米大統領選を巡る陰謀論 日本の保守派は「分断」されたのか?

西暦2021年1月20日、民主党のジョー・バイデン元副大統領が第46代米大統領に就任する。同党からの大統領就任は第44代のバラク・オバマ氏以来。

今回の大統領選挙では現職のドナルド・トランプ氏陣営が「選挙に大規模な不正があった」と主張し、それに同調する支持者の一部過激派が1月6日に米議会へ乱入、警官1名を含む5名が死亡するなどの大惨事を引き起こした。

トランプ政権の功績

まず私の考えを示しておくが、日本にとってはトランプ大統領が再選され、2期目を続投することが望ましいと考えていた。それは、トランプ大統領は歴代政権と比べ「日本の自立」を許容し、要求する姿勢すら見せていたためである。

トランプ氏は大統領就任前から、米軍の負担を軽減するために同盟関係を見直すことを公約としていた。日本政府はこのようなトランプ大統領の方針を警戒していたが、安倍政権下で平和安全法制を成立させるなど、(不充分ながら)これに応える姿勢を示してきた。

トランプ政権は「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げた。これを反トランプ派は孤立主義として批判してきたが、実際には国際社会における米国の負担を軽減し、多くの貿易交渉で米国民に利益をもたらした。

その結果、従来は民主党支持者が多かった黒人層などからも広く支持され、2期目の再選は確実視されていた。しかし、2019年末から広がった新型コロナウイルス感染症への対応に伴う景気悪化の影響から、2020年末の大統領選挙に競り負ける結果となったのである。

日本のトランプ支持者

日本の保守層(保守系言論人及びその支持者)の中で、2016年の時点でトランプ氏を支持する者は少数派であった。保守層に限らず日本人の大半(政府当局者を含む)にとってトランプ氏の当選は予想外のことであり、望ましいことではないとみなされていた。

情勢分析としては、日本語に翻訳される米マスメディア情報の大半が民主党支持派であったというバイアスもあり、ヒラリー・クリントン候補の当選を確実視していた。それだけではなく、「安保見直し」を掲げるトランプ氏は大統領として好ましくないと見ていたのである。

トランプ氏の当選に驚いた安倍首相(当時)は、大統領就任前に急遽渡米し会談に臨んだ。それ以降、安倍首相はトランプ大統領との関係を、諸外国首脳と比べ最も親密なものとすることに成功する。

日本保守層の多数派は一貫して安倍政権を強力に擁護してきた。その安倍首相がトランプ大統領との親密性をことあるごとにアピールしたことから、安倍政権支持者の多くもトランプ派に転じることになったのである。

なお、トランプ政権の誕生以前から、トランプ氏の当選を予測あるいは支持する日本人も少数ながら存在した。その人々は、もともと米国の内情に精通する専門家などだった。

「不正選挙」問題で騒乱へ

2020年の米大統領選挙に際し、トランプ陣営はバイデン支持派による「大規模不正選挙」を訴え、トランプ大統領の再選を主張してきた。

米国における不正選挙問題は以前から取り沙汰されている。今回はコロナ対策として郵便投票が大幅に拡大したこともあり、不正が疑われやすくなっていた。

米国では、一方の陣営が不正を指摘する場合、直ちに証拠を揃えて裁判所に訴えることができる。実際にトランプ陣営は多くの訴訟を提起した。もしバイデン候補が落選していれば、同様に訴訟を起こしたであろう。

残念ながらトランプ陣営の訴えはことごとく棄却された。米最高裁判事は保守派が多数派であったにもかかわらず棄却されたということは、提出された「不正の証拠」が審理に値するものとみなされなかったことを意味する。

それでもトランプ大統領は自身の勝利を主張し続けた。その結果、トランプ支持層のうちの一部が陰謀論を唱え、街頭デモなどの直接行動に乗り出す。そして1月6日、米議会乱入事件に至るのである。米国の民主主義を揺るがす歴史的大事件だった。

日本でも流布されたフェイクニュース

トランプ大統領支持者のうち陰謀論を唱える一部の人々は「Qアノン」と呼ばれている。匿名の自称政府関係者がネット上に流した「告発」とされるものを盲信する人々のことである。

