【安倍政権 七つの大罪】信じたのに救われなかった政権擁護派への教訓(後編)

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この記事は、【安倍政権 七つの大罪】信じたのに救われなかった政権擁護派への教訓(中編)の続きです。

(4)習近平批判の封殺を図った

「保守政権」たる安倍内閣は、覇権拡大を進める中国共産党政権を牽制すると見られていた。それは日米印豪の民主主義4カ国によるセキュリティ・ダイヤモンド構想や、インド太平洋戦略という言葉で首相自身の口から語られていた。

第二次政権発足早々に、首相は「日米同盟強化」を表明。自由主義諸国による国際協調を主軸にした「積極的平和主義」を掲げ、安全保障における日本の役割を強めてきた。「インド太平洋戦略」が米国の国策にも採用されたことは評価されるべきだろう。

一方で、平成26年6月と30年12月に出入国管理法の改正を行い、外国人の在留資格の拡大、外国人労働者の受入拡大を進めてきた。言うまでもなく、外国人労働者で最も多い国籍は共産中国である。

第二次安倍政権年表(危機管理)

そして令和元年6月のG20大阪サミットにおける日中首脳会談で、習近平に対し翌年の国賓招聘を打診し、受け入れられている。

折しも、香港では一国二制度を揺るがす「逃亡犯条例改正」に反対する大規模デモが連日行われ、ウイグルにおける深刻な人権弾圧問題が国際問題化している状況での国賓招聘であった。

G20のため来日する習近平に対し、中国における人権侵害問題に取り組む在日外国人と、それを支援する日本人などが抗議活動を呼びかけたところ、中国側が外交ルートを通じ日本政府へ圧力をかけた。

なんとこれに応える形で、自民党所属の国会議員や保守系メディアなどが「安倍首相の顔に泥を塗る気か」と批判し、抗議活動を封じようとしたのである。

安倍首相は親中派の二階俊博氏を党幹事長として重用し、その二階幹事長は中国による覇権戦略であるところの「一帯一路構想」への協力を表明している。

国内においては独裁と人権弾圧、対外的には軍事拡張を進める習近平政権に対し、安倍政権は口先で牽制しつつ、主体的かつ実効的な対策を打っていない。その外交方針は矛盾を孕み、末期に近づくにつれ中国への傾斜を強めていったと見るべきだろう。

(5)新型コロナの水際対策に失敗した

新型コロナウイルス感染症に関して、安倍政権の対応は後手後手にまわった。遅くとも令和2年1月の時点で、新型肺炎の深刻さは政権として認知していた筈である。現に1月22日、日本外務省は武漢への渡航注意情報を発している。

1月末には中国の大型連休「春節」が迫っており、この前に中国人の入国を制限すべきだった。結果的に中国政府が団体渡航を制限したため中国人観光客の来日は減ったわけだが、日本政府の危機管理能力が問われる事態となった。

幸いというべきか、日本国内で流行した新型コロナウイルスは、当初懸念されたほどの強毒性を持っていなかった。欧米で多くの死者を出したウイルスと異なるのかは、まだ明らかになっていない。いずれにせよ感染症というものは初動の水際対策が全てである。

安倍首相は2月に異例の「全国一斉休校」を要請。3月に東京五輪と習近平国賓来日延期が正式決定となり、4月になってようやく緊急事態宣言を発出した。

この背景に、中国側の「新型肺炎で過剰に騒がないで欲しい」という外交圧力と、習近平国賓招聘を実現したいという政治的思惑があったのは間違いない。

そもそも、危機管理というのは政治の最大の役割である。

私は安倍政権のコロナ対策を見るにつけ、阪神大震災の村山富市政権、リーマンショックの麻生太郎政権、東日本大震災の菅直人政権を想起し、同様に危機対応のミスによって安倍政権の命脈が尽きることを予感し、各種媒体で警鐘を鳴らしたのだが、予想通りの結果となった。

(6)消費税減税のチャンスを無にした

新型コロナウイルス感染症は全世界の経済に大打撃を与えた。安倍首相はかつて消費増税について「リーマンショック級のことがない限り実行する」と宣言し、これを決行している。

そのロジックであれば、リーマンショック級どころでない現況において減税が選択肢に入らないのはおかしい。それでなくとも、せっかくのアベノミクスが消費増税の悪影響で充分な結果を出せていないのである。

消費増税を強硬に進めてきたのは財務省だが、新型コロナウイルスのパンデミックは財務省を黙らせる最大の好機であった。実際に特別定額給付金の決定にあたっては公明党の圧力もあり、財務省の反対を押し切っている。

「首相が消費減税に踏み切るのではないか」という観測は自民党内にもあり、退陣表明直前まで囁かれていた。もし安倍首相が減税を掲げて解散総選挙に打って出れば、コロナ対応で失速していた政権支持率もV字回復し、宿願たる憲法改正への道筋もついたことだろう。

