【安倍政権 七つの大罪】信じたのに救われなかった政権擁護派への教訓(中編)

この記事は、【安倍政権 七つの大罪】信じたのに救われなかった政権擁護派への教訓(前編)の続きです。

(3)自らの国会答弁で対北交渉を不可能にした

安倍首相は現職国会議員の中で最も拉致被害者家族に寄り添ってきた政治家の一人である。そして、拉致問題解決は安倍政権にとって最優先課題であると繰り返し明言してきた。

令和2年6月5日、北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの父である横田滋さんが亡くなった。この時の安倍首相のコメントから一部を抜粋する。

「滋さんが早紀江さんと共にその手でめぐみさんを抱きしめることができる日が来るようにという思いで今日まで全力を尽くしてきたが、そのことを首相としてもいまだに実現できなかったこと、断腸の思いであるし、本当に申し訳ない思いでいっぱいだ。(中略)さまざまな困難があるわけだが、なんとしても被害者が(帰国を)実現するために、政府として、日本国として、さまざまな動きを見逃すことなくチャンスを捉えて果断に行動して実現していきたい。」
(時事通信)

さらに安倍首相は8月28日の辞意表明記者会見において「拉致問題をこの手で解決できなかったことは痛恨の極み」とし、記者からの質問において以下のように述べた。

「もちろんそう簡単な問題ではないから今でも残っているわけであります。ありとあらゆる可能性、様々なアプローチ、私も全力を尽くしてきたつもりであります。その中で、例えばかつては日本しかこれは主張していませんでした。でも、国際的にこれは認識されるようになりました。たくさん努力をしてきた。アメリカの大統領が北朝鮮の首脳と、金正恩委員長とですね、一対一のテタテの場面でもこの問題について言及し、また習近平主席も言及し、そして文在寅大統領も言及する。これは今までになかったことであります。ただ、もちろんそれによって結果が出ていない。でも、私は最善の努力をしてきた。ただ、ただですね、申し上げましても、御家族の皆様にとっては結果が出ておられない中において、お一人お一人とお亡くなりになっていく。私にとっても本当に痛恨の極みであります。常に私は何か他に方法があるのではないかと思いながら、あらゆる、これは何をやっているかということを残念ながら、外交においてはそうなのですが、特にこういう外交はそうなのですが、御説明できませんが、言わば考え得るあらゆる手段を採ってきているということは申し上げたいと思います。」
(首相官邸HP)

北朝鮮による拉致問題が「そう簡単な問題ではないから今でも残っている」のは全くその通りであろう。国際社会に対し拉致事件の事実を広報し、北朝鮮による犯罪として認知せしめたことは安倍首相の功績である。

しかし首相もいうように、「御家族の皆様にとっては結果が出ておられない中において、お一人お一人とお亡くなりになって」いるのであり、拉致被害者が帰国していない以上、「最優先課題」は果たされていないのだ。

まず、第二次安倍政権の対北交渉の流れを確認しよう。政権交代早々に、飯島勲内閣参与(小泉政権のラスプーチンと呼ばれた人物)を平壌に派遣。平成26年3月から外交当局による対北直接交渉を開始した。

第二次安倍政権年表(拉致問題)

同年5月には「ストックホルム合意」を結び、北朝鮮は残存する日本人拉致被害者のための「特別調査委員会」を設置したとされている。

これによって安倍政権は早くも同年7月に対北制裁緩和を決定。以降数度にわたり外交交渉が行われるものの、交渉の実態は北朝鮮が日本から譲歩を引き出すためのものであり、その必要が無くなったのか平成28年2月には特別調査委員会の一方的な「解体」が伝えられている。

そもそも、北朝鮮当局が日本人拉致被害者の所在を把握していない筈がない。把握どころか、厳しい管理下に置いている筈であって、改めて調査するまでもなかったのだ。第二次安倍政権前半の対北交渉は北朝鮮側に乗せられた茶番劇に終わってしまった。

