ゆとり教育が企業にもたらした混乱「それでも日本人を雇いたい」

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仕事柄、中小企業の方と話をする機会が多いのだが、「いまの日本の若者」には、礼儀や挨拶など社会人であれば当然身につけておくべき「常識」が欠けているという声をよく耳にする。

これは実際にあった例としてある企業の方から聞いた話である。休憩時間に「スマホ」を操作しており、休憩時間が終わったにもかかわらず、こちらが指摘するまで操作し続けていた若者がいたそうだ。

また別件でスマホにまつわる話であるが、挨拶をするとき、こちらが目の前にいるにもかかわらず、スマホに目をやりながら挨拶をする若者もいるという。いずれも、我々世代の常識からすると俄かには信じ難い話ではあるが、これが今の若者の姿なのだろう。

このように、一つ上の世代から常識が無いとみなされる若者は、「ゆとり世代」と称されることがある。一般常識に照らして少しでもおかしな言動があると、枕詞のように「彼・彼女はゆとり世代だから…」と一括りにされてしまうのは何か気の毒な気もする。

我々は誰しもこの世に生を受ける際、親、生まれてくる時と場所を選べない。彼・彼女たちは偶然、「ゆとり教育」が行われていた時期に教育を受ける学齢であっただけであり、(彼・彼女たちを、「ゆとり世代」と)揶揄することはお門違いではないだろうか。

「ゆとり世代」の基準は諸説ある。一般的には小学校、中学校において平成14年度(高校では平成15年度)施行の学習指導要領(いわゆる「ゆとり教育」)を受けた世代、年齢でいうと平成29年現在20歳~29歳の若者を指すことが多い。一説には我々30代、さらに40代も「ゆとり世代」の枠に入るという説もある(戦後の教育をひろく「ゆとり教育」とする向きもある)。

「ゆとり教育」では、それまでの「詰込み授業」の反省から、「総合的学習」の導入、授業時間削減などが実施された。ただ、その後の「PISAショック※(平成15年)」による学力低下が指摘された結果、「脱ゆとり」が叫ばれ今に至っている。

※PISAショック:OECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査(PISA:ピザ)で日本の生徒の学力が落ちたという問題

方針がころころと変わることから「猫の目行政」と言われる日本の文部科学行政。もちろん約10年ごとに改定される学習指導要領は、社会情勢等に応じて見直されて然るべきであろう。

「終身之計莫如樹人(国家の大計は人を育てることである)」と言われるように、国の根幹を為すのは「人」である。「国家百年の大計」である教育の根幹が揺らぐことがあってはいけない。

ICT教育の普及、小学校低学年からの外国語(英語)教育の導入…。我々世代が学んでいた時には凡そ想像もし得なかった教育を、今の生徒児童たちは受けている。ただ、教育の目的は「人を育てること」に他ならない。このことを実地で指導する教師はもちろん、外から見守る大人はしっかりと肝に銘じておく必要がある。

生産年齢人口の減少、また冒頭述べたような、企業経営者の「今の若者」に対する不信感もあり、企業現場では「真面目に働いてくれるのであれば、国籍は問わない」という声が日常的に聞かれるようになった。

しかし、もちろん企業の継続性を考慮すると、期間が過ぎれば本国に帰国してしまう可能性が高い外国人労働者よりも、将来の幹部候補生として企業を背負って立ってくれる日本の若者の方を雇用したいのが本音なのだ。

とは言え、特に中小微企業の現場では「背に腹は代えられない」現状があることも事実。外国人労働者の力を借りながら、職業観を含め日本人をしっかりと教育していく。そのための体制を確立することが、日本の成長を維持するために必要であると考える。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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