北朝鮮にいる拉致被害者については、武漢へチャーター便を送って邦人救出したのと同様に、平壌へチャーター便を送るよう救う会九州が3月に提案したが、政権側は完全に無視した。

たとえ断られたとしても打診さえしておけば、国際社会における北朝鮮の立場はかなり悪くなっていただろう。

これらの問題でわかることは、安倍晋三氏の政治センスの無さである。風を読み、世論を味方につけるのに聡かったのは小泉純一郎元首相だが、安倍氏は小泉政権の官房副長官として一体何を学んでいたのだろうか。

(7)全てが「やるやる詐欺」だった

安倍首相は平成29年の憲法記念日に改憲派の集会へビデオメッセージを寄せ、自衛隊を憲法に明記するなどの「加憲」を柱とした憲法改正を2020年までに目指すと表明した。

同様のビデオメッセージは以後毎年寄せられており、令和2年(2020年)の憲法記念日には以下のように述べている。

「私は、『2020年を新しい憲法が施行される年にしたい』と申し上げましたが、残念ながら、いまだその実現にはいたっておりません。(中略)憲法改正への挑戦は決してたやすい道ではありませんが、必ずや皆さんとともになし遂げていく。その決意に揺らぎは全くありません」

この5月時点で、安倍首相の自民党総裁任期中に改憲の国会発議=国民投票を実施することはスケジュール的に絶望視されていた。そのことは首相本人が一番わかっていた筈である。

拉致問題についても6月時点で「さまざまな困難があるわけだが、なんとしても被害者が(帰国を)実現するために、政府として、日本国として、さまざまな動きを見逃すことなくチャンスを捉えて果断に行動して実現していきたい」と述べている。

6月18日には記者の質問に答える中で、憲法改正について「この任期内にやり遂げなければならない」、拉致問題について「今後も政権の最重要課題として、私の使命として取り組んでいく」と明言した。

安倍首相の発言を追っていくと、「あらゆる手段を尽くして」「果断に行動して」「全力を尽くして」といった勇ましい表現が随所に見られる。この傾向は政権末期に至るまで変わらなかったわけだが、果たして言葉と行動は一致していただろうか。

これは安倍首相だけを責めるわけにはいかないのだが、日本の政治家というのは言葉が軽い。選挙公約というものは達成されなくても当然という感覚が国民の側にもある。しかし民主主義国家においては、政治家が公的な場所で嘘を言ってしまうと致命傷になる。

安倍首相は本心から改憲を目指し、拉致被害者救出のために努力してきたのだろう。しかし実際の政策は、それらを困難にするものであった。経済・財政政策も、外交・安全保障政策も、言葉と行動の矛盾が多々見られた。

そしてそれらの矛盾への建設的批判に対して安倍首相が正面から応えることはなかった。カルト的擁護派は表面的な言葉だけを信じ続け、最終的に裏切られた。

「後ろ向きに倒れた」

第一次安倍政権の退陣後、私の尊敬する保守活動家は残念そうに「安倍さんは後ろ向きに倒れた」と表現した。その人はすでに鬼籍にあり、今回の退陣を評価することはできないが、存命であれば何と言っただろうか。

「後ろ向きに倒れる」というのは抽象的な表現だが、要するに攻めの姿勢で失脚するのか、逃げの姿勢で退陣するのかの違いであろう。

私は安倍首相が第一次政権と同じく持病を理由に退陣したことに、大いに失望した。前回に比べて「今回は良い辞め方をした」という評価があることも承知している。前回は施政方針演説直後の辞任表明であり、その際持病のことを明かさなかったゆえの「政権投げ出し」批判もあった。

もちろん、「病気と治療を抱え、体力が万全でないという苦痛の中、(中略)総理大臣の地位にあり続けるべきではないと判断」したという人に対し、命を削ってでも続投せよと言える人間はいない。

しかしそれにしても、つい最近まで発せられていた言葉の勇ましさは何だったのかと思わざるをえない。8年間に及ぶ安倍政権を振り返ってわかることは、安倍政権の内包する矛盾、首相自身の言葉と行動の矛盾、そこからくる政権運営の行き詰まりである。

私は首相の持病悪化を疑うわけではない。むしろ政権運営の行き詰まりが、安倍首相の心身に悪影響を与えたのではないかと想像する。首相は激務であり、そのために任期中に急死した例もある。日本で最もストレスのかかる仕事、それが内閣総理大臣であろう。

私が言いたいのは、そのストレスの原因の多くが首相本人にあり、また首相に盲従し結果的に政権のレームダック化を推進したカルト的擁護派(いわゆる安倍信者)たちにあるということだ。

今後はいかなる人が首相にあろうとも、その支持者たちは是は是とし、否は否として直言せねばならない。それが政権のためであり、ひいては国益に資することになるのだ。われわれは安倍政権の約8年間でそれを学んだのである。

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本山貴春(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。独立社PR,LLC代表サムライ☆ユニオン準備委員長。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。近著『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』未来小説『恋闕のシンギュラリティ』(いずれもAmazon kindle)。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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