私は本稿(前編)の文頭で「決定的なタイミングで、それらの宿願は果たされないと確信」したと書いたが、それは平和安全法制(安保法制)における首相の国会答弁である。

すなわち、中山恭子参院議員(次世代の党・当時)による「拉致被害者を自衛隊が救出できるように法整備すべきではないか」という趣旨の質問に対する回答であった。

「自衛隊の活動については、国際法上の観点や我が国憲法の観点から一定の制約があり、今回の法整備によっても自衛隊の活用には限界があることも御理解をいただきたいと思います。」
(平成27年7月30日参議院特別委員会)

同様の見解はさらに過去の首相答弁にも現れている。

「北朝鮮は既に日本の罪もない人々を多数拉致をしている。当然そして混乱状態では残念ながらその人たちの安全を私たちは確保できない。その際は例えば可能であれば韓国や米国に依頼をする。」
(平成26年3月4日参議院予算委員会)

「もし北朝鮮において内乱的状況が発生した場合においては現行の在外邦人を保護するための枠組みとしては自衛隊法に基づく在外邦人等の輸送があるが、当該輸送を行う際には派遣先国の同意を得ることが前提となるため、御指摘の北朝鮮の内乱のような事態に対して拉致被害者を救出することは困難である」
(平成26年3月6日参議院予算委員会)

「わが国の場合は憲法第9条の制約があるため御指摘のような事態、すなわちわが国に対する武力攻撃が発生しているわけではない北朝鮮の内乱のような場合には、一般的にはただちに自衛権発動の要件にあたるとは言えない。自衛隊の特殊部隊を救出のために派遣するといった対応を取るのは憲法上難しい。」
(同上)

私は、平成26年の首相答弁に強い危惧を抱いた。この間、まさに北朝鮮ベースの日朝交渉が行われていたわけである。そこで、安保法制が成立する直前の平成27年6月、救う会九州主催の集会において以下のような決議文を提案し(決議文は私が原案を起草、当時の救う会福岡代表が修正)、採択された。一部抜粋する。

「拉致は直接侵略である。外交交渉で北朝鮮が拉致被害者を帰さない以上、政府は北朝鮮との一切の交渉を取り止め、体制を立て直すべきだ。主権が侵害されている以上、拉致被害者救出以外の他の交渉は一切してはならない。拉致対策本部を対北朝鮮主権回復対策本部に改変し、防衛大臣を担当大臣となし、他の大臣はこれに協力する、あらゆる方策をとれる体制にした上で、一刻も早く北朝鮮に拉致された全ての日本国民を救出して、主権を回復することを強く要求する。」
(第13回北朝鮮人権侵害問題啓発集会in九州 決議文)

前述の中山議員による国会質問は、この翌月になされたものであった。

この決議文に対する安倍政権の回答は、翌年の集会開催において意外な形で帰ってきた。毎年集会の会場を提供してきた福岡市役所へ、「拉致は侵略だ」というキャッチコピーを印字したチラシ案を提出したところ、これが不許可となったのである。

そもそも集会を主催しているのは救う会であり、福岡市は会場を提供しているに過ぎない。その福岡市が、「この標語を使用するなら会場を貸さない」と宣言したのだ。この不可解な圧力の背景に、政府拉致対策本部の意向があるのは明らかだった。

中山議員は先の国会質問の中で以下のように指摘している。一部抜粋して紹介する。

「海外で日本人が被害に遭う事件の多くは、当該外国の権限ある当局が存在しているような状況ではありません。各地で勃発しているテロ事件、ISILの人質殺害のような事態では、実効支配している者は国家ではなくテロ集団などであり、この実効支配している者そのものが人質の実行犯であることが多くあります。北朝鮮による拉致問題も同様な条件と考えられます。(中略)昨(平成27)年5月15日に出された安保法制懇(※)の報告書では、領域国の同意がない場合でも、ちょっと中略しますが、当該外国人を保護、救出するためにその本国が必要最小限度の武力を行使することも、国際法上自衛権の行使として許容される場合がある、憲法が在外自国民の生命、身体、財産等の保護を制限していると解することは適切でなく、国際法上許容される範囲の在外自国民の保護、救出を可能とすべきである、国民の生命、身体を保護することは国家の責務でもあると報告されています。」
(平成27年7月30日参議院特別委員会)

