参院選の投開票日が迫っている。最大の争点ともいうべき消費増税問題について、野党各党が「凍結・中止」を掲げるものの、各紙では自公連立政権の圧勝が予想されている。このまま、10月の消費増税は避けられないのか。
ある自民党関係者に「消費増税を阻止する方法はないのか?」と尋ねたところ、「参院選で与党を惨敗させ、10月までに増税凍結を掲げて解散総選挙をするしかない」との回答を得た。
消費増税は法律で決定していることであり、過去の「延期」を前例とする限り衆院選で民意を得るしかない、というのが「政治通」の見方だ。
自民党内の増税派・麻生太郎
消費増税は今回の参院選における自民党公約に明記されている。(公明党の公約も消費増税を前提としている)
ところが、自民党内が増税一本槍かと言えば必ずしもそうではない。党内には増税派(財政再建派)と増税反対派が存在するのだ。
そもそも増税派は、「財政再建」至上主義の財務省の意向を受けている。その代表格が麻生太郎財務大臣である。
平成20年に勃発したリーマンショックにおいて当時の麻生太郎内閣は対応を誤った。他の先進国が積極的に紙幣を増刷する「金融緩和」によって世界的金融危機を乗り切ったのに対し、麻生政権は財政出動のみで対応。
結果、日本の景気は大幅に後退し、平成21年の民主党政権成立に繋がった。麻生太郎は自民党の政権復帰に伴い、安倍政権の副総理兼財務大臣として復権。政権に財務省の意向を反映させる役割を担っている。
自民党内の増税反対派は?
「脱デフレ」を目指すアベノミクスは経済学的にはリフレーション(reflation)といい、「ゆるやかなインフレーションを計画的に引き起こして景気を刺激する経済政策」を意味する。
リフレーション推進派を俗に「リフレ派」と呼び、リフレ派は増税を目指す財政再建派と対立してきた。自民党におけるリフレ派の代表格こそ、安倍首相本人に他ならない。
アベノミクスは金融緩和と増税延期によって成果を出しつつあったが、増税派である財務省と麻生太郎財務大臣の圧力に屈し、リフレ政策に反する消費増税を決定。今回の参院選でも公約に盛り込まれるに至った。
これまで消費増税に対し大っぴらに反対を唱えてきた自民党議員としては青山繁晴参院議員(今回は非改選)が知られている。
青山繁晴参院議員は今年4月に放送されたニッポン放送のラジオ番組においても、「僕は消費増税に反対です。党の方針と関係無く、その党に付き従うだけが議員ではない。(中略)消費増税を秋にやるのは明らかに間違っています」などと発言している。
青山議員は参院選直前まで「増税延期を掲げた衆参同日選挙の可能性」について言及し、増税に反対する安倍政権支持者に期待を持たせたが、その期待は見事に裏切られている。
改選参院議員2名が公然と「増税反対」
しかし少なくとも2名の自民党参院議員候補者(いずれも現職)が、自民党公約である消費増税に異を唱えている。西田昌司候補(京都選挙区)と、和田政宗候補(全国比例区)である。
西田昌司候補は毎日新聞のコラムに寄稿し、「日本はデフレだ。消費増税は凍結すべきだ」「消費増税を強行すれば間違いなく経済は悪くなる」などと明言。安倍政権が成果を強調する実質賃金向上についても「下がっている」という見解を示している。
和田政宗候補は自身のブログで「私も元々消費税は上げるべきではないとの論者」「すでに世界経済はリーマンショック級」「世界経済が本当にだめで我が国に影響するなら、直前でも引き上げを凍結すべき」と書き、さらに「消費税を上げてだめなら、下げることも考えるべき」と減税にまで言及している。
西田昌司候補は安倍首相の出身派閥である細田派(清和会)に属し、和田政宗候補は無派閥ながらも菅義偉内閣官房長官に近いとされる。
候補者が所属政党の公約に反対する意見を述べることの意味は、極めて大きい。
増税阻止は絶望的だが
情勢予想としては与党圧勝→消費増税実行の可能性が極めて高い。
今夏の参院選で仮に自民党が惨敗すれば、安倍政権が増税延期に方針転換し、10月までに衆院解散・総選挙となる可能性もゼロではないが、増税中止を掲げる野党にその勢いは見られない。
そもそも野党側も、どこまで本気で消費増税阻止を目指しているのか怪しい。鳩山政権で財務大臣だった菅直人、菅政権で財務大臣だった野田佳彦は、財務大臣任期中に財務官僚に懐柔され、自身の政権で増税路線に走り、民主党政権の自壊を招いた。
現在法律で確定されている消費増税は、民主党政権下の「三党合意」が元になっており、増税不況の責任の一端が現在の立憲民主党・国民民主党にもあることは間違いない。
ここから先は、「10月増税後」のことを考えておく必要があるだろう。すでに影響が出始めているが、消費増税によって確実に日本経済は悪化する。世界第3位の経済大国である日本の不況は、世界経済に対しても悪影響を与えるだろう。
そうなると、経済政策によって国民の支持を得てきた安倍政権は、令和3年9月の自民党総裁任期を待たずに退陣に追い込まれる可能性が高まる。そこで「ポスト安倍」にリフレ派が復権すれば、そこから日本経済を立て直す道が拓ける。
自民党内の権力闘争
自民党内の抗争は複雑で流動的であるが、現在は麻生太郎財務大臣と二階俊博幹事長、菅義偉官房長官の3名が安倍政権を支える実力者となっている。今春行われた福岡県知事選などの「保守分裂」選挙では、麻生vs二階・菅という構図になった。
「令和おじさん」として国民的知名度が上がり、ポスト安倍に急浮上した菅義偉官房長官には、民主党政権下の東日本大震災復興増税に反対した超党派「増税によらない復興財源を求める会」(リフレ派とされる)にも名を連ねた過去がある。
増税派である麻生太郎との対立軸からしても、菅義偉「新首相」がアベノミクス継続=リフレ派経済政策を採用する可能性は高く、「消費税減税」に踏み切る、と予測するのは希望的観測に過ぎるだろうか。
少なくとも自民党は一枚岩ではない。ポスト安倍を狙う政治家に「消費税減税」という選択肢をリアルなものとして実感させることができるか否かが、これからの課題だ。
[clink url=”https://www.sejp.net/archives/3393″]
[clink url=”https://www.sejp.net/archives/3413″]
[clink url=”https://www.sejp.net/archives/3441″]
本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。