「安倍政権を批判する者は反日」と叫ぶ人々に伝えたい、戦前日本の失敗とは

政治
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「右翼と左翼」「保守とリベラル」「安倍政権支持派と反安倍政権派」――日本内には様々な政治的対立軸が存在する。

SNSでは、「保守」や「愛国者」を自称する人たちが、敵対する立場、とりわけ野党やマスコミ、またそれらを支持する者を「叩く」といった行為が多くみられる(逆も然りだが、ここではあえて触れない)。

しかし、相手を「叩く」という行為にどれほどの意味があるのだろうか。「朝日新聞を廃刊に」「反日野党を潰せ」とSNSに書き込んだところで、新聞社がなくなるわけでも野党がなくなるわけでも、残念ながら相手に勝つことができるわけでもない。お互いに叩き合いをすればどうなるか。世論が分断されるのだ。

世論が分断された状態を最も望んでいる者――それは共産主義者だ。

皇太子時代の上皇陛下の教育を担当した経済学者の小泉信三は、『共産主義批判の常識』の中で次のように述べている。

共産主義者にとっては共産主義国以外においては、秩序の破壊ということが当然最も大切な本務とならなければならぬ。(中略)民衆は現在事物を堪え難しとする状態こそ共産主義者にとっては最も働きやすく、収穫多き状態であろう。
(小泉信三『共産主義批判の常識』)

相手にレッテルを貼り、それを叩いて喜ぶという自己満足な行為ほど愚かなものはない。そうして、敵対するアイデンティティ同士が、言論の内戦状態に陥り、まんまと共産主義者が活動しやすい土壌を整えているのだ。本来の敵であるべき共産主義者を、知らず知らずのうちに助け、自らの首を絞めているとはなんとも哀れなことだ。

戦前の日本にも同様の構図が見られた。明治以降、特に大正から昭和にかけて、日本は産業国家になるとともに、格差や貧困や労働問題に直面した。その当時の国内情勢を、評論家の江崎道朗氏は次のように分析している。

大正時代以降、このような貧困問題への解決策を提示しようとたのは、主として社会主義者とキリスト教徒だった。(中略)その二者のうちでも、社会政策としてきちんと解決策らしき政策を掲示することができたのは、やはり社会主義者たちであった。
(江崎道朗『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』)

だが、保守派の多くは、道徳や家族制度、国防や外交問題のほうに注目し、経済問題の重要さをわかっていなかった。
(同上)

当時の保守派は、個人の生活という具体的な問題よりも、国家が抱える抽象的な問題にしか目が向かなかったようだ。しかし、国防や外交問題というのは、国民一人一人の安定した生活があってこそ、成り立つものである。保守派が経済政策を軽視した結果、

目の前で苦しんでいる貧民や、労働者の劣悪な環境をなんとかしたいと正義感に燃える人ほど社会主義に惹かれていくのは当然のことであった。
(同上)

しかしながら、

貧困や劣悪な労働環境に苦しむ同胞をなんとか救いたいという動機から、社会主義に関心を持った真面目な人々に対して、政府や「右翼全体主義者」は、理論的に反論するのではなく、ただただ取り締まりと弾圧で臨んだのである。
(同上)

ここで一つ指摘したいのは、共産党は共産党員だけで構成されているのではないということだ。アメリカのエドガー・フーヴァーFBI長官は、共産主義運動に関与する人物を、次の五つに分類している(佐々木太郎『革命のインテリジェンス』)。

 一、公然の党員
 二、非公然の党員
 三、フェロートラベラーズ(同伴者)
 四、オポチュニスト(機会主義者)
 五、デュープス(騙されやすい人) 

公然の党員とは、共産党に所属していることを世間に公にして活動している者を指す。非公然の党員とは、共産主義を信奉していることや共産党に所属していることを隠し、公然の党員とも接触せず、共産党の極秘活動に従事する党員のことである。

フェロートラベラーズは、共産党に所属してはいないが自発的に共産党を支援する人、オポチュニストは利益が目的で一時的に共産党に協力する人、そして、デュープスは共産党やその関連組織の宣伝に情緒的に共感して、知らず知らずのうちに共産党に利用される人を意味する。

戦前の日本では、労働問題や貧困問題に真面目に取り組んでいたのはキリスト教徒と社会主義者であった。(中略)その結果、貧困問題に取り組もうとしたり、社会の改革を訴えようとしたりすると、社会主義の術語と論理で語ることになり、いつのまにか、フェロートラベラーズやデュープスになってしまったのである。
(同上)

貧困問題に苦しむ国民を助けようとした者たちを、政府は「非国民だ」とレッテルを貼って排撃した。日本はますます分断され、その結果どうなったかは言うまでもない。

昨今の国内情勢に話を戻すと、安倍政権下での2度の消費増税、それに追い討ちをかけるように日本を襲った新型コロナウイルスの影響で、日本経済は確実に落ち込んでいる。

SNSでは、政府に生活の補償を求めることから「安倍政権を批判する」者たちと、なにがなんでも「安倍政権を守る」べく、政権批判をする人たちを「反日」だとレッテルを貼って批判する、自称「愛国者」たちとの対立が目立つ。

実際には、安倍政権を批判する声は、日本を貶めようとするためのものばかりではい。経済状況の悪化に伴う雇用環境の悪化や、生活の保障を真に訴えている声もある。しかし、そういった国民の日常生活を思わずに、国内対立が進むと、真の「反日」勢力である共産主義勢力が台頭してくるのだ。

本当に国を守りたいのであれば、真の敵は誰なのか、為すべきことは何なのかをしっかりと歴史から学ぶことが必要だ。

経済は人の心をつくり、心は思想をつくる。共産主義思想は、労働者階級の境遇をしっかりと保証してさえいれば、蔓延することはないのだ。

いま必要なことは、相手を批判することでも「叩く」ことでもない。国を豊かにし、そして強くする「富国強兵」である。

永田町子/平成9(1997)年生まれ。団体職員。

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江崎道朗・著
『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』
PHP新書
ロシア革命が成功したあと、レーニンは世界革命を遂行すべく、「コミンテルン(共産主義インターナショナル)」をつくる。それは恐るべき思想と悪魔的手法に裏打ちされた組織であった。そして大日本帝国は、やすやすとその謀略に乗せられ、第二次大戦に追い込まれていく。なぜ、そうなってしまったのか? 実は、その背後には、日本の「自滅的」な大失敗があった。
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