大統領選挙でトランプ陣営が公式に主張した不正疑惑とは別に、「Qアノン」らが流布し、日本のトランプ支持派が鵜呑みにして拡散したフェイクニュースには以下のようなものがあった。

・選挙システム「ドミニオン」のサーバーがドイツのフランクフルトで見つかり、これを押収するためにCIAと米軍が銃撃戦。CIAから1名、米軍から5名の死者。その場に居合わせたCIA長官も負傷し、逮捕された。
・トランプ大統領が大統領令で戒厳令を出し、民主党のペロシ下院議長ら裏切り者が大量逮捕される。発令は緊急放送システムで伝えられるが、AppleがOSのアップデートで妨害するため自動アップデートをオフにする必要がある。
・米国のカナダ側とメキシコ側国境に中国人民解放軍25万人が迫り、トランプ大統領が国家非常事態宣言を発令した。

加藤清隆氏のツイート

他にも色々あったが、明らかに荒唐無稽なものばかりだ。問題は、日本の著名な保守系言論人に、これらのフェイクニュースを鵜呑みにし、拡散する者が続出したことである。

第二次大戦でわが国が連合国に敗れた際、南米の日系人社会では日本の勝利を信じ続けた人々がおり、彼らは「勝ち組」と呼ばれた。21世紀の米大統領選において、今度は日本の保守派の中から、敗北確定後もトランプ再選を確信する「勝ち組」が現れたのだ。

分裂した日本のトランプ支持者

当然であるが、トランプ大統領を支持するか否かと、「トランプが勝った」と断定することは違う。

日本の保守派のうち、トランプ支持者であってもバイデン勝利を受け入れた人々はいた。再選確信派を前述の「勝ち組」に擬えるなら、こちらは「負け組」(これも実際の歴史用語)である。

橋本琴絵氏のツイート

問題は、勝ち組が負け組を「裏切り者」「バイデン支持者」などと言ってバッシングし始めたことである。一部ではそれが泥試合化し、訴訟沙汰にまで発展しようとしている。

SNSなどインターネット上を俯瞰する限り、日本の保守層においては「勝ち組」が圧倒的に優勢だった。Twitterのリツイート(拡散)数、Youtubeの再生回数などからそれは明らかだ。

いったい何故、日本のネット保守の多数派は勝ち組(=日本版Qアノン)化したのだろうか。私はこの現象を興味深く観察していたのだが、勝ち組の大部分が「安倍信者」といわれる安倍前首相の盲信的支持者と重なっていることに気づいた。

彼らはもともとトランプ支持者だったのではなく、安倍首相とトランプ大統領が親密になって以降、トランプ氏に好意的になった。それが、安倍首相の退陣とともに「支持」の行き場がなくなり(安倍ロス)、トランプ大統領に向かったのではないか。

私はかねてより安倍政権の増税路線やコロナ(特に初期)対応を批判し、同時に保守層の安倍信者を批判してきたが、安倍首相退陣によって彼らに「アノミー」が発生するのではないかと懸念していた。

アノミーとは、「社会の規範が弛緩・崩壊することなどによる、無規範状態や無規則状態」を意味する社会学用語である。故・小室直樹博士は繰り返しアノミーについて論じた。例えば以下のような一節がある。

規範がなければ、ひとはなにをすべきかが分からずに途方にくれるばかりである。五里霧中になるだけである。アノミー(anomie)である。ひとは、このような心的状況に耐えることはできない。正常な人が最も狂的行動に走ることになる。
(小室直樹著『歴史に観る日本の行く末』青春出版社265pより)

安倍信者がアノミーによってトランプ勝ち組になったとすれば、この状況に説明がつく。

安倍信者はトランプ再選に貢献しなかった

勝ち組(≒安倍信者)は、1月20日の大統領就任式を目前とする現在になっても「トランプ再選」を固く信じていると公言している。前述のフェイクニュースの拡散は、彼らにとって「トランプを応援するため」の行為だと言うのである。

しかし普通に考えれば分かることだが、昨年の11月3日に大統領選挙の投票は終わっている。仮に投票日前であっても、米国籍すら持たない者が日本語で何を言おうと、選挙戦には殆ど影響がない。

