令和8年2月に実施された衆院総選挙における高市自民圧勝により、戦後初めて日本国憲法典の改正が政治日程に上る可能性が生じております。
衆院はもとより、参院の改憲勢力は三分の二である166議席を上回る183議席(自国公維参保)であり、改正内容によっては立民も賛同する可能性があります。
「改憲勢力」と言っても、全党が9条改正について態度を明らかにしているわけではなく、現状最も各党の賛同を得られそうなのは「緊急事態における衆院任期延長」です。これについてはすでに維新国民及び有志の会により改正文案が策定されており、自民も概ね賛同しています。
コロナ禍やロシアによるウクライナ侵略で顕在化した憲法上の課題解決の観点から、緊急時における行政府の権限を統制するための緊急事態条項を創設し、いかなる場合であっても、立法府の機能を維持できるようにします。とりわけ、任期満了時に、①外国からの武力攻撃、②内乱・テロ、③大規模災害、④感染症の大規模まん延の緊急事態が発生し、選挙ができなくなった場合に、議員任期の特例延長を認める規定を創設します。緊急事態においても絶対に制限してはならない人権保障を明記します。
国民民主党政策パンフレット2026
9条2項をどうするか
しかし、なんといっても改憲の本丸は9条2項です。自民は安倍政権下に自衛隊明記(追記)論を掲げましたが、9条2項を残したままでは、自衛隊という一機関を憲法上の組織とするだけであって、自衛権及び自衛隊を巡る神学論争は収束しません。
最もシンプルなのは2項を削除することですが、これには公明や立民(衆院では中道)が抵抗すると思われます。教条的護憲派は仕方ないにしても、リベラル勢力にも賛同を求め、国民有権者の大多数が賛成できる環境を整える必要があります。
もし「国論を二分する」テーマで国民投票を強行すると、国会の勢力図に関わらず、否決されるおそれがあるからです。一度否決されれば、再発議は半世紀先になるかも知れません。
そこで、個人的に9条2項の改正案を考えてみました。
現在の9条は以下の通りです。
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
日本国憲法典
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
この②を以下のように改めます。
② 国は、国民が平和のうちに生存する権利を保障する義務を負ふ。前項に反しない限り、国際平和を維持するために必要な措置をとることを妨げない。
上記の新2項は、現憲法の人権条項(11条、13条、25条、97条)とリンクし、特に平和的生存権についての保障義務を国に課しています。また、国際平和維持についても憲法前文の精神に合致するものです。
現憲法では拉致被害者を救えない
以前より、北朝鮮による日本人拉致問題を巡って、国(政府)には日本国民の人権を保障する憲法上の義務が既にあるにも関わらず、9条2項を理由にその義務を放棄していることが問題(憲法内矛盾)だと考えてきました。
(上記の憲法解釈は故・安倍首相が国会答弁したものであり、個人的には現憲法下でも自衛隊による拉致被害者救出は可能と考えています。ただし政府の憲法解釈を変更する必要があります)
そこで改めて、国民の平和的生存権保障について国の義務を定めることには、現憲法の重大欠陥を埋める歴史的意義があるといえます。
また、平和維持措置については、国際法に基づき整備されてきた自衛隊の目的(自衛隊法3条:自国の平和独立・秩序維持、国際平和維持)にも合致します。
この改正案は、自衛隊の憲法上の根拠(存在意義)を明確にするのみならず、9条の不戦条項を積極的能動的に達成しようとするものです。
何より、これらの内容は憲法前文及び本文(特に人権条項)と齟齬がありませんので、リベラル層を含む国民有権者の大多数に受け入れられるものと期待しております。
なお、国家の自衛権について書き込むべきという意見もあるかと存じますが、自衛権は国際法上の自然権に属し、各国は必ずしも憲法典に謳っていないようです。
参考
憲法前文(抜粋)
日本国憲法典
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
日本国憲法典
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
日本国憲法典
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
日本国憲法典
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
日本国憲法典
第三条 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。
自衛隊法
2 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
一 我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
二 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動
第51条
国連憲章
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。



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