【特別寄稿】グローバル資本主義で日本が守れるか?歴史から現代を問う

政治
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移民・観光・新自由主義にうつつを抜かす安倍政権

「悪夢の民主党政権」と安倍総理は盛んに強調しているが、後の世では「地獄の安倍政権」と揶揄されるかもしれない。安倍政権の政策は日本を解体する危険性に満ちたものだ。TPPに代表される国境の無力化政策。

アベノミクスの「成長戦略」は結局外国人労働者の積極採用と観光振興に過ぎない。

挙句の果てが、新型コロナウイルスの脅威が冷めないうちから踊り狂う「GoTo」キャンペーンである。国民には補償もなしに自粛しろと言っておきながら「GoTo」の愚策は改めない。支離滅裂だ。

このような安倍政権の体たらくであるが、それを考えるにつけて明治維新の成就と挫折の歴史を思い起こさざるを得ないのである。

明治維新は早々に変質した

そもそも明治維新はなぜ起こったのか。それには二つの側面がある。一つが「王政復古」であり、もうひとつが「植民地支配への抵抗」である。「天皇と国民の間に権力を壟断する存在があってはならない」という王政復古の考えが、水戸学、国学、崎門学などから起こり明治維新への源流となった。

ところが明治十年までにこうした王政復古派は明治政府からパージされてしまう。近代化、文明開化の風潮に流され、和漢の学は古臭くて役に立たないものとして切り捨てられた。

このあたりの機微を描いているのは島崎藤村の『夜明け前』である。主人公青山半蔵(島崎藤村の父、正樹がモデル)は信州木曽谷で旅籠を営み国学をおさめた人物であり、王政復古を望み、経済弱者を救済する義侠心を持っていた。

ところが維新が訪れると、実際に成立したのは文近代文明に毒され、格差は拡大し、政府に近しいものだけが甘い汁を吸う世の中であった。「富国強兵殖産興業」と称して薩長藩閥政府は国営産業を廉価で民間に払い下げた。

現代でも行われた民営化である。ところが当時も今も「民営化」なるものは結局政権のオトモダチに便宜供与を図るものであり、井上馨や山県有朋などには賄賂の噂が絶えなかった。

「こんな世の中はおかしい!」

と立ち上がったのは、パージされた王政復古派であった。『夜明け前』でも半蔵は政府に抗議、立ち上がろうとするが、周りからは狂人扱いをされ座敷牢に入れられ病死してしまう。

このように利権にまみれた政権を改める「維新のやり直し」は、常に明治、大正、昭和の政治的課題であった。

右翼と左翼への分裂

半蔵に限らず、王政復古派はこのような状況を指をくわえてみていたわけではない。西郷隆盛の西南戦争に代表されるように、次々と心ある志士が立ち上がり、維新のやり直しを志したのである。だがその企ては藩閥政府の物量の前にもろくも敗れ去ることになった。

王政復古派は方針転換を図る。

「武力でダメなら言論で勝負だ!」

こうして起こったのが自由民権運動である。この自由民権運動から、いわゆる右翼も左翼も始まっている。右翼も左翼も「政府の横暴を許さない」という思いで表裏一体だった。

中江兆民と頭山満が親しかったのは有名だし、欧米の猿真似ばかりの鹿鳴館外交に強く抗議した国粋主義派は、田中正造の足尾銅山鉱毒事件の告発を扶けたりしたのである。

そうこうしているうちに大陸では新たな思想、共産主義による国家が誕生する。ソビエト連邦である。ソ連の誕生は、「共産主義を認めるか認めないか」という大きな踏み絵を踏ませることになった。

結果として、在野にいた政府への抗議勢力は右翼と左翼に分断され、右翼は「共産主義を認めるわけにはいかない」という方に変質し、政府や財界への批判力が鈍った。一方左翼は「共産主義による革命」を志向するようになり、ソ連に運動資金や運動方針を依存するようになった。

戦後になるとこうした傾向はいっそう強くなり、右派・保守派は日米同盟による反共政策を主張するようになり、左派はソ連、中共に好意的になるなど冷戦的価値観が政治思想の根幹となった。

幸いわが国は国土を分割されることはなかったが、人々の心に38度線が引かれてしまったのである。

冷戦思想からの脱却を

冷戦が終わってからもう長い。いい加減冷戦的発想を脇に置いて、常識的発想に立ち返るべきだ。どう考えても格差を拡大する新自由主義、アイデンティティを希薄化するグローバリズム、こんなものは到底容認できる政策ではない。

社会解体を進める売国的所業と断じざるを得ない。

われわれは、いま一度、ソ連成立以前の日本人の在り方に立ち戻り、山河と信仰と伝統に基づく日本人本来の発想を鑑み、グローバル化で日本文化が守れるか、新自由主義で日本文化が守れるか、再考しなければならない。

そこに明治政府に似た危うさ、堕落はなかっただろうか?

小野耕資(おの・こうすけ)昭和六十年神奈川県生まれ。青山学院大学文学研究科博士前期課程修了(専攻 近代日本思想史)。大アジア研究会代表、崎門学研究会副代表、里見日本文化学研究所研究員。著書『資本主義の超克 思想史から見る日本の理想』(展転社)。

小野耕資・著
展転社・刊
『資本主義の超克―思想史から見る日本の理想』
ソ連の登場が、右翼を反共に変え、左翼をマルクス主義に変えた。新自由主義、グローバリズムが跋扈するいま、あらためて日本の理想を問う!
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