丸山穂高議員弁明書と糾弾決議全文 戦後体制の欺瞞極まる

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令和元年6月6日、衆議院は丸山穂高衆院議員に対して「糾弾決議」を全会一致で可決した。自民党の小泉進次郎衆院議員は採決前に退席した。

糾弾決議に先立つ6 月3日、丸山穂高議員は衆院に「弁明書」を提出していた。弁明書の全文は以下の通り。

丸山穂高議員弁明書(全文)

今回の国後島(くなしりとう)での案件につき、あの場での不適切性や元島民の皆様への配慮を欠いていたことについて、重ねて謝罪申し上げます。

ただ、本件での各言動においては、これまでの議員辞職勧告決議案などの先例と比べてもそれ相当の刑事事件や違法行為があったわけではありません。

またいわゆる、戦争関連の発言に対して平和主義を掲げる憲法への違反行為であるというのも無理があります。具体的行動ではなく懇親会での会話をもって直ちに憲法9条や99条違反だというのは飛躍しすぎており、憲法違反であるとも到底言えないものです。

私の当日の言動が不適切であり配慮を欠くものであることは間違いありませんが、刑事事件における有罪判決相当でもない本件のような言動にて議員辞職勧告決議がなされたことは憲政史上、一度もありません。また譴責決議についても、過去のいかなる不適切な言動についても行われたことがないものです。本件に対して何かしらの対応がなされるというのは、院において長年積み重ねてきた基準や先例から明らかに逸脱するものです。

加えて昨今でも、同僚議員各位における違法行為の疑いのある具体的行動についての報道、不適切で品位を損ねる院外での言動なども見受けられますが、これら他には何らの決議や聴取などのご対応もない中、要件を満たさぬ本件に対してのみ院として何かしら対応をなされるというのは公平性を欠くものと考えます。

決議案採決やその他何らかの対応をなされるというのであればそれはいかなる基準や要件に基づくものでしょうか。国権の最高機関である国会自体がいわゆる「空気感」をもって、これまでの基準や先例を逸脱した曖昧さで有権者の付託を受けた議員の身分などに関する何かしらの処分や決議がなされるのであれば、それこそ憲法上の疑義が生じる事態や、この令和の時代に多数者がルール・前例無しに人民裁判的な決定を行う言論府となることが危惧される事態でもあります。国会は裁判所ではありませんし、ましてや人民法廷でもないはずです。これまでの基準や先例相当に照らせば、本件における議員の出処進退はその議員自身が判断すべきことであり、報道も多数なされている中、最終的には選挙での有権者のご判断によるべきものかと存じます。上記の理由から、本件について院より何かしらの処分や決議を頂くことについては適当ではないと考える次第です。

あの場での不適切性や配慮の無さについて会見などで謝罪と撤回を行い、所属政党よりの処分をお受けしました。また、これまでの本件における報道などでの一定の社会的制裁についても甘受すべきものと考えております。最後に改めて、心から謝罪申し上げますとともに、書面での返信となりますことと議運の先生方を始め多くの皆様にご迷惑をおかけしておりますことを重ねておわび申し上げます。

令和元年6月3日
衆議院議員 丸山穂高

次に、6月6日に可決された「糾弾決議」についても以下に全文を掲載する。

議員丸山穂高君糾弾決議案(全文)

議員丸山穂高君は、「令和元年度第一回北方四島交流訪問事業」に参加した際、憲法の平和主義に反する発言をはじめ、議員としてあるまじき数々の暴言を繰り返し、事前の注意にも拘わらず、過剰に飲酒し泥酔の上、禁じられた外出を試みて、本件北方四島交流事業の円滑な実施を妨げる威力業務妨害とも言うべき行為を行い、我が国の国益を大きく損ない、本院の権威と品位を著しく失墜させたと言わざるを得ず、院として国会議員としての資格はないと断ぜざるを得ない。

よって本院は、ここに丸山君を糾弾し、ただちに、自ら進退について判断するよう促すものである。

右決議する。

理 由

去る五月三十日の議院運営委員会理事会における政府関係者の説明によれば、議員丸山穂高君は、四島在住ロシア人と日本国民との相互理解の増進を図り、もって領土問題の解決を含む平和条約締結問題の解決に寄与することを目的とする「令和元年度第一回北方四島交流訪問事業」、いわゆるビザなし交流事業に参加し、国後島を訪問した際、事前に事業の趣旨や注意事項について十分に知らされていたにも拘わらず、五月十一日に、ホームビジット先のロシア人島民宅で過剰に飲酒し、宿舎である「友好の家」に戻った際、禁じられている外出を強く希望し、そのために、政府同行者に議員が外出しないよう監視させる業務を強いる結果になったほか、食堂内で、コップで机をたたき、大声を張り上げ、団長に対する報道関係者の取材を妨害し、団長に対して、「戦争でこの島を取り返すことに賛成か」、「戦争しないとどうしようもなくないか」などと信じ難い暴言を吐いた。その後も、他の団員ともみ合いになり、自室に戻った後、再び出て騒いで、職員が戻るように促す、ということを翌日午前一時まで続け、その際、「私は会期中は不逮捕特権で逮捕されない」と述べたり、およそ品位のかけらもない卑猥な言葉を発したりするなどの多大な迷惑行為を行い、翌日には団員たちから、最も重要なロシア人島民の方々との交流会への参加の自粛を求められ、参加しなかったとのことである。丸山君の行動は、一歩間違えば日本とロシアの重大な外交問題に発展しかねない問題行動であり、これまで関係者が営々と築き上げてきた北方領土問題の解決に向けた努力を一瞬にして無に帰せしめかねないものであり、国民の悲願である北方領土返還に向けた交渉に多大な影響を及ぼし、我が国の国益を大きく損なうものと言わざるを得ない。また、かかる常軌を逸した言動は、本件北方四島交流事業の円滑な実施を妨げる威力業務妨害とも言うべきものであり、その卑猥な言動に至っては、議員としてというよりも人間としての品位を疑わせるものである。

