から遠ざけられるような教育ばかりされてきた気がする。実際、数十年前に家族の死を体験した私は、それを受け入れられず慌てふためいた。

「水棲人類」を描く、安部公房『第四間氷期』

原作漫画もさぞ美麗で細かいストーリーが丁寧に綴られているであろうが、私がこの映画を観て真っ先に読みたくなったのは原作ではなく安部公房の『第四間氷期』であった。

1959年発表のこの近未来小説は、東西冷戦の最中に開発された「予言機械」(今で言うAI)が予言した第四間氷期(間氷期=氷河時代のうち、氷期と氷期の間に挟まれた、気候が比較的温暖な時期)に備え、海底に適応した未来の人類「水棲人」を造り出すお話である。

物語後半で、水棲人たちは問題なく進化を遂げ、陸棲人類は過去の生き物となるが、ある日突然、水棲人の1人の少年が陸上に恋い焦がれ陸に還ろうとするのである。

一方は38億年前に発生した命の鍵を解き、一方は絶滅する人類が海底に活路を見出して自らの肉体を造り変え子孫を繋いでいくという、全く異なったストーリーであるが、「水中をどこまでも自由に往き来できる子供」という共通のキャラクターが出てくるのが面白い。

この夏必見の映画と小説である。

安部公房『第四間氷期』 (新潮文庫)
万能の電子頭脳に平凡な中年男の未来を予言させようとしたことに端を発して事態は急転直下、つぎつぎと意外な方向へ展開してゆき、やがて機械は人類の苛酷な未来を語りだすのであった……。
薔薇色の未来を盲信して現在に安住しているものを痛烈に告発し、衝撃へと投げやる異色のSF長編。

木花咲(このはな・さき)/美術系短大卒。健康管理士。猫と漫画とインド哲学が好き。趣味は格闘技。憧れの人物はゴータマ・シッダールタ(釈尊)。

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