新ドラマ『君と世界が終わる日に』のゾンビに重なるもの

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令和3年1月17日から日本テレビ系列で放送開始された新ドラマ『君と世界が終わる日に』(竹内涼真主演)が話題だ。日本テレビとネット配信サービス「Hulu(フールー)」が共同製作しており、シーズン2はHuluのみで配信されることが決まっている。

日曜深夜枠であり、「ゾンビもの」であることからもB級ドラマだと予想して第1話を観たのだが、意外に面白かった。正直なところ私は「ゾンビもの」があまり好きではない。それでも観たのは、単にタイトルが気になったからだ。

導入部分を簡単に説明しておく。舞台は現代日本である。

ある日、主人公の青年がバイクで出勤していると突然トンネル崩落事故に遭い、数日間そこに閉じ込められる。携帯電話で助けを呼ぼうとするが繋がらない。何とか自力で瓦礫をどけて脱出するのだが、街から人が消えている。

不審に思いながら職場(工場?)へたどり着くと、そこにはゾンビと化した上司や同僚たちがいて、彼らから襲われそうになり、命からがら逃げ出す…といったものだ。

大量に「沸いて」くるゾンビは気持ち悪いのだが、配役もなかなか豪華であり、映像が美しく、テンポよく進むので引き込まれた。主人公が弓道部出身という設定らしく、弓でゾンビを射抜くシーンなどは格好良い。

「君と世界が終わる日に」第1話より

さて、ここからはドラマとは全く関係ない話なのだが、劇中の「ゾンビ」を見ていて妙に連想させられる存在があった。それは別の記事でも論じた「勝ち組」である。

ゾンビのように沸いてくる「勝ち組」

「牽強付会」と叱られるかもしれないが、実際に連想してしまったのでご容赦願いたい。

私がここでいう「勝ち組」とは、「2020年の米大統領選挙が終わってもトランプ大統領の再選を確信し、それを否定する他者を攻撃し続けた者たち」のことである。

「勝ち組」の語源は75年ほど遡る。わが国が第二次大戦(大東亜戦争)に敗れた後、南米にあって祖国日本の勝利を信じ続けた日系人たちである。彼らはデマを信じ、それを否定する者を襲撃して殺害し、騒乱を引き起こした。さらには、旧日本円を売りつける詐欺事件まで発生している。

「2020年の米大統領選挙が終わってもトランプ大統領の再選を確信し、それを否定する他者を攻撃し続けた者たち」の姿は、完全に75年前の一部日系人たちに重なる。

1月20日に米国首都においてバイデン大統領が正式に就任したが、勝ち組の一部は現時点でも「バイデンを大統領とは認めない。これからもトランプを大統領と呼ぶ」などと意気軒昂だ。

「君と世界が終わる日に」第1話より

私には彼らが、現実という名の銃弾で撃たれても撃たれても起き上がって襲ってくるゾンビに見えたのである。

新たに「アメリカ共和国」が建国される?

さて、彼ら21世紀の勝ち組たちがどのような嘘を撒き散らしてきたのか、以下に一部を紹介(再掲)する。

NHKが「バイデン勝利」と報道したらしいが、そのニュースは結果的に誤報になると思っている。私はトランプに勝ってほしいと願っているし、そうでなければ、アメリカも世界も、そして日本も大変な事になる。私の願いはありえない願望などではない。トランプにはまだ見せていない切り札がある。
(12月15日 百田尚樹氏)

★★予言するね★★アメリカ時間の12月18日、トランプ大統領は大統領令を出す。おそらく、軍が動く。
(12月17日 百田尚樹氏)

大丈夫。トランプ大統領は再選します。もし、票によって再選しなければ、銃弾によって再選するからです。アメリカは法の支配の国。人民には、抵抗権が憲法で保障されています。
(12月26日 橋本琴絵氏)

投票とは、同意書の提出です。アメリカの統治とは、統治される側の同意が要件です。同意がない場合、アメリカは憲法で全人民の抵抗権を認めています。だから、銃で武装できる権利は不可侵です。票は偽造できても、銃弾の数は偽造できない。間違いなく、トランプは勝つ。
(12月26日 橋本琴絵氏)

ラトクリフ米国家情報長官の報告書によると、大統領選の選挙不正に中国だけでなくバチカンも関係していた。バチカンはカトリックの総本山で信者は全世界に12億人もいる。これを敵に回せば、場合によっては「神への冒涜」となりかねない。大統領選はいよいよ地球規模かつ歴史的な出来事に発展した。
(1月10日 加藤清隆氏)

トランプ大統領が近く、戒厳令を発動し、国家反逆罪の容疑者を逮捕するとの噂が流れている。側近のリン・ウッド弁護士は水、食料、ラジオなどの用意を呼び掛けた。軍は既にワシントンDC市長の要請で州兵6000人が市内要所に配置。戒厳令の布告は緊急放送システムを使って行われるとみられる。
(1月10日 加藤清隆氏)