本件事業は、内閣府交付金に基づく補助金を受けた北方四島交流北海道推進委員会の費用負担により実施されているものであり、本院から公式に派遣したものではないにせよ、丸山君は、沖縄及び北方問題特別委員会の委員であるが故に、優先的に参加することができたものであり、他の団員からは、本院を代表して参加したものと受け止められており、また、その後の報道により、我が国憲法の基本的原則である平和主義の認識を欠き、およそ品位のかけらもない議員の存在を国内外に知らしめ、衝撃を与えた事実は否めず、本院の権威と品位を著しく貶める結果となったと言わざるを得ず、院として国会議員としての資格はないと断ぜざるを得ない。

よって本院は、ここに丸山君を糾弾し、ただちに、自ら進退について判断するよう促すものである。

以上が、本決議案を提出する理由である。

(決議文ここまで)

「糾弾決議」とは何か?

今回の問題について、丸山穂高議員を除名処分にした日本維新の会を含む野党各党は「議員辞職勧告決議案」を準備し、与党は「譴責決議案」を作成していた。辞職勧告決議について前例はあるものの、対象は刑事罰を負った議員に限られていたため、与党側が辞職勧告決議に難色を示していた。

しかし参院選も近く、何らかのアクションを起こさねば世論の反撥を招くという計算から、最終的に与野党合意のもと「糾弾決議」を採決する運びとなった。

「譴責決議」と「糾弾決議」はいずれも前例がなく、言葉上の違いしかない。また、最終的に可決された決議文には「院として国会議員としての資格はないと断ぜざるを得ない」「自ら進退について判断するよう促す」とあり、事実上の議員辞職勧告と言える。

また、問題の核心である丸山穂高議員の発言「戦争でこの島を取り返すことに賛成か」「戦争しないとどうしようもなくないか」について、「信じ難い暴言」と指摘し、「北方領土返還に向けた交渉に多大な影響を及ぼし、我が国の国益を大きく損なう」との認識を示している。

戦後体制の欺瞞、ここに極まった

国会議員は国民に選ばれた国民の代表者であるから、日頃の言動について自ら厳しく律するべきことは当然だ。しかし現実には、過去に多くの不祥事が露見し、報道されている。しかしそのような不祥事によって国会で議員辞職勧告や糾弾を受けた事例は存在しない。

今回、丸山穂高議員が「糾弾決議」を受けるに至った原因は、ひとえに「戦争」という用語を発したこと、そしてそれが「北方領土返還交渉に悪影響を及ぼす」という点にあるとみるべきだろう。

ここに大きな欺瞞、誤魔化しがある。

選報日本で再三指摘してきた通り、丸山穂高議員が「問題発言」を発したのは北方領土の国後島内である。ロシア側の認識では、国後島は「譲渡」(返還ではない)の交渉対象に入っていない。

丸山穂高議員が酔った勢いで「戦争しないと返ってこないですよね」と述べたのは、そのようなロシア側の一貫した姿勢を踏まえ、あたかも交渉によって北方領土四島がいつか返ってくるかのような国内向け宣伝を行っている日本政府を暗に批判したものと理解すべきではないか。

丸山穂高議員が参加した「ビザなし交流訪問団」について日本政府は「北方領土返還へ向けた地ならし」としているが、ロシア側は観光客としか考えていない。訪問団長が「遺骨の場所を確認し、墓を整備したい」と言ったのは国後島で、これは国後島が返還されなければ実施困難なのだ。

つまり、衆議院が糾弾するところの「戦争しないと返ってこない」という発言は冷厳な事実の指摘に過ぎず、「北方領土返還交渉に悪影響を及ぼす」というのは、択捉・国後島に関してはロシア側はもともと返す気がないので、嘘である。

今回、このような「糾弾決議」を採択してしまったことは、わが国の歴史に取り返しのつかない禍根を残したと言えるだろう。

丸山穂高議員は糾弾決議後、即座にツイッターを更新し、

ただちに自ら進退について判断を。仔細は議運への提出文書の通り、行蔵は我に存し毀誉は他人の主張にて。その任期を全うし前に進んでまいります。

とコメントした。「行蔵は我に存す」「毀誉は他人の主張」というのは勝海舟の言葉で、「私の行いは自らの信念によるもの。けなしたり褒めたりするのは人の勝手だ」という意味である。

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本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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