この刺激に満ちた啓発の書『やがてロシアの崩壊がはじまる』を上梓した石井英俊氏は、国際人権家として、不当な抑圧に苦しむ海外の人々の解放のために、世界各地の同志と連帯を深め活動に邁進するとともに、「正論」、「Hanada」等のオピニオン雑誌に先覚的な文章を頻繁に発表しています。
これが初の単著とは意外な気もしますが、それだけ実際の活動に重きを置いているということなのでしょう。そのあり方は、国家の有事に際し、諸藩を奔走した幕末維新の志士達の姿を彷彿とさせるものです。
その石井氏が、満を持してというべきか、世に問うた著作は、ロシア連邦内における共和諸国の人権活動家たちとのインタビューを通し、大国の前時代的な圧政に対し糾弾を行うとともに、その漸次崩壊を予見する内容となっていて、私にとっては未聞の情報に溢れており、とても良い勉強をさせていただいたと感じています。
この本はいわゆる思想書ではありません。著者の豊富な活動とそれに伴う人々との繋がりからもたらされた事実に基づき結実した“活動報告書”です。であるが故に、その収集した情報量の多さと、積み上げた事実の重さには有無を言わせぬ説得力と訴求力があります。生半可な思弁では到底太刀打ちできるものではありません。
著者は独立自尊の確固たる価値観・国家観を有しています。それは、蒙古襲来(この書の内容とも通底するものです)から明治維新までの、他国からの干渉・支配を断固として撥ねつけて来たこの国の在り方と軌を一にするものです。この書が、私たちの胸の奥底にある大和魂に訴えかけてくるのは、著者の活動が、この国の伝統を引き継ぐものであるからなのでしょう。
そして、この書の最大の美点は、虐げられた人々に対する著者の強い連帯意識と、不当な抑圧に対する断固たる抗議の姿勢が書全編に渡りこちらの胸に迫ってくる点で、だからこそ、連続して行われた多くのインタビューが単なる羅列に終わらず、有機的な結びつきを獲得しているのだろうと思います。
この書を読めば、私たちは間違いなく、今まで持たなかった情報と国際問題に対する視点を獲得することができます。自身の判断力をより深化させたい方にお勧めいたします。
本書は「プーチンの歴史観」への挑戦だ。
チェチェン武装勢力のリーダーをはじめ、ロシアへの越境攻撃やクレムリンへのドローン攻撃で知られる自由ロシア軍団のイリヤ・ポノマリョフなど、13人のインタビューを通して、ロシア・ウクライナ戦争が呼び覚ました民族運動を立体的に描いた作品。
特別鼎談(神戸学院大学 教授 岡部芳彦 × 国際政治学者 グレンコ・アンドリー × 著者 石井英俊)を収録。崩壊の可能性はある。一旦火がつけばどうなるかわからない。ー 岡部芳彦
北ユーラシアをどう見るかという認識を変えるべきだ。ー グレンコ・アンドリー=目次=
発刊に寄せて エンフバット・トゴチョグ(南モンゴル人権情報センター 代表)
第1章 ロシア・ウクライナ戦争が呼び覚ました民族運動
第1節 「ロシアを41に分裂させる」運動との出会い
第2節 「ロシア後の自由な民族フォーラム」とは何か
インタビュー:オレグ・マガレツキー(「ロシア後の自由な民族フォーラム」 創設者)
第2章 武装組織を持つリーダーたちの戦略
第1節 コーカサス連邦構想とは何か
インタビュー:アフメド・ザカエフ(チェチェン・イチケリア共和国亡命政府 首相)
インタビュー:イナル・シェリプ(チェチェン・イチケリア共和国亡命政府 外務大臣)
第2節 自由ロシアとは何か
インタビュー:イリヤ・ポノマリョフ(自由ロシア軍団 政治部門幹部)
第3章 ロシア連邦からの独立を訴える民族のリーダーたちの声
第1節 イングリア:プーチンの故郷がロシアから独立?
インタビュー:日本弓道の達人 デニス・ウグリモフ(イングリア社会政治運動 代表)
第2節 オイラト・カルムイク:ヨーロッパ唯一の仏教国
インタビュー:リアル“映画「ターミナル」”の男 バートル(オイラト・カルムイク人民会議 議長)
第3節 ブリヤート・モンゴル:力をあわせる「モンゴル世界」
インタビュー:ウラジミール・ハムタエフ(ブリヤート独立委員会 議長)
インタビュー:歴史の真実に目覚めたオペラ歌手 マリーナ・ハンハラエヴァ(ブリヤート独立運動〝トゥスガール〟創設者)
第4節 バシコルトスタン:氷点下で繰り広げられた大規模デモ インタビュー:ウクライナ侵攻で独立を決意 ルスラン・ガッバソフ(海外バシキール民族運動委員会 議長)
第5節 タタールスタン:500年間の支配から立ち上がる
インタビュー:世俗主義のイスラム教徒女性 アイーダ・アブドラフマノヴァ(独立タタールスタン亡命政府 副首相)
第6節 サハ(ヤクート):氷点下の大地を侵す天然資源搾取と自然破壊
インタビュー:ロシアのパスポートを〝炎上〟させた男 ニキータ・アンドレーエフ(サハ独立委員会 議長)
第7節 クリミア・タタール:ウクライナの旗の下で
インタビュー:スレイマン・マムトフ(「先住民問題に関する国連常設フォーラム」2022年ウクライナ代表)
インタビュー:アキム・ハリモフ(1+1media プロデューサー)
第4章 ロシア崩壊の可能性と日本の戦略ー自由ユーラシア調整センター構想とは何かー
鼎談:岡部芳彦(神戸学院大学教授)X グレンコ・アンドリー(国際政治学者)X 石井英俊
あとがき=著者=
amazon.co.jp
石井 英俊(いしい ひでとし)
昭和51年(1976年)、福岡市生まれ。九州大学経済学部経済学科卒業。経済団体職員等を経て、民族問題・国際人権問題を専門とする言論活動を展開している。インド太平洋人権情報センター代表、自由インド太平洋連盟副会長など。2021年3月、中国の人権問題を非難する国会決議の成立を求めて、日本国内に在住するチベット、ウイグル、南モンゴル、香港等の主要な民族団体13団体の結集を図り、インド太平洋人権問題連絡協議会を結成して事務局長に就任し、各民族間の連絡調整と意見集約を担い、国会議員側との折衝の窓口の任に当たるなどした。また、中国政府が作成に関与したとされている三千人に及ぶブラックリスト「香港解密」に日本人でただ一人載せられた他、「中国の国家分裂を画策している」と香港の親中国政府系新聞において度々名指しで批判されるなど注目を集めてきた。妻・石井陽子との二人三脚で、海外に独自の幅広いネットワークを構築している。
著者ホームページ:http://hidetoshi.website/
コメント