映画『日本独立』公開 「平和憲法」成立過程を赤裸々に暴く問題作

政治
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令和2年12月18日、新作映画『日本独立』が封切られた。監督は『プライド・運命の瞬間』(平成10年)、『花いちもんめ。』(昭和60年)などで知られる伊藤俊也氏だ。

伊藤監督は東映労組委員長の経歴もあり、もともと左派であったため、東京裁判に臨む東條英機(役・津川雅彦)を肯定的に描いた『プライド』は一大センセーションを起こした。当時私は高校生だったが、映画館で観た記憶がある。

そんな伊藤監督の『日本独立』だが、メインキャストは浅野忠信、宮沢りえ、小林薫と豪華俳優陣で固めたれている。浅野が白洲次郎、宮沢はその妻、小林は吉田茂を演じている。舞台は『プライド』と同時期の、GHQによる占領期間中である。

個人的に『日本独立』というタイトルに惹かれたこともあり、公開初日に観に行ったのだが、結論からいうと期待以上の良作だった。傑作と言って良い。

いかにして「日本国憲法」がつくられたのか

本作が描いているのは現行「日本国憲法典」の成立過程である。現行憲法が公布されたのは昭和21(西暦1946)年11月3日で、翌年5月3日に施行された。

わが国が第二次世界大戦(大東亜戦争)に敗北し、連合国軍の占領下に置かれたのは昭和20(西暦1945)年8月28日から昭和27(西暦1952)年4月28日までの約7年間なので、現行憲法は占領初期につくられたことになる。

米軍人ダグラス・マッカーサーを最高司令官とするGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は、その占領政策で様々な「改革」を行なったわけだが、憲法改正はその中でも最重要な施作だった。

現在、多くの日本人は現行憲法が占領軍たる連合国軍によってつくられた事実を直視しようとしない。義務教育課程ではいまだに「日本人自ら戦争放棄を誓った平和憲法」として教えているほどだ。

しかし前述したように、現行憲法が制定されたのは占領期間中であり、この間、日本政府にも日本国民にも「自由意志」は認められていなかったのである。

カタルシス(救い)の無い映画

ここから先は多少の「ネタバレ」も含むため、予めご容赦いただきたい。

私自身は大学の法学部で憲法学も履修したため、現行憲法の成立過程は知っていた。その上で、本作が『日本独立』というタイトルを掲げつつ、その成立過程をどう描くのか半信半疑であった。

映画に限らず、小説やアニメなどの物語には結末における「カタルシス」が求められる。「魂の浄化」を意味するギリシャ語に由来する用語で、心のモヤモヤが晴れてスッキリした様などを表す。

そういう意味では、映画『日本独立』にカタルシス的結末は無い。それでも私が本作を「傑作」と呼ぶのは、非常に濃密に人間ドラマが描かれているためである。

白洲次郎と吉田茂の葛藤

本作の主人公である白洲次郎(明治35年〜昭和60年)について、私はあまり強い印象を持っていなかった。若い頃に英国へ留学したことで英語が堪能になり、戦前は貿易関係の実業家として活躍したことで、駐英大使だった吉田茂の面識を得たという。

占領期間中は吉田(外相のち首相)の求めにより、日本政府とGHQの橋渡し役のような仕事(終戦連絡中央事務局参与)を行なっている。劇中ではその任務を自嘲的に「ミルクマン(牛乳配達人)」と呼んでいた。

占領下に帝国憲法「改正」が議論されたのは幣原喜重郎内閣の時であったが、首相以下、GHQからの「無理難題」に政府当局者が苦悩する様が、本作ではリアルに描かれる。

日本側は松本烝治(国務大臣)を中心に法律の専門家によって改憲案を準備するも、GHQによって拒絶され、コートニー・ホイットニーGHQ民政局長らを中心とした素人スタッフが1週間で書き上げた「マッカーサー草案」を押し付けられるのである。

そしてGHQが日本に要求し、日本側が最も抵抗したのが「軍隊の不保持」だった。日本側が何度も「軍隊を持たない国は主権国家とは呼べない」と絶叫するシーンには、涙せずにはいられない。

このマッカーサー草案受け入れにあたり、吉田茂と白洲次郎が激論を交わす様子は、まさに占領下の日本を象徴するものと言って良いだろう。その吉田も、「近い将来の憲法改正」に望みを繋げるのである。

未完の「日本独立」

映画『日本独立』の舞台は70余年前であるが、この物語は間違いなく現代日本に続いている。日本の早期主権回復と引き換えに受け入れた「日本国憲法」は一言一句改正されずに現在に至るからである。

「日本独立」は狭義では昭和27年4月28日であるが、それは甚だ不完全な「独立(主権回復)」であった。

さて、令和3年2月には北朝鮮による拉致事件を描いた『めぐみへの誓い』(野伏翔監督)が封切られる。私は同作をすでに試写会で観たのだが、『日本独立』が『めぐみへの誓い』へ一直線に繋がっているように思えてならなかった。

実は『めぐみへの誓い』もまた、カタルシス無き映画であり、現実世界に接続しているという意味で異例の傑作になっているのである。

残念ながら、『日本独立』も『めぐみへの誓い』も他の商業作品に比べ注目度が高いとは言い難い。このままでは、映画館で観賞できる期間はそう長く無いだろう。だからこそ、読者には一刻も早く『日本独立』を映画館で観ていただきたい。

そしてその感動と衝撃を保ったまま、年明け2月の『めぐみへの誓い』を観て欲しい。そうすれば、いま日本が抱える問題が何なのかが、誰の目にも明らかになるだろう。

▽映画『日本独立』公式サイト
nippon-dokuritsu.com

▽映画『めぐみへの誓い』公式サイト
megumi-movie.net

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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