来日外国人は、日本人が「幸せ」でないことに気づいている

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「カミカゼ、サムライ、フジヤマ、スシ、ゲイシャ、ハラキリ…」。いずれも、良くも悪くも、従来外国人の方が日本に対して抱いていた典型的イメージである。

私が携わっている技能実習制度では、入国後必ず1カ月間の研修を行うことが定められている。その際、私は研修開始前に必ず、日本に対する印象を聞くようにしている。

実習生としてやってくるのは中国、ベトナムいずれかの若者たちであるが、彼らから異口同音に聞かれる日本に対しての印象は、概ね次のような項目に集約される。

「道が綺麗」「静か(車のクラクションがならない)」「(車の)割り込みがない」「互いに譲り合う」「人が親切」「物価が高い」「技術が進んでいる」というように、おおむね好意的な評価である。

中国、ベトナムの若者たちにとっては、いずれの項目も自国と比べ、日本の方が相対的に良く見えているのである。

上記の内、いくつかの項目は両国と比べれば、確かにその通りである。しかし、「技術が進んでいる」という意見については留意する必要がある。

技能実習生たちは、「建前」として「日本の進んだ技術を学び、母国の発展に寄与する」ために来日する(実際は実習生を雇用する中小企業の大半が、「人手不足」を補うために雇用しているという「本音」については、本稿の主旨ではないため敢えて触れないこととする)。

もちろん、彼ら自身が学ぶ「技術」は溶接、塗装など、主に工場など製造業の現場で必要とされる技術が中心である。

ただ、上述のように「技術が進んでいる」という文脈での「技術」は、現場での技術に限ったことではない。より広範な意味での最先端の技術という意味合いも含まれる。

その「最先端の技術」であるが、日本よりも、むしろ他のアジア諸国の方が、運用面も含めて「進んでいる」のではないかと思われる事例が、いくつかある。
ここでは中国の事例を取り上げたい。例えば、タクシーの配車サービスである。

このサービスを使えば、利用者はスマートフォン一つで、ドライバーの氏名、車種、現在地をリアルタイムに把握することができるのだ。車種を選択することも、ある商業施設の、駐車しようとしている駐車場ナンバーまで分かってしまうというから驚きである。

他には、スマートフォンを使用した決済サービスがある。中国では、大規模な商業施設はもちろん、町の小さな店に至るまで普及が進んでいる。これは偽札が多いという中国の国情が背景にあるが、それでも利便性が向上していることには変わりない。

代表的な決済サービス「支付宝(アリペイ)」「微信支付(ウィーチャットペイ)」はそれぞれ、約5億人、6億人のユーザーを有しているとの報道もある(「支付」は中国で支払うという意味)。

スマホで決済できる中国の自販機

もちろん国全体として見れば、まだまだ日本の方が中国よりも生活水準等は高い。しかし、個々の事例として見ていくと、上述のように実は中国の方が「進んでいる」または「先を行く」場合もあるのではないか。

例えば、電気自動車の普及である。2017年10月、アメリカの電気自動車メーカーとして世界的に有名なテスラ社が、海外自動車メーカーとしては初めて、中国(上海市)に単独で工場を建設することが報じられた。

もちろん、テスラ社も中国を「巨大な市場」と見越しての拠点設置ではあろうが、結果として、中国で電気自動車の普及が加速することになる。

ちなみに電気自動車の台頭は、自動車産業の市場規模の大きさ(約200兆円)からも、「100年に一度の革命(EV革命)」とも称され、投資先としても有望視されている。

テスラ・モーターズのショールーム(上海)

確かに技術の進歩は我々の生活を豊かに、そして便利にする。しかし、そのことが幸せに繋がるかというと、必ずしもそうとは限らない。

私もこれまでに国・地域を問わず、多くの外国の方と触れ合ってきた。しかし、日本人に対するイメージとして、残念ながら「幸せ」という言葉を聞いたことはない。

今回、調査して気付いたことであるが、日本が公的に、他国の日本に対する印象をまとめた統計が見当たらないのだ。

いずれも個々人が自らの見解を述べているものが散見されるに過ぎない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えていることもある。この辺りで一度、各国に設置している在外公館と連携し、各国の日本に対するイメージ調査を行ってみるのも一考ではないだろうか。

日本の在外公館は平成30年1月現在、269館ある(大臣官房総務課。大使館195、総領事館64、政府代表部10)。この内、国連等政府代表部は除き、同一国内であれば都市を限定したとしても、それ相応のデータは集められるのではないだろうか。

歴史を顧みても、技術の進歩は止まらないし、また止める必要もない。AI(人工知能)を活かすも殺すも結局は、我々人間の心の持ち様である。

「進んだ技術の恩恵を受け、国民が幸せな国」。海外の人々から、このような日本像が聞かれる日が来ると信じ、私も微力ながら日本の為に尽くしたいと思う。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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