2018年9月、台湾国台北市を初訪問した。その際、政治家の街頭広告の多さに驚いた。本年11月に統一地方選挙を控えていることも関係しているかも知れないが、日本との違いに興味をそそられた。
冒頭にあえて「台湾国」と書いたが、むろん現在の正式国名は「中華民国」である。略して「中国」というと、歴史的経緯を知らない人は混乱するかも知れない。
中華民国はもともと南京において建国された国家だが、第二次世界大戦後、中国共産党(八路軍)との内戦に敗れ、旧日本領土であった台湾に逃れた。
台湾において政権を立て直した中国国民党(蒋介石)は引き続きシナ大陸の主権を主張、自分たちが正当な中国政府であるとして「中華民国」の国号を維持し、こんにちに至っている。
つまり現在、地球上に2つの「中国」が存在するというわけだ。しかし李登輝による台湾民主化によって国民党一党独裁が終焉し、近年では国民の間にも「中国人ではなく台湾人」という意識が広まっている。
特に国外に居住する台湾人は中国人扱いされることを嫌い、国際スポーツ大会などで「台湾」という呼称の使用を求める「台湾正名運動」も盛り上がっている。
じっさい五輪などでは台湾は「チャイニーズ・タイペイ」と呼称されることが多く、この呼称は台湾の領有権を主張する中国共産党に配慮したもの、とも言える。
中華圏の民主主義
前置きが長くなったが、台湾を訪問して実感することは、やはり台湾は中華圏の国であるということだ。私は上海にも言ったことがあるが、高度に都市化する一方で中華文化を大切にしているという点で、台北と上海は似ている。
しかし上海を含む中華人民共和国は、言うまでもなく中国共産党による一党独裁。国民(人民)は政治に口出しすることができない。政府(=党)批判などしようものなら即刻監獄行きである。
しかし台湾には、街頭に政治家(及び議員候補者)の広告が溢れており、一見して民主主義国家であることが実感できる。実際、与党も民主進歩党(民進党)と中国国民党(国民党)が政権交代を繰り返している。
台湾には第二次大戦後にシナ大陸から渡来した「外省人」が12%、それ以前に渡来した「本省人」(漢族)が86%、純粋な原住民が2%存在する。
日本統治時代、実は台湾からも衆議院議員を選出する計画があったが、日本の敗戦により実現しなかった。台湾は中華圏にありながら自力で民主化を実現したわけだ。
このことは、シナ大陸における民主化の可能性を示唆するものだろう。よく中国人は「あの大陸国家をまとめるには独裁ではないと無理」と言って共産党政権を肯定するが、台湾民主化はその主張を否定する根拠になりうる。
台湾の選挙運動
産経新聞などの報道によると、2018年7月で既に台湾は統一地方選挙に「事実上」突入しているという。
▽台湾、統一地方選が実質始動 次期総統選の前哨戦
https://www.sankei.com
これは非常に大規模な選挙で、自治体首長と地方議員合わせておよそ1万人が改選、およそ2万人が立候補する(いずれも前回2014年の実績)。
しかもおよそ1年後には国家元首である総統選挙を控えており、今年の統一地方選挙は総統選挙の前哨戦(あるいは前半戦)と見られている。
台湾における選挙への熱の入れようは、ここに掲載した広告写真からも伝わるのではないだろうか。日本では公選法の規制もあり、このような大々的な広告は(政党を除き)できない。
街中の巨大看板に、路線バスのフルラッピング広告など、どこへ言っても政治家(候補者含む)の顔を目にする。また、テレビにも政治専門チャンネルがあり、熱心に政治討論を交わしていた。
今後の国政をも左右するといわれる台湾の統一地方選挙。民主主義とは何なのか、これから東アジア情勢がどうなるのかを考える上でも、注目すべきだろう。
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本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。