その映画は平成26年に完成した、2時間弱のドキュメンタリー映像作品だ。監督は光石富士朗氏。ダライ・ラマ法王を追う日本人青年の視点で、ダライ・ラマ14世の人柄や、チベット民族の生き様を見事に描いている。
多くの日本人はダライ・ラマ法王について、あるいは失われたチベット国について詳しく知らない。本作でダライ・ラマ法王に出会った青年も、そんな平均的な日本人の一人だった。
それがひょんなことから、来日した法王に取材することになり、最終的にはインドにあるチベット亡命政府にまで取材に行くのだから、人の出会いというのは不思議なものだ。
現在は中華人民共和国チベット自治区と呼ばれる、広大な高原地帯には、チベット民族による仏教国が存在した。戦後、中国人民解放軍による侵略を受け、チベットは軍事占領され、多くのチベット人が虐殺された。
チベットの国家元首であるダライ・ラマ法王は隣国インドへの亡命を余儀なくされ、多くのチベット人がこれに続き、インド国内に亡命政府が樹立されている。そして現在でも、チベットからの亡命者が絶えることはない。
ダライ・ラマ14世はノーベル平和賞を受賞したことでも知られる。法王は亡命政権の指導者でありながら、武力によるチベット独立を否定し、中華人民共和国の一員として、チベット人の自由と人権を認めるよう中共政府に要求している。
また法王は世界中を周り、各国で仏教の教えを説く伝道者でもある。英語で伝えられるダライ・ラマの「法話」は明快かつシンプルでありながら、人の心を打つ迫力を備えている。それでいて洒脱であり、全く飾らない人柄が愛されている。
この映画では法王だけでなく、多くのチベット人にも取材している。
とくに、インドに亡命し、養護施設で学ぶチベット人の子供達の姿には感銘を受ける。勉強することは楽しいか、何のために勉強するのか、という問いかけに対する子供達の答えを、多くの日本の若者に聞いて欲しい。
ダライ・ラマ法王は何度も来日している。映画の中で、在日チベット人留学生たちが法王に拝跪する姿が捉えられている。彼女たちはいかにも現代風の若者だが、法王に抱かれて涙を流す。法王は彼らに「難民であってもチベット人たる誇りを失うな」と励ますのだ。
また、多くの日本人が法王に質問を投げかける。その多くが、自信のなさ、不安、迷い、そして閉塞感を表す質問なのだが、しかし法王はそんな日本人を突き放す。法王が良く口にするのは、「広い視野を持て」「多角的に見よ」「相手の立場で考えよ」などだ。
この映画を見ればダライ・ラマ法王のこと、チベットのこと、そして仏教のことがよくわかる。しかしそれ以上に浮かび上がるのが、将来への不安に押しつぶされそうな多くの日本人である。
チベット人が国を奪われておよそ70年。それでも多くのチベット人は誇り高く、前向きで、希望を失っていないように見える。それに対し私たち日本人は恵まれた境遇に暮らしながら、大人も子供も希望を持つことができない。
それは何故なのか。それを知るためにも、まずはこの映画を観て、ダライ・ラマ14世の言葉に耳を傾けて欲しい。
本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。
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