(執筆者 東山邦守)
米国においては、議会の承認を受けずに連邦政府債務の残高上限を引き上げることができない。内閣が行政権に基づいて財政出動を繰り返したあげく、1000兆円以上の債務を抱えるに至った我が国と比べ、財政に対して議会の統制が利くという長所はある一方、上限に達すると新たな借り入れができなくなり、資金ショートによりデフォルト(債務不履行)を招きかねない。デフォルトとなれば米国経済に対する市場の信頼は失墜し、世界経済に大きな打撃を与える。
ここ数年、債務上限引き上げが大統領と議会との政治的争点となり、思わぬハプニングを引き起こしかねない情況が続いている。2011年5月16日、連邦債務残高が上限に達した。財務省の緊急措置により即時のデフォルトは回避されたが、最終期限とされた8月2日を目前にして、国防費などを削減して資金を捻出しようとするオバマ大統領と、オバマケアと呼ばれる社会保障費の削減を求める共和党とがチキンレースを繰り広げた。結局、8月1日に下院が上限引き上げを承認。そして、期限当日にあたる翌2日に上院も承認してデフォルトは回避された。
その後、3年もせぬうちに同じチキンレースが繰り返される。前回より危機は深刻化し、2013年1月には、ついに一部の政府機関が閉鎖に追い込まれた。結局のところ、期限当日の10月16日夜(日本時間17日未明)、それも日付が変わる2時間前に漸く議会の承認が得られる。だが、今回の上限引き上げは2月7日までの暫定的なものであり、その時期が近づくと再び騒動となるだろう。
いつも土壇場で危機は回避されるのだという楽観的な意見も存在するが、偶然の積み重ねによりデフォルトが引き起こされる可能性がないとは云えない。そもそも、このような政治的醜態を全世界にさらすことじたい、米国の衰退を象徴しているとも云えよう。財政状況しだいでは、在日米軍の撤退も視野に入ってくる。いずれにせよ、我が国は大きな変動に巻き込まれるに違いない。