安保法制懇…安倍首相主催のもと、学者・シンクタンク代表者・自衛隊幹部OBなどによって開催された、安保法制に関する懇談会。

さらに中山議員は次のように説く。

「救出できる体制、法整備を行っておくことは国の責務でありまして、国際法上も憲法上も、憲法上もといいますのは、これは単純な個別的自衛権の話でございますので、憲法上も認められた自衛権の範囲の中の問題だと考えておりますので、是非その法整備を行っていただきたいと考えております。」
(同上)

政府は北朝鮮による日本人拉致を「我が国の主権及び国民の生命と安全に関わる重大な問題であり、国の責任において解決すべき喫緊の重要課題である」(拉致対策本部HP)と明記している。しかし救う会集会の例に見られるように、拉致を「侵略」とする指摘は安倍政権においてタブー扱いされていたのだ。

安倍首相は中山議員の「(邦人救出は)自衛権の範囲の中の問題」という指摘には答えず、「不断に検討を行っていくべき課題」「不断の検討を行っていきたい」と繰り返すのみであった。

平成28年に北朝鮮が特別調査委員会の解体を宣言して以降、日朝直接対話は閉ざされる。

そこで安倍首相は懇意になったトランプ大統領にその望みを託す。平成30年から翌年にかけて三度の米朝首脳会談がもたれ、その中で大統領は金正恩に対し日本人拉致問題の解決を促すも、金正恩は「解決済み」として取り合わなかったという。

安倍首相も自ら日朝首脳会談を北側に呼びかけたが、全く相手にされずに安倍政権における対北交渉は頓挫した。

安倍政権下では国際社会に対し拉致問題に関するアピールを地道に実施しており、国連人権理事会などでも繰り返し対北非難決議が出された。ミサイル開発、核実験、自国民への人権侵害もあり、北朝鮮へ最大限の国際的圧力もかけられたが、拉致被害者の帰国には結びつかなかった。

安倍首相が辞意会見の中で述べたように「ありとあらゆる可能性、様々なアプローチ、私も全力を尽くしてきたつもり」というのはその通りだろう。既存の政治家のうち、他の誰が総理大臣でも、安倍晋三氏以下の成果しか出なかったかも知れない。

しかしそれでも、私は安倍首相の「自衛隊の活動については、国際法上の観点や我が国憲法の観点から一定の制約があり、今回の法整備(安保法制)によっても自衛隊の活用には限界がある」という国会答弁が安倍政権における拉致被害者帰国を不可能にしたと指摘しておく。

北朝鮮の金政権にとって最も重要なことは、自らの支配体制を永遠に維持することである。先の米朝首脳会談は、まさにその点において北側が危機感を抱いたからこそ実現した。同時に、米側も極東で紛争を起こしたくないという思惑があり、その両者の目的は今のところ達せられている。

そのような中で、日本が拉致被害者救出のために限定的にせよ武力行使を行う可能性が生ずれば、それだけで北朝鮮は深刻な危機感を抱く。

それは、国内の9条カルト(教条的護憲派)によるハレーションを避けるため憲法解釈にまで言及しないとしても、われわれが提案した「拉致問題担当相を防衛相に兼任させる」だけもで可能だっただろう。 実際の内閣人事がそのような視点からかけ離れたものであったことは言うまでもない。

最終的に日本が北朝鮮に武力行使を行うとしても、実際には以下のような手順が必要だ。

(1)自衛隊による邦人救出を合憲とする憲法解釈
(2)法律改正
(3)予算措置
(4)自衛隊の訓練
(5)敵地に関する情報収集

このように徐々にエスカレーションする中で、北朝鮮が危機感を抱き、先方からわが国へ日朝交渉を求めてくることになるだろう。安倍首相はその入り口を自ら閉ざしてしまったのである。

(続く)





本山貴春(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。独立社PR,LLC代表サムライ☆ユニオン準備委員長。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。近著『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』未来小説『恋闕のシンギュラリティ』(いずれもAmazon kindle)。

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