彼らはいずれも「保守系言論人」にカテゴライズされ、多くのフォロワーを抱える(保守界隈の)著名人である。このような「勝ち組」扇動家らは、流石に20日以降、じわりと撤退戦を始めているように見える。可哀想なのは彼らを信じた「勝ち組」信者たちだ。

「勝ち組」が拡散したフェイクニュースは「最終的にトランプ大統領が武力を行使して再選(?)する」といったもので、それに付随して誰々が逮捕されただの、不正の証拠を差し押さえただの、ちょっと考えれば嘘だとわかるものばかりだった。

就任式後のフェイクニュース(Twitteより)

現在のところ、最新のフェイクニュースは「まもなくアメリカ共和国が建国され、トランプがその大統領に就任する」というものだ。いったいどこに建国されるのか楽しみである。

人をゾンビ化させるフェイクニュース・ウイルス

私は勝ち組をゾンビになぞらえたが、人がゾンビ化する原因は大抵ゾンビに噛まれることで感染するウイルス、というのがゾンビものの定番設定である。

まともな人間を勝ち組にしてしまったウイルスは、今回は「フェイクニュース」だった。とくに隅々までインターネットが普及した高度情報化社会では、フェイクニュースの拡散を完全に防ぐことは難しい。

今回短期間のうちに大量に拡散されたフェイクニュースは、従来であれば「都市伝説」として一部のマニアに愛好され、一般社会から一笑に付される類のものに過ぎなかった。

実際、お笑い芸人の関暁夫さん(吉本興業)は、テレビ東京の番組「やりすぎ都市伝説」(2020年12月25日放送回)において「アメリカ大統領選挙の裏にあるもの」と題し、不正選挙の話題を紹介している。

「やりすぎ都市伝説スペシャル」より

同番組と関さんの決め台詞は「信じるか信じないかはあなた次第です」だ。本気で信じる人はいない前提なのである。

しかしインターネットでは、このような前置きもなしに(時には自分自身も信じきって)嘘を垂れ流す者がいる。タチの悪いことに、事実を指摘する者を攻撃しさえする。

この攻撃は現時点でも止んでおらず、バイデン新大統領に祝意を示す菅義偉首相や在日米国大使館のツイートにまで罵声を投げかける始末だ。

どのような人々が情報ゾンビ化したのか?

フェイクニュースによるゾンビ化は、情報リテラシーの低い人であれば誰にでも起こりうる。

しかし今回、「勝ち組」になってしまった人々は、どちらかと言えば保守派(=右派)に多い。日本における保守派について大まかにいうと、憲法改正・防衛力増強を是とする人々を指す。(他国では防衛力増強の是非が左右分類の基準となることはあまりない)

先ほど引用した人々は保守系言論誌に執筆したり、保守系テレビ番組(あるいはネット番組)に出演している。誰がどう見ても保守派である。

彼ら言論人に扇動された匿名のネットユーザーたちも、一部の愉快犯を除けば、真剣にそれが「日本のためになる」と信じていたのだろう。たぶん本気で「トランプが再選しなければ日本は中国に侵略される」と信じたのだ。

私はトランプ大統領再選にかかわらず、すでに日本は中国に侵略されつつあると考えている。近い将来、尖閣諸島が中国に奪われる可能性も高いが、それに対処すべきは日本政府であり、日本政府に対処させるべきは日本国民である。

さて、問題は愛国心をもってフェイクニュースを拡散した勝ち組たちだ。彼らは日本の憲法改正を訴え、防衛力増強も必要だと考えている。そんな人たちが、誰が考えても嘘とわかるフェイクニュースを信じ、撒き散らしたのだ。

当人の思惑と真逆の作用を生じる

その状況を見た一般の日本国民(特に憲法改正すべきか決めかねている人々)はどう思うだろうか? 「憲法改正を訴えている連中は、情弱で頭のおかしい人々である」と考えるだろう。

念のために言っておくと、憲法改正は国会発議の後、国民投票で可決または否決される。国会は国民に対し、憲法改正を提案することしかできない。

日頃から政治問題に取り組む政治家と、政治に興味のない国民の大多数。憲法改正が実現するか否かは、国民投票が実施されるその時の「空気」で決まると言っても過言ではない。

安倍政権は歴代最長の在任期間(7年8カ月)を誇りながら、国民投票に踏み込めなかった。おそらく、可決させる確信が湧かなかったのだろう。

もしいま憲法改正の国民投票を行えば、勝ち組の所業に呆れた国民多数によって否決される可能性が高い、と私は見ている。また将来にわたって、国会議員が改憲発議をためらう材料が増えてしまった。

つまり保守系の勝ち組たちは、憲法改正と、それに伴う日本の防衛力増強の可能性を著しく低下せしめたのだ。それは彼らの意図したところではないだろう。しかし結果的に、愛国心によって亡国の徒と化したのだ。私はこれを暫定的に「結果売国」と呼ぶ。

このように、「フェイクニュースによる情報ゾンビ化」は当人の思惑と真逆の作用を生じる可能性が高い。読者諸氏には「他山の石」としていただきたい。

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本山貴春(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。独立社PR,LLC代表サムライ☆ユニオン準備委員長。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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