【連載】コロナ革命(3)「共助」なき社会

政治
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この2年間、新型コロナウイルス感染症対策として、日本政府は人流抑制のために緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置(マンボウ)などを発出し、自治体も独自の「警報」を発してきた。

これらの感染対策は、新型コロナウイルスに感染することで重篤化する可能性が高い高齢者や既往症患者を守るために必要なことだった。しかし同じように、人流抑制が国民経済に打撃を与えることは明確であり、経済対策も求められた。

この間、安倍政権、菅義偉政権、岸田政権は様々な経済対策を実施している。

一般向けには10万円一律給付(特別定額給付金)、事業者向けには持続化給付金などがほぼ無条件に支給されたものの、それ以降は給付要件も給付額も厳しくなり、申請手続きも複雑化した。

厚労省「誠実かつ熱心に求職活動を」

令和3年7月から実施されている一般向けの施策に「新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金」というものがある。

これは経済的困窮者向けに社会福祉協議会が窓口となって生活資金を無利子無担保で貸し出す「緊急小口資金」「総合支援資金」の特例(緩和)制度を利用し、上限額まで借り切った世帯に向け、さらに条件を設けて給付する時限的制度である。

この「自立支援金」について解説する厚生労働省の公式サイトには驚くべき文言が記載されている。

ハローワークか地方公共団体が設ける公的な無料職業紹介の窓口に求職の申込をし、誠実かつ熱心に求職活動を行うこと

上記は「自立支援金」の給付を受ける要件として「収入要件」(住民税非課税相当+生活保護における住宅扶助基準額の合計を超えないこと)、「資産要件」(100万円以下)に加え「求職等要件」として定められ、さらにこれを受給しても「自立」できない場合は、生活保護を申請することが義務付けられている。

こういった補助金を申請する要件として、役所が「誠実かつ熱心に」何かをせよ、という表現を行政文書で指示するのはいかなる了見だろうか。いったい何をもって「誠実かつ熱心」と判断するのか。

まず「自立支援金」申請に際して、申請者はハローワークなどに求職者として登録を行い、受給開始後は「毎月1回以上、自立相談支援機関の面接を受ける」「毎月2回以上、無料職業紹介の窓口で職業相談を受ける」「原則週1回以上、求人先へ応募を行う」などの義務が課せられる。

これを果たさなければ「誠実かつ熱心に」求職活動していると言えない、というわけだ。

ただし「生活保護を申請中で、結果待ち」の場合は、申請時に求職者登録する必要はなく、受給後の求職活動も義務付けられない。

要するに「自立支援金」は、困窮者を求職者と生活保護受給者にふるい分ける制度である。

経産省「不正受給は犯罪であり、絶対に許しません」

安倍政権が実施した事業者向けの「持続化給付金」公式サイト(中小企業庁/経産省)には、現在以下の文言が掲載されている。

不正受給案件の調査を行っております。不正受給は犯罪であり、絶対に許しません。(中略)持続化給付金コールセンターでは、不正受給についての通報も承っております。

「持続化給付金」に限らず、コロナ関連の補助金などでは度々「不正受給」が発覚し、逮捕者を出している。もちろん、ルールを破るのは悪いことであるし、公金の詐取は犯罪として断固取り締まるべきだろう。

しかし、そもそも行政がやっていることは、不必要に支給のハードルを高くし、「不正」があった場合に見せしめ的に取り締まり、困窮者の側が公的扶助の申請を躊躇するように誘導するプロパガンダではないのか。

ましてや「不正受給についての通報も承っております」などという文言は、「密告の奨励」に他ならない。まるで共産党独裁国家である。

「共助」を担った企業のブラック化

菅義偉前首相は在任中、「自助・共助・公助」を目指すべき社会像として掲げた。このキャッチフレーズ自体は至極もっともなものだ。

政府は国民にまず「自助」努力を求め、どうにもならない最終段階として、生活保護などの「公助」を実施する。その中間にあるのが「共助」である。そして戦後日本社会では「共助」の機能が大きかった。

日本社会において長らく「共助」の機能を担ったものこそ、「企業」である。

日本企業は厳しい解雇規制によって生産性の低い被雇用者を抱え込み、源泉徴収制度を通じて税務署の職責を代行してきた。戦後日本の高度経済成長、終身雇用制度、官民一体の護送船団方式などが可能にした、特異な「共助」社会だった。

ところが、バブル崩壊と30年のデフレ不況によって、企業の「共助」機能は弱体化の一途を辿っている。

経済成長が望めない以上、企業は整備投資もせず、人的投資もしない。収益を維持・向上させるには固定費を下げる他なく、最も下げやすいのが人件費だった。

特にオーナー経営者型の中小零細企業では、雇用者側と被雇用者側の意識ギャップが起きやすい。雇用者は「低賃金で生産性の高い従業員」を求めるし、被雇用者側は「高賃金でストレスレスな職場」を求める。

このギャップの結果、多くの職場がブラック化した。

(続く)

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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