「継戦」の形而上学を形成せよ!(3)欧州の危機と日本の未来

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 12月6日、フランス広域地方行政区の地域圏議会選挙の第1回投票では、開票率85%超の時点で、反移民を唱える極右、国民戦線(FN)の得票率が29.4%に達した。写真はFNのルペン党首の姪、マリオン・マレシャルルペン氏。(2015年 ロイター/Jean-Paul Pelissier)
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(執筆者 東山邦守)

『日本経済新聞』(1月5日付朝刊)に以下の記事が掲載された。イスラム圏から大勢の移民を受け入れ、EUという超国家共同体を形成した欧州の現状は、TPPの締結や高度人材の受け入れを進めようとしている我が国にとって他人事ではない。

真正なる独立を実現するため、グローバリズムとネオリベラリズムに代わる選択肢を掲げる政治勢力の形成は急務である。

欧州で極右政党が躍進、雇用・移民問題の不満吸収

欧州で「反欧州統合」や「反移民」を掲げる極右政党の動きが活発になっている。フランスでは地方選補選で議席を獲得、今年3月の統一地方選で躍進する勢いだ。5月の欧州議会選に向けてはフランスやオランダ、オーストリアなどの政党が新グループをつくる構想が進む。好転しない経済・雇用情勢や、移民問題に不満を募らせる市民の支持の受け皿になっている格好だ。

「統一地方選に勝利し、国民に真の選択肢を与えたい」。仏極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首は強調する。2017年の大統領選と国民議会(下院)選を視野に入れた発言で、ルペン氏は党勢躍進への自信を深めている。

FNは昨年10月半ばの仏南部ヴァール県議会の補選で勝利。足元では地方議会などでFNの議席は徐々に増えているものの、この当選は意味合いが異なった。国政で最大野党の国民運動連合(UMP)出身の対立候補が、政権与党の社会党の支持を得ていたからだ。FNが与党と最大野党の協力候補を破った結果に、仏政界は衝撃を受けた。

仏統一地方選は5月の欧州議会選の前哨戦といえる。FNが欧州議会選に向け、力を入れているのが他国の近い主張を持つ政党との連合づくりだ。昨年11月中旬、ルペン党首はオランダ・自由党のウィルダース党首と会談し、欧州議会で新たなグループの結成を目指すことで一致した。

昨年9月の議会選で極右の自由党が躍進したオーストリアでは、11月にFNやスウェーデン、ベルギー、イタリアなどの極右政党が欧州議会選での協力のあり方を協議。欧州議会で新会派をつくるには7カ国から25人の議員が必要で、この規模を目指す方針だ。

極右政党が有権者に受け入れられているのは主に2つの要因がある。1つは「反移民」。債務危機の長期化で社会の閉塞感が強まる中、市民の関心は治安や雇用など身近な面に向きがちだ。例えばフランスでは公園の一部などを不法占拠する少数民族ロマ人が社会問題化し、仏国民は不満を募らす。さらに米同時テロ以降は各党はそれまでの「反ユダヤ」色を弱め、「反イスラム」色を強めている。

もう1つは「反欧州連合(EU)」だ。FNのルペン党首は「EUに奪われた主権を取り戻し、(域内の移動の自由を保障した)シェンゲン協定を破棄すべきだ」と訴える。同協定の締結以来、相対的に貧しい東欧から豊かな西欧への移民が増加。西欧には「移民に国内の雇用が奪われている」との意識がある。

有権者の投票行動の変化に「EUを壊したい勢力が欧州の選挙で勝ちつつある」(シュルツ欧州議会議長)と警戒感が広がる。だが仏調査会社Ifopによると、欧州議会選でFNに投票すると答えた仏国民は全体の24%と、UMP(22%)や社会党(19%)を抑えトップだった。危機で将来の明るい兆しが見えにくいなかで、有権者の内向き志向が鮮明になっている。(パリ=竹内康雄)

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