投票から数日で大手メディアはバイデン候補に「当確」を出した。12月14日の「選挙人投票日」までは、訴訟などを通じてトランプ陣営が逆転勝利に持ち込む裏技は確かに存在したが、それすら米国の法廷で決まることであり、日本のネット世論は無関係だ。

百田尚樹氏のツイート

もし勝ち組と安倍信者が重なっており、彼らがトランプ再選に貢献する道があったとすれば、日本の有権者として安倍政権を突き上げることだった。

そもそもトランプ大統領は最初の選挙で同盟関係の見直しを公約し、日本にも防衛負担増を求めていたことは前述した通りだ。それに対し安倍政権は平和安全法制を整備するなど、法的に自衛隊の役割を拡大したが、防衛予算は微増したに過ぎなかった。

トランプ政権が日本に求めたのは防衛費の倍増である。実際に即時倍増は困難だとしても、安倍政権の防衛費微増は、ほとんどサボタージュ(怠業)に近いものと見られても仕方がなかった。つまりトランプ政権は、同盟国への軍備分担という公約を果たせなかったのである。

無論それができていたとしても、コロナショックによってやはりトランプ陣営は負けていたかも知れない。しかし安倍信者が安倍政権のやることなすことを全肯定して甘やかした結果、トランプ政権にダメージを与えたということは否めない。

日本の保守派に巣食う「属国派」問題

私が日本の保守層における「勝ち組」問題に言及すると決まって返ってくる反応が、「彼らは似非保守である」という指摘だ。このような指摘の意図はわからないでもない。

しかしそもそも「保守」(あるいはその逆とされる「革新」)というカテゴライズは絶対的基準ではない。政治的に、「保守(=右翼)」と「革新(=左翼)」の区分は相対的であり流動的なものである。

保守・革新の区分はフランス革命後の議会における政党の配席に由来している。議長席から見て王党派が右側、革命派が左側に座った。従って「保守と右翼は違う」という主張も誤りである。

以上の意味において、「勝ち組」も客観的に保守にカテゴライズされことは止むを得ない。「安倍信者」や「勝ち組」の問題は、保守派内部の深刻な課題なのだ。

それでは、「安倍政権に是々非々で対応した」保守や「負け組」保守と彼らの違いは何なのか。それは彼らが「属国日本」の保守派であり、いわば守旧派であるということだ。

やはり日本には「独立派」が必要だ

例えば江戸時代末には佐幕派と討幕派の、文字通り血を血で洗う抗争があった。現代の基準で考えれば、佐幕派が保守である。しかし幕府を擁護していても、日本の独立は維持できないことは明らかだった。そこで討幕派は新政府樹立=維新を断行した。

これがフランスであれば討幕派=革命派、すなわち左翼となったであろう。しかし討幕派は「王政復古」という「超保守」を旗印にした。そうして日本はフランスと違う道を歩んだわけだ。

現在の日本は敗戦以来の属国体制にある。その最大の要因は片務的日米安保体制だ。日本が真の独立を回復するためには、日米同盟の片務性を打破しなければならない。本稿で縷々述べた通り、トランプ政権誕生はその最大の好機だった。

その好機を逃した安倍政権と安倍信者は、日本の独立を阻害する体制保守であり、佐幕派と同様の守旧派だったのだ。彼らはことさら「愛国心」を強調するが、やっていることを見れば「亡国の徒」である。

いま必要なことは、保守派内部に巣食う「属国派」を排除し、「独立派」の政治勢力を構築することである。今回の米大統領選挙を巡る騒動は、そのことを改めて教えてくれたのだった。


本山貴春(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。独立社PR,LLC代表サムライ☆ユニオン準備委員長。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

コメント

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  • コメント (1)

    • 特命
    • 2021年 5月 25日

     全くの正論。低湿な陰謀論に「保守派」の多くが流れたのは極めて嘆かわしい。
     朝日新聞や岩波書店は戦後めちゃくちゃな言説を垂れ流した結果見事に国民から見捨てられた。保守派がこの轍を踏んではならない。
     保守派の沽券に関わる言説はホントにやめてほしい……。
     百田尚樹、有本香、門田隆将、藤井厳喜、西尾幹二、須田慎一郎、石平、加藤清隆、古森義久、あなた達責任取ってよ。

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